真剣に言葉を覚えようと思ったよ
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念のため手首と首元の脈や、心臓に耳を当ててみたものの本当に亡くなっていた。こんな形でこれが最悪な事実なんて知りたくなかった
亡くなった兵士10人の遺体と黒いローブを着ていたやつの身ぐるみを剥ぎ、燃え盛る炎を前にせめてもと銀貨2枚と銅貨2枚を投げ入れた
黒いローブの男も確かめるに愉快犯というわけではなさそうだった。ならば意味があるかは分からない、それでも向こうで酒くらいは飲める金額を焚べてもバチは当たらないだろう
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遺骨は近くの森へ埋めた。放置するわけにも連れていくわけにもいかない。身元証明書がないことが悔やまれる
己が主君を守り散った兵士に手を合わせて祈る。その横で白髪の老人も頭を下げた
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埋葬を終えたので支度を始める。壊れた馬車の修理に時間が一番かかるのは明白だ。使えなくなった借り物の馬車から部品を幾つか拝借しよう
違約金のことが頭に浮かんだ。人死にが出たというのに何とも世知辛い世の中だ。そんなことをしていると老人がやってきた
『本当に助かりました
なんとお礼を言ってよいやら…』
「(スマホ、スマホ)」
やっぱ、言葉覚えないとな。不便で仕方がない
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「気にしないで下さい。守ったのは九重…
私の仲間と兵士ですし、それよりも
怪我は治っても身体に負担が残るんですから
あまり無理はしないで下さい」
頭を下げ続ける老人に返事をし、修理に戻ろうとするが
『感謝するぞ、フジノミヤとやら!
お主は爺の、いや爺だけではない
わらわの命の恩人じゃ!』
「これは公爵令嬢様」
忙しいってのに、お偉いさん相手じゃ手を止めて頭下げざるを得ないでしょうが、爺さんも申し訳なさそうにするんじゃないよ
◆
手を止め、敬礼をする。俺が知ってる礼節はこれしか知らないので不敬なら勉強させて貰おう
『ご挨拶が遅れました
私オルトリンデ公爵家家令を勤めております
レイムと申します。そしてこちらのお方が
公爵家令嬢
スゥシィ・エルネア・オルトリンデ様で
ございます』
『スゥシィ・エルネア・オルトリンデだ!
よろしく頼む!』
爵位に馴染みがないながら公爵という称号や側仕えがいることの重大さが分からない程馬鹿じゃない。雲の上の人だろ、このひと
『それにしても態度が固いのぉ…』
やべぇ言葉が分からないことがこれほどまでに致命傷になることってあるか?スマホ触っても不敬じゃないか
◆
スマホを取り出し、何とか会話を始める
「失礼します。御令嬢、私めは…」
『スゥでよい。公式の場ではないのじゃ
せんでよい。敬語もいらん』
んなことできるわけないでしょ!
「ですが」
『良いものは良い、さっきも言った通り
フジノミヤ達はわらわの命の恩人じゃ
本当なら頭を下げるのはこちらの方なのだ
お前も顔を上げてくれ』
スゥがそう言うといつの間にか土下座に入っていた九重も頭を上げて立ち上がった。あれが本来の作法なのだろう
『令…スゥ様は何故このようなところに?」
『むぅ、まぁよいか
お祖母様のところからの帰りにちと
調べ物があっての。ひと月ほど滞在して
王都へ戻る途中じゃった』
物量と奇襲を成功させての令嬢の誘拐と足の確保と、単純に身代金目的の可能性も考えたが伝令役すら立てないのは変に感じた。となれば公爵を狙っての襲撃と考えた方がしっくりくる。目的は何だろうか
『襲撃者が死んでしまったからの
何者だったのか、誰かの命令で動いていたのか
今となっては闇の中じゃ』
『申し訳これなく…』
九重が申し訳なさそうにうなだれている
「あの判断は正しかったと具申します
多勢に無勢、全滅も十分あり得ました」
『気にするでない。再三いっておるが
お主達には感謝しておるのじゃ
よくぞ倒してくれた』
『ありがたきお言葉…』
◆
無礼の許しも得たので修理に戻る。これをひとりで修理するのはなかなかどうして骨が折れる
『それで?これからスゥ様はどうするのでござる』
『そのことなのでございますが…』
傍で控えていたレイムが申し訳なさそうに
口を開いた
『護衛の兵士が全員倒れ
このままでは同じような襲撃があった場合
お嬢様をお護りできません』
まぁそりゃそうだ
『そこで、フジノミヤさんたちに
護衛の仕事を頼みたいのです
お礼は王都へ着きしだい
払わせていただきますので
どうかお願いできないでしょうか?』
いや、願ったり叶ったり、そもそもここに放置されようものなら1日乗馬訓練が始まるところだった。目的地は同じだし、情けは人の為ならずとは素晴らしい輪廻だな
『フジノミヤ殿に任せるでござるよ』
断る理由がない
「お受け致します
王都までよろしくお願いします」
『うむ!こちらこそよろしく頼む!』
◆
馬車が走り出して十数分、俺はあれやこれやとお伽話を思い出していた
「そうして、龍宮の城より
浦島は母親の目を治すための
霊薬を手に母親の元まで帰り
二人は末永く幸せに暮らしましたとさ」
『おお!よかったのう!』
スゥは手を叩いて喜んでくれたが、読み聞かせの経験がこんなところで役に立つとは思わなんだ。それにしても割と覚えてるもんだな。お伽話
『何か他の話も聞かせてはくれんか?』
「そうですね。それではひとつ
とある小話を」
その後も知ってる限りの童話を話して聞かせた。手放しで喜べる話だけではないものの、それを踏まえての何か笑える小話を繰り返した
そのうち、話す内容を『検索』し始め、不意に『龍宮の城を探しに行く!』と言い出したスゥにレイムが焦りを見せていた。2人のその顔に何処か悲しげなものが浮かんでいた。真の意味で彼女たちと心をかよわせるのは簡単ではなさそうだった
そんな俺らを乗せて、馬車は王都へ向けて、北へ北へと進んで行った




