三話
昨日よりも澄み切った空が窓の外に見える。騎士団入隊試験が行われようと、朝からあちこちで騒がしく人が動いていた。
そしてある部屋では、朝から言い合いが行われていた。
「嫌です。」
「駄目です。」
「やかましい。行くぞ。」
試験当日。毎年恒例の言い争いが始まっていた。
「嫌」と言い続けるユキに、副官サイラスが「駄目」と応じる。
そして結局、第五師団長ローウェルに脇へ抱えられ、強制的に連れて行かれるのだった。
試験会場には各師団の師団長と副官達が揃っていた。仕事をサボって見に来た者や、ただ見物に来た者も多く、会場は人で埋まっていた。
「悪いねロイ。
いうこと聞かないお嬢さん連れてきてもらって。」
ロイへいつもと変わらず砕けた話し方をするユアン。
「本来ならお前が無理にでも連れてくるべきだろう。最高司令官。」
「んー、忙しいから無理!」
「まったく…。ほら、自分の席につけ。」
「……。」
優しくその場に下ろされ、むくれながらも自分のいつもの定位置に座るユキを見てロイも席についた。
「今年はどんなだろうな。」
「まぁ、毎年変わらず…だろうね。」
ユアンが呑気に言葉を返し、ちょっかいをかけてくる。
それに嫌気がさしたユキは、反対側の肘掛けに体を預け、寝る体勢に入った。
行儀が悪いからとサイラスが注意しようとするとユアンから、構わないよと言われ座り直しながら相変わらず甘い方だと呆れた。
入隊試験が開始され、様々な年齢の者たちが各々の実力を見せつけようと奮闘している。
入隊するにあたり
必死に剣を振る者。魔法を誇示する者。とにかく突っ込む者。
試験場には様々な戦い方があった。千差万別の戦い方をするも騎士団に入った者には、続けられる者と辞めてしまう者が大方わかっていた。
各師団の師団長はその師団配属希望の者たちの書類を見つつ実践を確認し、合否をつける。
だが、第六師団のみ入隊試験は異なる為、この騎士団入隊試験は関係なかった。だからか、ユキ自身は見る理由がないからか眠るように目を瞑ったままだった。
ユアンとロイ、サイラスは試験を見つつ雑談していた。
「今年も毎年変わらずだね。」
「残念ながら。」
「ココ最近の志願者は【騎士】という称号が欲しいが為に入る者がほとんどですから。」
「養成学校の方から来る者も減ったもんね。」
「そう言えば、サイラス。息子も今年入隊志願者だったね。」
「はい。実力も経験もない者を第6師団には入れられないとは前々から伝えてますので、本人はそれを分かった上で受けるとの事で。」
「そう。なら、期待しとこうかな?」
そのまま最終試験者の組となった。一次試験の成績上位者がこの最終試験組に振り分けられていた。余程の事をしない限りほぼ入隊となっているが、試験者の者たちにはその事を伝達していなかった。過去に試験を放棄した愚かな者がいたからだ。
「さて、ここが終われば後は合否の振り分けだね。さっさと終わらせてくれたまえ、諸君。」
「この振り分けが1番面倒なんだよな。」
「ロイ義兄様の執務室なら誰でも面倒だよ。」
ユキは目を閉じたままバッサリ言う。その言葉にロイは言い返せず押し黙る。
「はいはい、気を取り直して!さぁ、最終試験組はどういう活躍してくれるのかな!」
最後の組の試験が開始された。
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最終試験組へと振り分けられたシオン達3人は、全ての組が終わるまで待機室で武器を見てまわったり、他の試験者の者たちの試験内容を見たりして時間を潰していた。
試験会場は、普段演習に使われる場所で広い造りをしており、様々な予備武器や設備があり、暇になることはなかった。チーム戦でランダムに組まされ、ひとつの組は三十人程の編成。
試験相手となる魔物も自分達の順番が来て初めて分かるようになっていた。
さすが入隊試験だというべきか。状況判断や適応能力、色んな事を試されるとシオンは心で思っていた。
三人は別れることなく同じチーム戦に編成される事となり、一安心していた。
「独断専行はしない方がいいよな」
「当たり前だろ…少しでも減点される動きすりゃ
入隊出来ねぇだろうよ」
「おおおおおおおお俺たちはむむむむ無敵……」
「……。」
シオンの隣でデラフトが酷く震えながらボヤいていた。
体は3人の中で1番デカいのに、臆病なのがな勿体ないと心底呆れた。
試験には武器を必ず何かしら所持するよう注意があった為、とりあえず片手剣を選んだ。
「刀身少しボロボロだな」
「まぁ俺たちみたいな見習いにはいい方だろ?」
「ここここここれで殺れと…」
「そういう事だ」
「いやいやいや…俺は…盾持っておこう…」
「よし、シオンこいつ前に立てようぜ!」
「そうだな。デラフト防御頼んだ」
「おぅい!?!?」
「盾ってのはそういう意味だろ?だったら適任だな!」
「俺たちの中で1番ガタイは良いしな
頼んだ、デラフト」
「いやぁぁぁぁあ!!!」
他のメンバーも剣や槍、斧魔法が使用出来る人は補助となりうる杖や法器というものを持っていた。支給された武器を手に持つものも居れば、持参する者もいた。
「すげぇ、あいつの武器、魔法石が着いてるぜ。」
「どこかの坊ちゃんなんだろ。」
そういう会話が聞こえそちらを向くと、背丈はシオンと変わらないくらいの歳の青年だった。手には片手で持つには少しばかり大きめな剣が握られており、柄の部分に輝く赤色の宝石が付いていた。
魔法を武器に纏わせながら闘うやり方がある。そういった戦い方が得意な者は、魔法石と呼ばれる特殊な石をつけた武器が主流だった。
試験会場が映し出される画面を真っ直ぐに見つめる彼は他のもの達よりも真剣な眼差しだった。
試験の敵はウルフやベアやコボルト、オーク、ゴブリンなど滅多に見ることないハーピーやガーゴイルまで色んな種類が出てきていた。
「結構いろんな魔物を捕らえてるな。
普通に見ない奴もいるからどうしたものか…」
「どどど、ドラゴン来ないよな。」
「そんなのこられたらヤバいだろうさすがに…」
「わかんねーじゃん!!??」
ドラゴンは標高の高い山の上に住み着き、人里に降りてくる事なんて聞いた事なかった。
遠くを飛んでいる姿を故郷のウインド村付近で1度だけ父と共に見た事があるが、人生で見たドラゴンはそれだけだった。
知能が高く強大な力を持ち、どんな魔法を行使しても苦戦すると言われる。だからもしドラゴンと出会い闘うとなれば死ぬ覚悟でいろと教えられた。
ドラゴンに似た姿のワイバーンでさえ過去に死にかけた事がある。だがワイバーンはドラゴンと比べると知能も低く強くもないが、集団行動をするため厄介である。騎士団にいた父はたくさんの知識を持っており、幼い頃から聴いて育ってきたお陰で、物覚えの悪いシオンでさえも様々な知識を身につける事が出来た。その辺に関しては感謝していた。
物思いにふけていると最後の組が呼び出された。いよいよ自分の番だった。
シオンは手に持つ剣を握り直した。
――ここで落ちるわけにはいかない。
そう心の中で呟き、試験場の入口へ向かった。




