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経験は身を助くとはよく言ったもんで

◆◇◆◇◆


『一体何が』


 緊急速報メールを下にスワイプし中を確認する。詳しい発生場所と状況がこと細やかに書かれている。そんなする暇あるなら助けろよ発信者


 メールを開いていると『翻訳』ができないため、できる限りの情報を短期記憶に突っ込んだ


「九重さん、少し急ぎましょう」

『何があったでござるか?』


「人が襲われてます」

『それは急ぎ駆けつけなければ』



『公爵家令嬢

 スゥシィ・エルネア・オルトリンデ拉致発生

 死傷者9名』

「(車輪を引きずった跡…)」


 馬を駆け足にして、数分後、視界に飛び込んで来たのは煌びやかながら半壊している馬車だった


 その近くでは鎧を纏った兵士らしき男たちが血みどろでやられており、数人だけが応戦していた


 1人だけ黒いローブ姿が視認できた。あれが『襲撃者』で間違いない。ローブ姿のやつが乗っている馬に誰かが寝かされている


『前方で人が魔物に襲われているでござる』

「全速力で弾き飛ばせ!」


『承知!』

『公爵家令嬢

 スゥシィ・エルネア・オルトリンデ拉致発生

 12人中死傷者11名』


 御者台の九重が速度を上げるべく手綱を弾く。しかし、把握できている状況に追いつくには足りず、曲刀を持ったガタイのいい何かに次々と兵士が倒されていくのが見えた


「九重さん、黒いやつの傍にいる人は保護

 後はどうなっても構いません」

『委細承知!』


 馬車が突き進み、黒いローブが俺たちに気がついた頃にはもう遅い、突っ込み蹴散らしていく、空中に放り出された要保護人物の公爵令嬢を掴み、仰向けで地面に突っ込む


「ってぇ」


 背中から全身に痺れと熱が起きるものの、気合いでどうにか立ち上がる。九重は手綱やら、馬の行動を邪魔するそれらを斬り払い馬車から飛び降りた


「キシャアァ」


 二足歩行のガタイのいい蜥蜴がそこにいた。一匹の蜥蜴がこちらに目掛けて駆けて来る。それに対して俺は盾を構えて突進するが真正面から受けて立つ気は更々ない


「(はい、残念)」


 蜥蜴の足下で盾を天井に身体を縮める。蜥蜴は盛大にすっ転んだ


「グギャア!」

「退散退散」


 威嚇する蜥蜴を他所に俺は豪華な馬車へと向かう。こっちの目的は討伐じゃないんでね。保護最優先



『うっ…お嬢様…』

「おわ、先客おるんか

(こりゃ益々ここ重要じゃん)」


 とか余裕ぶっこいては見るものの。敵が多いな。九重と馬二頭が奮闘してくれているものの蜥蜴の量が多いときた


『闇よ来たれ、我が求むは蜥蜴の戦士

 リザードマン』


 黒いローブがそうつぶやくいた。足下の影から数匹のリザードマンが這い出して来た。もう何でもありだな


「九重さん!」

『アイツでござるな』


 九重が馬を走らせ本陣に向かった。守りは俺で保たせる


 本陣は任せる敵の周りには無数の蜥蜴人間が待ち構えるも、そんなものは無意味とばかりに馬二頭が蹴散らしていく


『ぐッ…!』


 神速の速さで飛び込んだ九重が男の首を飛ばした。血液が脈拍に合わせて首の辺りから噴き出すのは流石にグロいべ


「よかった…っと」

『誰か!誰かおらぬか!爺が…爺が!』


 蜥蜴が消えて一安心。とは成らず



 不意に響いた叫び声に真後ろの馬車の扉を開ける。長い金髪の公爵令嬢様が目を覚まして泣きながら叫んでいた


『誰か爺を助けてやってくれ!

 胸に…胸に矢が刺さって…!』

「はいはい、少しお待ちを」


 回復薬を取り出し、令嬢が揺すり起こそうとする老人の胸の辺りをハサミで割いていく、さて回復薬をかけようかとしたところ、何か突起物が出ていた


 老人は胸に矢を受けていた


「(これ、そのままかけていいのか?)」


 傾けていた回復薬の瓶を置き、ダメ元で矢を引き抜こうとするもびくともしなかった。体内に異物が残っていた場合、それはどうなるのか


『お嬢様…』

『爺…っ…爺っ…!』


 震える手で老人が令嬢の手を握り締めた


『お別れで…ございます…

 お嬢様と過ごした日々…何よりも

 大切な…私めの…』

『爺!もういいからっ…!』


 不味いな、吐血したってことは肺まで達してる可能性がある。無理に引き抜けばそれこそことだ。おいおい、どうすることも出来ないのか


 しかし、身体の中に矢が残ったまま回復薬をかけると、どんな影響が出るかわからない。最悪心臓に刺さってしまったら


 手がないわけじゃないけど


「ちょいと」

『爺!』


「一か八か、ね」


 俺はメガスライムを突起物に向けてかけた。装備を溶かし壊すってんなら矢も溶かし壊せない訳がない。メイスが溶けたのがここで役立つとはね


 老人の胸の突起が消えていくのを見計らって回復薬をかけていく、人体にだけ害がないのは実体験済み


『…痛みが、引いて…?これはどうしたことか

 治って…。治ってますな』

『爺っ!!』


 不思議そうにする老人に、がばっと抱きつく令嬢を馬車の中でそっとしておく



(通知音)

『フジノミヤ殿』


「ひとり救うので精一杯だ」

『全員死んでるでござる』


 俺が救えたのはたったひとり、それを残酷にも告げてくる『通知』を尻目に兵士達の埋葬に向かった


『公爵家令嬢

 スゥシィ・エルネア・オルトリンデ救出

 死者10名、犯人死亡』

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