旅は道連れ世は情け、これはただの道連れ
◆◇◆◇◆
「っ」
瓶を持ち上げ、恐る恐る中身を傾ける。杞憂ならそれまでだが、もしこれがタチの悪い現実だったなら
「ふぅ…ふぅ…」
瓶を持つ手が震える。できた傷から絶えず血が流れ出て表面張力で血豆の様な形になる。傷口の痛みが鼓動に合わせてやってくる
『うぅ…』
「(!!!)」
極限の集中状態から一気に引き戻された
『お腹が…』
「おい、大丈夫か?」
瓶を置き、急いでスマホを使う
「大丈夫か?どうした?」
『お腹が…』
「痛むのか?どんなふうに痛い?」
『お腹が…減った』
「…へ?」
俺が困惑していると彼女のお腹が盛大に鳴った。腹で返事とは、余裕綽々だな。おい
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女侍が起き上がれる位の時間が経つ頃には夜が来ていた。このままじゃ野垂れ死にそうなので着替えをするついでに宿と食事を提供した
最初こそ断りを入れていた彼女だったが「既に回復薬を使っている」ことを伝え、逃げ場をなくしておく、変なところで身を引くのは何というか親近感が湧く───手を出したなら終いまでここで捨て置くのは無責任というやつだ
『改めて、助勢、かたじけなく
拙者、九重八重と申す
あ、ヤエが名前でココノエが家名でござる』
「俺はフジノミヤ、ただのフジノミヤだ」
酒場で向かい合わせに座る。パッとみ酒が飲める雰囲気はしていない。というよりここでの飲酒可能年齢はいくらなのか
『あの、フジノミヤ殿。本当によろしいのですか』
「あぁ、手を引いたのは俺だし
このまま見捨てるのも違うだろうしな」
『なんと懐の深い、実はここに来るまでに
恥ずかしながら路銀を落としてしまい』
「そうか」
チャンバラの最中によろめいたのはそれが原因とかいうんじゃねぇだろうな
◆
届いた酒に口をつけつつ、彼女の話に耳を傾ける
「九重さんは、武者修行をしているんか」
『いかにも。我が家は代々武家の家柄でござる
実家は兄が継ぎ、拙者は腕を磨くため
旅に出たのでござるよ』
咀嚼しながらそう答える八重を見ていると食べさせ甲斐がある。牛串を食べながらそんなことを考える
『王都に…昔、父上が世話になった方がいるので
そこを訪ねてみようと思い…』
「飯を食うか、喋るかどっちかにせぇ」
酒が入ってつい語気が荒くなってしまった。興味深い話ながら品位を損なう行為は見過ごせなかった
◆
会計を済ませ、金銭とスマホをウエストポーチに入れる。腹ごなしに町を歩くと夜風が涼しく、美人を隣にとは贅沢な話だ
「…」
『あ、傷』
背伸びした時に手のひらに感じた違和感に現実逃避が終わりを迎えた感覚がした。手のひらの傷は血が固まっていた。毟って確認するべきか迷う
いや、確認するまでもなく気が付いてはいる。けれども何処かで否定したい気持ちがついてくる。そんな非現実的なことをどうにか否定したい気持ちで息が詰まりそうだ
『フジノミヤ殿』
「ん?ちょいとお待ちを」
俺が手のひらを気にしていると九重が話しかけてきた。何か言いたげな声色と様子に取り敢えずスマホを取り出し『翻訳』を使った
『フジノミヤ殿はどちらに
向かわれる予定でござるか?』
「(そういや言ってなかったな)
王都に向かっている最中やね…」
『王都に向かうのでござるな?』
「うん、そうだよ」
お酒が入り、心配事と意識がボヤける中、藪から棒に九重がそう言うもんでぶっきらぼうに返してしまった
『施しを受けてばかりというのも申し訳が立たぬ故
良ければ、旅のお供に…』
「用心棒ってこと?願ってもないけども」
『本当でござるか!』
食事奢ったのもそんな思惑があったりなかったり。九重は義理堅いねぇ、親父さんめちゃくちゃ良い教育されてるのが窺える
「んじゃ、明日からよろしく九重さん」
『未熟者ではありますが、どうぞよしなに』




