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それから体感で数時間後。

聖女に付き添っていた騎士に比べると、幾分装備のショボい兵士が二人、牢屋の前にやってきた。


「おい邪神教徒、出てこい」


邪神教徒とは、俺のことらしい。

俺にはもう逆らう言葉を吐く気力もなかった。


肩を掴まれ、引きずられるように牢屋から出される。

ここは王城の地下牢らしいのだが、更に下へ、下へと降りていくようだ。

どうせろくでもない場所に向かっているのだろう。


やがて天然の広大な地下空間に出た。


目の前には巨大な穴のような暗闇が広がっている。

底が全く見えない。どんだけ深いんだこれ。


「ここはな、邪教徒や政治犯などを秘密裏に抹殺するための処刑場だ」


「貴様は奈落への追放が決定された」


え、判断早過ぎだろ。


ていうか、俺、死ぬのか。


頭が真っ白になる。

絶望に浸る暇もなく、槍の穂先で背中をつつかれた。

突き落としやすいように崖に張り出した木製の足場、その先端へと急かされる。


「うっ・・・・・・うぐぅ・・・・・・っ!」


嗚咽と涙が溢れる。

恥ずかしいことに、股の辺りが温かくなった。


「汚ねぇな。オラさっさと落ちろ!」


「あっ」


腰を蹴り飛ばされ、身体が宙に浮く。

足場の感触が消えた。


暗闇が、視界を埋め尽くす。

落下の浮遊感だけが、やけにはっきりと感じられた。


ああ。

こんなところで死ぬのか、俺は。


落ちる。

ただ、落ちる。


暗闇の中を、どこまでも落ちていく。

恐怖すら追いつかないような、急激な落下。


ああ。

やっぱり死ぬのか、俺は。

三十五年間、ろくでもない人生だったな。

友達もいない。恋人もいない。家族もいない。

パティシエとして積み上げてきたものだけが、俺の全てだった。

その菓子も、もう二度と作れないのか。


暗闇の底は未だ見えない。

だが確実に終わりは訪れるのだろう。


『――――うふふ』


なんだ!?

声?


『まさかここに落とされるなんて、ついてるわねアクジ』


暗闇の中に声が響く。

歳は判別できないが女性の声。

ひどく軽い、まるで昼下がりに散歩でもしているような呑気な声だった。


ていうか、なんか落下の速度がスローモーションのようにゆっくりになっている。


「・・・・・・なんなんだ?」


目の前に人のような形をした影が現れた。

輪郭は曖昧で定まらない。


ただ唯一、その瞳だけがやけにはっきりと輝いていた。

楽しくて楽しくてたまらないと言わんばかりの、黄金色の瞳が。


「誰だお前は」


『私は邪神よ』


あっさりと自白した。


『せっかく加護をあげたのに、早々に死にそうになるんだもの。笑っちゃったわ』


「加護?なんの事だ」


『ステータスって頭に思い浮かべてちょうだい。ほら早く』


ステータスか。

俺にとってステータスといえばRPGのゲーム画面だ。


仕事が忙しくて最近ではさっぱりやらなくなっていたが、当時の感覚を思い出して念じてみる。

するとなんと、暗闇の中に光る文字とUIが浮かび上がった。


◆ステータス◆

名前:獄寺悪路

年齢:三十五

種族:人族

階位:1

理力:12

魔力:1

保有スキル:

【精霊隷属化】【異世界言語】【鑑定】【菓子作り】

【精霊眼】【精霊対話】【精霊干渉】

加護:【邪神の加護 Lv.MAX】


「そうか。これがあいつらの言っていた・・・・・・」


『そう。アクジのステータスよ。召喚者なら誰でも持ってる能力ね』


邪神はしゃべるのがひどく楽しいようで、口が止まらない。


『勇者召喚に便乗してね。ちょっと細工してやったのよ。うふふふ』


「・・・・・・そうだったのか。やはりな。精霊と契約できなかったのは、俺のせいではなかったんだな」


幾らなんでもおかしいと思ったんだ。


『あ、それは私のせいじゃないから。アクジが純粋に嫌われてただけね』


・・・・・・・・・・・・・。


『そんな面白い顔するアクジにピッタリなスキルを用意したわよ!【精霊隷属化】読んで字のごとくだけど一応説明するね』


邪神が指を一本立てる。


『条件はシンプル。対象の精霊に敗北を認めさせること。屈服させること。それだけであらゆる精霊は君に従わざるを得なくなっちゃうの。凄いでしょ?』


「・・・・・・なんというか、余りにもご都合が良すぎる能力だな」


まるで中学生が退屈な授業中に妄想して思いついたかのような内容だ。


『なんたって邪神だからね。【邪神の加護 Lv.MAX】ってのがあるでしょ?私のバフが常時かかってる状態な訳よ』


「何が目的で俺に加護なんか付けたんだ?」


『アクジが面白いカルマを背負ってそうだったから。加護を通して鑑賞させてもらおうと思って』


随分と身勝手な理由だった。


「だがしかしな、このままじゃ俺、落下死でその鑑賞も速攻で終わると思うんだが?あんたが助けてくれるのか?」


『残念だけど私は封印された身なの。物理的な干渉はできないわ。こうして思考を加速圧縮して語りかけるのが精々ね』


「え?じゃあ俺はどうすりゃいいんだ」


『大丈夫。あの子に救援をお願いしたから』


その言葉を最後に、唐突に感覚が元に戻った。


耳にうるさい風の音が鳴り響き、激しい落下の空気圧が全身を打つ。


「救援ってなんのことだっ!おいっ説明しろ邪神っ!」


返答はなかった。

代わりに、邪神とは別の少女の声が脳裏に響く。


『・・・・・・見つけた』






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