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やらないといけないことがまたひとつ

◆◇◆◇◆


 玄関前で馬車が停まり、スゥが扉を勢いよく開けて出て行った。レイムが促してくるので俺も馬車の外へとでる


「九重さん」

『かたじけない』


 御者席から九重が降りようとしていたので手を差し出し、降りる支えになる


『お帰りなさいませ、お嬢様!』

『うむ!』


 ズラッと並んだメイドたちが一斉に頭を下げた。

一糸乱れぬ作法の何と美しいことか。スゥの後ろについて向かい玄関をくぐった。玄関先から敷いてある赤い絨毯は玄関扉の先にある大きな階段の奥の奥まで続いていた。そこから一人の男性が駆け降りてきた


『スゥ!』

『父上!』


 スゥは男性の元に一直線に駆けて行き、勢いよくその胸に飛び込んだ


『良かった。本当に良かった…!』

『大丈夫、わらわはなんともありませぬ

 手紙にそう書いたではないですか』


「(手紙?いつ書いたの)」


 俺は驚きのあまり後ろにいるレイムを見たがニコやかにしているばかりで話そうとはしてくれなかった


「(なるほどこれが心配無用な訳か)」

『手紙が着いたときは

 生きた心地がしなかったよ…』


 しっかしまぁ、溺愛っぷりが一挙手一投足から伝わってくるな



「(スゥの父親。オルトリンデ公爵、王様の弟か)」


 立場からしてとても敵が多いだろうなと勝手に想像する。目の前の男は家族思いで体格からして武芸者なのが明白だ、そして顔は柔和な感じで、優しさを感じさせる見た目をしていた


 そんなことを考えていると公爵はやがてスゥから離れると、俺たちの方へ歩み寄って来た。俺は土下座をしたが今になって分かった。あれ別に作法とかでもなかったぽい



『君たちが娘を助けてくれた冒険者たちか

 礼を言わなければな。本当に感謝する

 ありがとう』

「(いただけないな)」


 王の弟ともあろうお方が簡単に頭を下げた。嫌な記憶が頭を過ぎる。善人や優しい人、聞き分けのいい人、分け隔てのない人は敵が多い、誰の敵にもならないというのは誰の味方にもならない───あぁ、最悪の気分だ


 スゥの父親が頭を上げ、俺に手を差し出してきた


『改めて感謝を』


 なんとなく分かる。スマホに伸ばそうとしていた手を彼の手に重ねる


『自己紹介させてもらおう

 アルフレッド・エルネス・オルトリンデだ』

「(あ、ダメだ。スマホ)」


『光る小さな箱か』

「これはスマホと言います公爵殿」


『スマホ、聞かぬ魔法道具だな』

「不快であれば仕舞います」


『いや構わぬ、見たところ

 それがないと会話に難があると見える』

「お心遣い感謝します」


『父上、こちらの方と街を周ってきます』

『おぉそうか』


 え?何でスゥと九重がどっか行くの?


『どうだろう、フジノミヤ殿

 私達は少し腰を落ち着けて話さないか?』

「え?」



 庭に通され、オルトリンデと向かい合わせに座り茶をしばいてるこの状況は何なんだろうか


『なるほど、手紙を届ける依頼で王都へ来たのか』

「そうなりますね」


 根掘り葉掘りって感じだが悪い気はしないが、九重もスゥもどこに行ったのだろうか


『この仕事を君が受けなければ

 スゥは誘拐されていたか

 依頼した者に感謝だな』

「そうですね」


 カップの白さが目に痛いな


『娘を誘拐し、脅して、私を意のままに

 操ろうと考えた輩がいたのかもしれん』


 公爵は苦い顔で紅茶を口にした


「(面倒くさいな、貴族の世って奴は…)」


 茶菓子があるっていうのに俺もオルトリンデも手をつけていない、話が重くて仕方がない


『父上!フジノミヤ!』


 そんなテラスにスゥがやってきた。薄桃色のドレスに薄桃の薔薇が付いていたカチューシャでめかし込み、その隣には深い紺色の羽織を身につけた九重もいた



『エレンとは話せたかい?』

『はい。心配させてはいけないので

 襲われた件は黙っておきました』


「九重さん何の話?」

『スゥ殿のお母様の話でござる』


 スゥがオルトリンデの隣に丁寧な所作で座る。間を空けずにレイムが紅茶を運んできた


『すまないね、内輪の話を不躾に』

「いえ、家族を優先することは当たり前です

 失礼でなければお聞きしても?」


 オルトリンデが言い淀んだ


『五年前に、なります。病気で』

「…」


『一命は取り留めこそ、しましたが視力を』

「…なるほど」


 オルトリンデが視線を下げる。それを見て、スゥが自分の手を彼の手の上に重ねた。本当に家族仲がいいんだな



 俺の方が不躾だったな。何故あの時、竜宮城の話をしてしまったのか、あの食いつき様はそういう事だったみたいだ


『国中の治癒魔法の使い手に声をかけたが…

 後遺症までは効果がなかった』

『フジノミヤ、どうにか母上を

 爺を救った様に見える様にはできぬか?』


「(無茶を言う)」


『検索』をしてみるもどれもこれもが専門的な知識や技術を必要とするものばかりで今の俺では手の出し様が皆無だった


「すみません」

『いや、いいのだ。貴殿には娘を助けてくれて

 護衛までも完遂したのだ』


 俺はいつもそうだな。いつも他人に期待をさせてそれを踏み躙る行為をしてしまう。踏み込みすぎるのが怖いんだ。前のめりに倒れれば伸ばした手が押し潰すことになる


 だから今は手を差し出せない。今は───俺は『検索』から『メモ』に切り替え、追記した

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