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過ぎていく日常の一幕

◆◇◆◇◆


「…」


 朝が来た。いつもと変わらない朝だ。窓から差し込む薄らとした朝陽を背にベッドから身体を起こす。眠気の取れた朝の目覚めはハッキリとしていた。鏡の前に立ち自分の顔を見る


 癖毛が少し伸び、髭も薄らと伸び始めている。身嗜みを整えるにしてもさてどうしたものかとベッドの脇に置いてあるウエストポーチの中から短刀を取り出す。短剣よりマシか頬に当て髭を落としていく、顎の裏は流石に怖くてやめた


 伸びた髪を後ろ手に纏め、寝巻きから外着の装備に着替える。全身皮装備の完全武装だ。ここまでしてもまだ時間が残っているので机に向かう


 魔法の手引きという本の残りわずかになった頁を読み進めながら仲間がやってくるのを待っておく、しばらくすれば床の軋む音の後、勢いよく開かれる扉が壁に当たらない様に扉の勢いを殺しつつ立ち上がる


『フジノミヤ殿!』

「『おはようございます』『九重』さん」


 長い黒髪を後ろ手に手拭いで纏め、羽織に着物、袴と和服に似た"イーシェン"なる場所の装いに身を包んだ女性、九重八重が扉をノックすることなく俺の部屋へと入ってくる


 見た目は大和撫子然とした姿見というが行動は柴犬が如く破天荒ときた。その明るさに振り回されるのは1度や2度ではないが、二の足を踏む俺にとってはとても助かる存在である



 すれ違う人に会釈をしながら宿屋の1階へ向かうと料理の匂いと厨房の熱が出迎えとして向かい風を生む


『フジノミヤさん、おはようございます』

「『おはようございます』『ミカ』さん」


 厨房では宿屋『銀月』の赤毛のポニーテールの従業員ミカさんが朝食の準備を始めていた


『いつも朝早いですね』

「んと、朝、素早い?あぁ

『癖で起きてしまうだけ』ですよ」


 挨拶を済ませつつ朝食を九重さんと頂く、パンにハムエッグ、野菜スープにトマトサラダ。バランスの良い食事に満腹感を受けつつ、「ごちそうさまでした」と手を合わせて、仕事の関係で宿屋の裏手に向かった



『来るでござる?』

「こればっかりは運ですかね」


 今日は仕事を出した側故に指定した場所で待ち人を待つことになっている。内容は俺が作った『魔法道具』なる代物が正常に動作するかを確認して貰うといった内容だが果たして受けてくれる人が居るのかどうかと少し空を眺める


 雲のかかり気味の晴れと言った様子はあまり好ましくない今の状況を表している様で、その場合この後に()が降るかも知れないことに一抹の不安を覚えてしまう


「俺も魔法が使えたらな」


 作ることはできる道具の試運転に数十万、それが確認できたところで自分は使えないため、どう転んでも赤字なのは明白なのだが


 過ごしやすい気候と穏やかな時間の流れのおかげで不安感はないものの、暇なこと、この上ない故に不思議と欠伸が出てしまう


 今日1日を無駄にしていいのか疑問ではある。依頼の条件にした昼までは居るつもりだが依頼板から人が来なかったら協会に行こうかと思ったが今は早朝だ。気長に待つとしよう

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