緩やかな歩みもまた進み、日進月歩
◆◇◆◇◆
なんか2人して出て行ったけどなんだろうか
「ふたりは何処へ?」
『稽古をつけると出て行かれましたね』
「怪我しなければいいけど」
『心配ですか?』
「ん〜、回復薬の準備はしておりますので特には」
『用意がいいんですね』
「心配性なだけです」
◆
数分して帰ってきた九重は脇腹付近を押さえ、顔色はいいものの、表情が芳しくない様子だった
『うぐっ…』
辛そうなので回復薬を差し出した
「九重さん回復薬を」
『…かたじけない』
そんな様子を険しい顔で眺める子爵が俺に視線を移した
『お前』
「はい」
何かまずい事をしたかな
『回復薬に頼ることはやめておいた方がいい
それは代謝を上げ傷を癒してくれるが
多用できぬ代物だ。注意しろ』
「お心遣い感謝します」
回復薬を飲んだ九重の顔色が良くなるものの、疲労感が顔に出てきていた。なるほど、多用できない理由はここにあるのか
『御指南かたじけなく』
回復した九重は子爵に頭を下げた
『お前の剣は影がない。虚実織り交ぜ
引いては進み、緩やかにして激しく
正しい剣だけでは道場剣術の域を出ぬ
それが悪いとは言わん。強さとは
己次第で違うものなのだからな』
子爵の射抜くような目が九重を捉える
『お前は剣に何を求める?』
九重は何も答えず、ただ両手を見つめていた
『まずはそこからだな。されば道も
見えてこよう。見えたなら
またここへ来るがいい』
子爵はそう言い残し応接間から去っていった
◆
九重が乗る馬の手綱を取りつつ、馬を歩かせる。俺に慣れてくれたのか俺の"ど下手くそ"であろう手綱に合わせて動いてくれる2馬が愛おしい
検問所で試しにメダルを見せると素通りすることができた。いや、爵位のある人の信頼感が凄まじいな
「どうするでござるかなぁ…」
なんか気が抜けてるな…。落ち込むか放心する九重と敵と対峙した時の凛々しさとでは気迫が別人だら、遠くの空に何を見ているのやら
「九重さん、俺はリフレットの町まで戻りますが
何処か行く宛はありますか」
『どうするでござるかなぁ』
ダメだこりゃ
『世の中は広いでござるな…
あのように強い御仁がいるとは
拙者はまだまだでござる…』
しみじみとつぶやく九重。よほどこたえたんだろう
『特に最後の一撃。一体なにが起こったのか…
拙者は確かに頭に下ろされた剣を
受け止めたと思ったのでござるが
剣は横から来た…』
と言いつつも稽古の内容を振り返っている辺り、何か引っ掛かりがある様子だ
『あの太刀筋を見ることができれば…』
「(観戦して動画とか撮っておけばよかったかな)」
◆
『フジノミヤ殿は何か
武術をやられておりましたか?』
「ん〜これと言ってはないかな
その手の才能はからっきしだったし」
『何か助言が欲しいでござる』
「(んな、無茶な)」
履歴書に書けないものばかりを修めて、結局中途半端に終わらせて満足する程度の俺だ。その点からすれば九重の太刀筋はさながら水と表せる程美しく話せることなど無いに等しい
流れる様に振り下ろされた黒ローブへの一太刀は素人同然の俺でも魅入りそうになった。治療でそれどころではなかったが
まさしく手本とできるひと太刀だった
「…正しい剣ねぇ」
『フジノミヤ殿?』
「昔の話にひとつ面白いものがあって
燕返しってのがあってこれが我流だなんだと
人の中でも賛否分かれる話が…」
『その話是非!』
食いつき凄。元気になればと俺はその剣豪の話をした




