『地図』って便利とか思ってるとあの音
◆◇◆◇◆
行き交う馬車や人々がまばらになってきた───アマネスクの町から1日でも離れれば人っ子ひとり見えなくなる程に。会うか会わないかという状態になったものの王都に近くは混雑が予想されるとのことで、まだ見ぬ都会の情報から目を離した
都会が混雑したところでその間が安心できる訳ではないからだ。混み状況なんざ着いてから見ても十分だ
人が少ないということは脅威への対処法が限定されるということ、そこが割と致命的だ。今回だけじゃない警戒対象は今後の悩みのタネになる
対人ならメガスライムぶつければどうにかなりそうなものの、そう上手くは行かないだろう。早く自宅に帰りたい
◆
揺れる馬車の上でのんべんだらりと過ごしながら青空と目の間にスマホを挟んで仰ぎ見る。やることのなさが苦痛となって襲ってくるのはいつぶりだろうか
「終わらない夏休み病だな、こりゃ」
『何か言ったでござるか?』
「ごめん、独り言」
最近言葉が分からなくてもニュアンスで何となく意味が分かってきたことに若干の驚きが隠せない。表情、声色、抑揚に仕草、身振りを交えれば言葉が通じなくても多少の意思疎通ができてきた
「(ってそれだけじゃ安心できないんだよな)」
協会に戻ったらその手の依頼出すか、などと考える。読み書きをいつまでもスマホに頼ると碌なことがあった試しがない
「(別段面白い情報もなし、か)」
スマホに流れてくる情報にも真新しいものはない。てか、これを更新してる奴は何者だよ。中世?に人工衛星はねぇよ。あって号外だわ
◆
野宿が続く王都までの旅路。地図を確認しても、まだ半分の距離がある。こんな時、車が使えたらなと心底思うのは贅沢なのだろうか
「…暇だ」
九重が御者を引き受けてくれているとはいえ俺も俺で何かできることはないだろうか?新調した武器故に手入れはまだ必要ない、防具も同様に
「ん?九重さん、ちょっと」
『何でござるか、フジノミヤ殿』
◆
川のほとりで馬を休めつつ、俺は服の洗濯をする。科学洗剤などではない、天然由来の植物洗剤は自然に優しい反面、何とも汚れの落ちなさに苦戦しつつも洗い終え、一息つく
『地図』様々だ
『お疲れ様でござる』
「どうも」
ふと、九重の服を見る。振り返った後ろ姿。髪が風に靡いた一瞬、僅かに洗われてはいるものの血痕の跡とバッサリと切り開かれた箇所が見えた。王都に行ったら服を買おうかと迷った
「九重さ…」
(緊急速報メールの音)
そんなことを考えていた矢先にあの喧しく心臓に悪い音が聞こえてきた
『うわわ、何の音でござるか!』
「(うっわ最悪)」
『公爵家令嬢
スゥシィ・エルネア・オルトリンデ襲撃発生
死傷者4名』




