愚直な刀の穂先も愚直
◆◇◆◇◆
『さてさて』
意気揚々と大小ふた振りのうち、小を俺に手渡し、大を流れる水の様に美しい所作にて抜刀した。九重さんはゆっくりと牙の峰に対し剣を当てると今一度納刀した
『早くやりなさい…』
「静かに」
『何よ』
『お姉ちゃん、九重さん、集中してるから』
居合いだ。九重さんは今から居合いをしようとしている。俺たちは静かに見守らなければ無作法というもの
2度3度と九重さんは刀を当てると瞬間。空気が変わった
『いざ』
一言。何かを呟いた刹那。抜き放たれであろう刀は"カン"という音と共に牙を打ち飛ばした
『ありゃ?』
「あれ?」
宿屋の裏手にある古びた机の隙間に置いてあっただけの牙なため、宙を舞ってしまうのも仕方ないが九重さんはとても慌てていた
『ちょっとどこに飛ばしてるのよ』
『これはその、ちょっとした失敗でござる
次こそは!』
『はいはい、次はって…』
『どうしたでござるか、早く拾って欲しいでござるよ』
エルゼさんが牙を拾い上げて固まった。何事かとスマホを取り出しつつ近寄る
「エルゼさん?」
『切れてる』
エルゼさんが拾い上げた牙を後ろから覗き込むとそこには綺麗な一本筋が通っていた
「おぉ…」
『な…納得いかない』
『どうしたでござるかぁ』
『リンゼ!新しい牙を!』
『え?でもこれはフジノミヤさんの』
「いいですよ、面白そうですし」
◆
『今度こそ、いくでござる』
『きっとダメージが蓄積してたのよ
新しいのなら』
負けず嫌いな2人の戦いが始まった。使い道に困っていた所に面白そうな競争が始まったので牙を提供してみた
『ふぅ…』
九重さんは改めて所作に入った。刀が2、3度と牙に触れる。俺たちが見守るなかでその一刀が牙を抜いた
『何よ今度は空振り?』
「そう見えるよね」
『ふっふっふっ、見るでござる』
九重さんが納刀し、牙の上部を持ち上げた。それは上下に分かれ、九重さんの手と机で二等分されていた
『『嘘…』』
牙が綺麗に両断されていた
『見たでござるか!拙者の技を』
「凄い、綺麗に…」
受け取った牙を見てみると少しばかりの違和感を受けた。刀の入りは綺麗ながら抜けに差し掛かるにつれ、断面にやや荒目が目立っている
「(これはどういうことだろう)」
『どうしたでござるか?』




