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四話

数時間が経ち、入隊試験も残りわずかとなった。

 ユアンはアリシアからスケジュールを受け取り口を開く。

 

「今年もいい感じの強者と、鍛えがいのありそうな者がいるみたいだね。試験時間もかなり早く終わりそうだ。」

「そうですね。今年は卒業生と一般の方との戦力差は少ないかと思います。

後は、試験結果をまとめて、数日後の発表を待つだけですがまだまだやる事はありますね。」

「あはは、そうだね。

年々歳を取るからか、同じ作業をやり続ける事に疲れてくるよね。」

「そう言いつつも、

 この行事はいつも楽しんでいるじゃありませんか。」

「まぁね〜、色んな人材が見られる貴重な時間だしねぇ!」

「まぁ、言われてみるとそうかもしれませんね。

 でも、また余計な事をしたらお怒りになるんじゃありませんか?先程から試験者の振り分けとは別に、[アレ]作る気ですか?」

「そうだよ?それに余計な事ではないさ!」


 その言葉に、アリシアの前に座る女性が鼻で笑った。


「ふっ…。そういう割には一度も喜ばれたこと無いし、

暖炉の薪代わりにされてるじゃない。

よく飽きもせずやるわよね。そろそろ本気でキレられるんじゃない?」


 アルレシア・フォンタナ・トリスタン

 アリシアの一つ上の姉であり、第四師団師団長をしている女性だ。長い髪に目元は少しつり上がり、キツめの瞳をしている為かよく怖がられるものの、医者としての腕はかなり良く信頼も厚い。

 

「僕としてはね、そろそろ何か起こしてもらわないとなぁと思ってるんだ。何も無いんだよ?悲しいなぁ。お爺様も心配されてるし…。それにいい歳じゃない?」

「適齢ではあるけど、本人そんな気ないんだから仕方ないでしょ。」

「はぁ、困った子だ。ねぇ、そう思わない?ロイ。」

 

 アルレシアの隣で黙って観戦していたロイへと矛先がむく。だが、ユアンを見ることも無く返答する。

 

「1人ぐらいは気持ちが揺らいでもいいと思うが、色恋沙汰すら無いからな。

歳がそう変わらないヤツはこういう所で探さねばどこで探す。」


 そういうロイへと女性二人は溜息をつき、呆れたようにお互い隣に座る者を見る。

 ユアンは身を乗り出し輝く目でロイへ視線を向けた。

 

「あぁ、ロイ!やっぱり話が分かるのは君だけだ…。」

「ふん。お前と何年共にいると思っている。当然だろう。」

「…………あのぉ」


4人の会話を傍観していたサイラスは、ユキが座っていたはずの席がもぬけの殻となっていた事に気が付き椅子を指さしながら恐る恐る口を開いた。

 

「どうしたの?サイラス。」

「いつの間にかユキ様居なくなってますが…。」

「ん?あれ?」

「いなくなってますね。」

「本当だな。」


 いつも何も言わずそっと居なくなる彼女に慣れているのか、そんなに驚きもしない4人。神出鬼没で、極端に人との関わりを嫌う事は皆承知しているが、気配を消して消える事はベテランの者でも度肝を抜かれる程だった。


「探して来ます。」

「いや、もう終わるから大丈夫だよサイラス。

 それに、今回は全員参加と言ったけれども、実質彼女は直接は関係ないからね。」

「確かにそうなんですが、そろそろご自身の立場をきちんと弁えてもらわないと、新入りたちにどう思われるか…。」

「まぁ、その時にきちんと話をしよう。

 さ、最後の組が始まるよ!」


 サイラスはため息をこぼし、試験会場へと目を向ける。試験者達が入場し終わり、説明を受けている所だった。


 

「最後の組はやはり成績上位の方達ですか?」

「あぁ、その筈だよ?」

「懐かしいねぇ。2年前だよね、ユキが試験で無双したのを見たのは!」

「あの時はほんと一瞬でしたね!」

「過去一速い試験だったわね。」

「お陰でやり直しかかったからな。」

「あれから2年ですか…早いですね。」

「さて、お手並み拝見だ。確か相手は…翼竜?」

「「「え?」」」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 目の前の大きな柵が開かれ、そこから出てきたのは、立派な尻尾に、大きな角。

そして大きな翼を持つ翼竜種だった。


「ドラゴン……?」

「うううう、うそだろ?」

「いや、これはワイバーンじゃないか?」


 ドラゴンとワイバーンの違いは足の数だと本に記載されているが、そんな事を好き好んで読む者は少ない。

 シオンは周りの試験官や指揮官であろう者たちを横目で確認するが、動揺した様子はなかった為間違いではないと目の前に立つ試験相手を凝視する。

 近くにいた友人達に向けて、シオンは声をかけた。


「デラフト、ヴァルタ。落ち着いて聞いてくれ。

 俺が前に出るから、お前ら2人は後ろから援護してくれ。」

「え……っお、おおおおう!!!」

「っ…わかった。」

「とにかく下手に動くな!気を抜けば試験だとしても深手を負うぞ!」

「了解!任せる!」

「頼んだぞ!」


 他のメンバーも様子を見ながら向かって行こうとするが、直ぐに感ずかれ長い尾を振り回し近寄れなくする。


「ど、どうするシオン…」

「あいつがどういう動きをするか、見ないことには分からない…」

「威嚇するか?」

「下手に威嚇すればなぎ倒しか、

 火の海になりかねない。」


 そう言った途端シオン達の反対側にいた1人の男が音を出して翼竜を挑発した。音に反応してその方向を向くや否や、容赦なくブレス攻撃を放った。

 近場にいた数十人を巻き込みそこは小さな火の海だ。

普通の翼竜よりも威力が強く、炎に巻き込まれた者たちは良くて軽い火傷だろう。


「ひ、ひぇ…。」

「嘘だろ…。まじでこれ試験なのか。」


 近くにいた試験者が声を震わせて言う。これは騎士団の入隊試験でこれくらい当然。という訳ではなかった。

 試験を見守っていた一般兵達が動揺し始めたからだ。シオンはどう動いたらいいのか頭を悩ませていると、先程待機室で目に入った青年が剣を抜き、翼竜に向かって走っていく。


「え…!?ちょ!!」


 驚く暇もなかった。

 剣に炎を纏わせ、振り向く。

 次の瞬間、翼竜の片翼が切り落とされた。


「す、すげぇ…。」


 後ろにいたヴァルタが驚嘆する。着地する姿まで素人の動きではなかった。剣の構え方、魔法の纏わせ方、そして切りかかる時の体の使い方。

誰かが彼を見て言う。

 

「あれは、養成学校の卒業生だな…。」


 翼を切られた怒りで、翼竜の視線は完全に彼へと向いた。そして口を大きく開き、またブレスを吐く。

 だが彼にはそれは通用しなかった。魔法の壁を作り防ぎきったのだった。

 

 そしてある光景がシオンの脳裏に通り過ぎた。試験に向けて鍛錬していた時だった。

 父親に戦いの雑学を教えられていた時に

 

『ワイバーンに限らず、口から何かしらを吐き出す魔物は、1度噴いたら、次に出すまで時間がかかる事が多い。

もし敵として当たった場合の反撃は、その直後のスキを狙ってやれ。いいな』


そう言われた事を思い出した。

 どうでもいいと思って聞いていた事が今ここで出てきた事に父親へ久々に感謝した。そしてすぐに行動に移した。


「デラフトその盾なら一度くらいなら、あれに耐えられるはずだ!前に出て威嚇してくれ!」

「はぁ!?まじで盾にすんのか!?」

「ブレスの後は隙ができる!

 その間に一気に畳み掛けるぞ!」

「わわわわわわわわかった!!」

「脳天に一撃喰らわせば立てなくなるはずだ。

 いきなり悪い!動ける人達は聞いてくれ!

盾持ってる人達は固まって音を出してくれ!次にあの攻撃が来たあと、盾以外で畳み掛けよう!」


 そう言うと周りはシオンの言った事に各々返事を返し、動いてくれた。一撃入れた青年もシオンの言った言葉に従うのか、翼竜から目を離さずに移動を始めた。

盾を持つ者は1箇所に集まり、威嚇を始める。

すると目が向く。

 翼竜は姿勢を低くして口を開く動作を何度も繰り返す。ブレス攻撃の前兆だ。


「もうすぐ火を噴くぞ!体勢低くして固まれ!!!」


 青年が声を上げ、盾持ちの者たちへ指示を出した。互いに互いを守るように固まる。そしてドラゴンのブレス攻撃が放たれた。

 吐き終えるまで視線を逸らさず見続けるシオン。

 そして翼竜の隙を狙って合図を出した。


「今だ!!」


一気に脚や翼に攻撃を当てる。翼竜の体がフラついた。

だが翼竜も負けじと踏ん張り、尻尾で容赦なく薙ぎ払う。

持っていた剣で直撃は免れたが、ヴァルタと他数人の持っていた剣が折れた。


「くそっ!」


 シオンは手に持つ剣をヴァルタの近くに投げる。

 

「ヴァルタ!!それ使え!!」

「お前は!?」

「邪魔だ!要らない!!

もう片方の脚!狙え!!はやく!!」

「あぁ!!」


続いてデラフトへ声をかける。

 

「デラフト動けるか!?」

「あ、あぁ!大丈夫だ!!」

「翼竜が体勢を崩した時に近くまで寄って盾を肩に担いでくれ!足場にする!!」


デラフトが走って翼竜へ向かう。

その直後ヴァルタと青年が同時に一撃を喰らわせて、翼竜は地に伏せた。

絶好のチャンスだ。

 そう思ったシオンはデラフトを足場に高く跳び、翼竜の頭に狙いを定め体の重さを利用した体術を叩き込む。


「くたばれぇ!!!!」


 大きな音がして頭に蹴り技が入ると同時に砂煙が立ち上がる。

 砂煙がゆっくりと晴れていく。


そこにあったのは


完全に動かなくなった翼竜の姿だった。


「「「や…………やったぁぁああああああ!!」」」



 10人そこらで倒す事が出来た。初めてのチームでここまで連携出来るんだとシオンは安堵と同時に思った。試験を見守っていた者達からあちこち拍手が贈られた。



「やった!やったぞ!シオン!!!」

「さすが!!!さすがだァァァァァァ!!!」

「ありがとう!!あんたのお陰だ!」

「凄かったわ!ありがとう!!」


色んな人からこんなにお礼を言われるなんて事なかったから戸惑いつつも口を開いた。


「いや、こっちこそ

話を聞いてくれてありがとう。

 それに俺だけじゃない。アイツが最初に翼を切ってくれたから。」


 そう言いながら視線を青年に向ける。彼は剣を鞘に収めつつ、こちらに気づくと近づいてきた。


「ありがとう。凄かったな君の蹴りは。」

「いや、アンタの剣さばきの方が凄かった。」

「僕はライオスだ。君は?」

「俺はシオンだ。」


 握手を交わしてお互い気が抜けたその時だった。シオンは何か不穏な気配を感じた。

底知れない何かに畏怖し芯から冷えるようなそんな感覚に陥りあちこち見回す。

 鼓動が動くような感覚が背後からしたのがわかった。ずるりと、動くはずのないものが動いた。

 前に立っていたチームの仲間達の顔が恐怖で青白くなっているのがわかった。恐る恐るライオスと共に振り返る。

 生きている訳が無い頭が潰れた翼竜が起き上がっていた。だが目は白目を向いて血を出している。

 シオンは今までに見た事ないモノへの恐怖が体を支配し動けずにいた。

 救護に来ていた兵士が慌てふためき、見守っていた兵士達も急いで援護に回ろうと会場に降りて来る。

誰かの叫び声が聞こえた。

逃げろと声を上げる。

だが動けない。

死を覚悟した。


 ——次の瞬間。


目を開けていられないほどの白い閃光が走った。

轟音と共に、翼竜の巨体が光に包まれる。


そして——

 

一瞬で消えた。

 

 


煙の向こう。

そこに、一人の影が立っていた。

 

白い騎士服を纏ったーー少女。

 

 

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