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二話 前編

 群青色の空に、白い雲がゆっくりと流れている。

心地よい風が吹く。誰もが「いい日和だ」と言うだろう。

 自然豊かな故郷のムブァメーレから西へ。

 陸路と海路を越え、数日。

 彼らはようやく、世界屈指の軍事力を誇るメルメリカ王国へと辿り着いた。

 王都の港に着くと、王国特有の色と活気が彼らを出迎えた。王都の奥。断層の上に築かれた都市の頂には、白亜の城──セレスティア城。

 神の名を冠する王国の象徴が聳そびえている。

 

そしてその少し下には、セントリア騎士団本部が構えていた。彼らは今、その本部へ向かう長い道のりを歩きながら話していた。

 一人は辛そうに、一人は空を見ながら、そして一人は淡々と歩いている。

 

「いい天気だなぁ〜」


 そう空を見上げて言う赤毛のくせっ毛をした青年の名はデラフト。

 

「……そうだな

 い、今………どの辺りなんだ………はぁ、はぁ……」


 道のりを必死に歩いているのは、ガタイのいい少しふくよかな青年ヴァルタ


「まだもう少し先の方だな。頑張れ。」

 

そしてその彼等の後ろを歩くのは、深緑の髪色をした青年シオン。

 

「お前ら…空見てないじゃん」

「ゼェゼェ…見れるか、馬鹿…っそんな余裕…ねぇっ」

「ヴァルタ…オヤジの言ってたこと守ってなかったツケだな。だから数ヶ月前から動いとけよって言われてたんだよ。」


 途中止まりながら頑張って歩く彼等。

 ここまで必死になり騎士団までの道のりを歩いているのかと言うと…

 馬車で本部まで行くことも出来た。だが、「せっかくここまで来れたのに歩いて行かないのは勿体ない。」なんて言った事が始まりだ。

一応止めに入った者もいた。だが、記念として歩くという事を諦めなかった友人を置いて行けるはずもなく、三人共に歩いて向かう事になったのだ。

 

「だってぇ、こんな天気のいい日だよ〜

上手いパン持って草原で寝転びながら食べた後、

昼寝にはもってこいな日和だろぉ!」

「ゼェゼェ…っそうかも、しれないが…!

俺たちは、今、どこに向かって、この無駄に長い道のり

歩いてるんだぁ……はぁっはぁっ」

「どこって、騎士団本部だろ?」

「草原でピクニックの昼寝は夢のまた夢だな。」

「なんならっ!絶対出来ない夢物語だろっ!」

 

 そういう二人に向かいデラフトは両手を広げて口を開く。


「お前らァ夢みろぉ!!!!」


 それに対して冷めた視線を送る二人は同じタイミングで口を開いた。


「「お前は現実見ろ」」


 港に着いて都内を抜け、歩いてようやく騎士団へと続く坂道に着いた。そこから登り続けて1時間程、大きな門とその先には騎士団へ続く道と、また先には門があり貴族階級の住まう場所に続く道が伸びていた。


「えっと…こっちの道なんだよな。」

「あぁ、合ってる。」


 いつの間にか後ろを歩いていたヴァルタがフラフラしながらシオンの肩に腕を置いて荒れた息を整えていた。

 

「お前…なんでそんな涼しい顔してるんだよおかしいだろ…シオン」

「体力には自信あるからな。」

「この化け物がぁ…。」

「普通だろ。」



 門を潜ると何か体に触れる感覚があった。この門には何か特殊な魔法がかけられているのだろうが、普通の人間である彼等には何も分からなかった。

 メルメリカ王国は、遥昔から魔法の研究が進んでいる国でもある。

自然はムブァメーレよりも少ないものの豊かだが、寒い地域で季節の半分は雪に覆われる。だがそれに負ける事がない軍の力があるからだ。小さい頃から憧れる者も多いこの騎士団だが、彼等がこの場所に来た理由は観光ではない。明日騎士団の入隊試験の最終選別が行われるからだ。

 各国政府が対処出来ない物事は騎士団へ依頼がはいる。各国に軍は存在するも、セントリア騎士団程ではない。魔物討伐から、医療、考古学、魔法。

知らない人はおらず、憧れる者は多い。だが、試験内容は難関である。

 

 騎士団に入る方法は、大きく二つある。


 一つは、各国で行われる入隊試験を突破すること。合格者だけが、この本部での最終試験へと進める。

 もう一つは、騎士養成学校への入学だ。

 幼いころから教育を受け、卒業と同時に試験へ進む。



「や、やっと…つ、ついたぁー…」

 

 かなりの時間歩きようやく騎士団本部へ着いた彼等を待ち構えていたのは、歴史を赴かせる大きな正門と、見張りの騎士達だった。入隊試験を受ける者と業者が門の前で列をなしていた。順番になるまで並んで待った。

 

「長かったなぁ〜、足が棒になるわぁ…。」

「鍛え方が足りないんだろ。」

「シオンと違って、身体の出来が普通なんだよ…。」

「お前は機械か何かか?なんで汗ひとつかいてないんだよ。」

「オヤジからの特訓を昔から受けてたからだろうな。」


 試験に合格した者たちがその正門を通って中に入っていくのをシオンは後ろで見ていた。

屈強な中年の男性から、物腰の柔らかそうな女性まで、人種、年齢関係ない。


「二人はどこに配属がいいんだ?」

「そう言うデラフトは?」

「俺は王都内の守護も大事だけど、やっぱり他の地域の守護かな?俺たちの故郷みたいに頻繁に魔物と出くわすことが減れば楽かなって思った。」

「確かに多かったよなぁ…昼間はベアで夜間はウルフ…それとどこから湧いたか分からない盗賊な。」

「普通に街に買い物行こうにも歩いて行くのは命取りだったしな。」

「確かに、慣れればなんてことないが普通は嫌だよな。」

「それを何食わぬ顔で普通にやってたお前は異常なんだよ、シオン」

「俺が好きでやってたと思うか?」

「まぁ親父さんの教育なのは分かってるけどさ…」


シオンの父親は数年前まで、このセントリア騎士団に在籍していた。

そしてかなり高い地位に在籍しており、家に帰ってくる頻度が少なかった。だが帰ってきた時は村の男共に護身術やら、武器の使い方を教えていた。

 村周辺の街ではかなりの人気者で、今でもその人気は薄れることなく、そのおかげで自警警護隊を作り村の見回りや買い物の護衛等、周辺の警備をしている。

豪快で力技が多く、シオンは昔からスパルタ教育を施されていた。わざと魔物がいる所で馬車から突き落とされたり、森の中に連れていかれ野生の魔物から追いかけられたりなど様々な事があったお陰で今の体力と度胸が備わったんだと何とか納得している。

 

「確か騎士団に入隊したい!って親父さんに言ってからだろ?」

「ああ…あの時の父親の言葉。今でも覚えてるよ。

『お前じゃ無理だろぉ、

へなちょこな枝みたいなお前は簡単にポキッと折られるだけだバーカ

悔しかったら身体鍛えろアーホ』

って言われて腹たって、見返してやると思って体づくり始めたからな…。もうあれから5年か……。」

「そして、それに巻き込まれ俺たちな?」

「ま、今日最終試験受かれば晴れて騎士だ!良かったなぁ!地獄から開放されるぞ!!」


 元気に拳を天に突き出し、高らかに喜んでいたデラフトに横槍を入れるヴァルタ。

 

「配属先で地獄かどうか決まるだろ…」

「うっ…。ヴァルタはやっぱり第五師団か?」

「そりゃあ!出たくないじゃんこの王都からさ!

見回りしてればいいんだぜ!そだろ!!」

「この怠惰な奴が…なんでお前騎士団入隊試験の最終までこれたんだよ…」

「なんでって…金に困らず楽して生きる…

そして何より!貴族の美女に会える!!

 その為なら頑張るだろ!?」

「「はぁ……」」


その言葉に呆れた二人。

もし彼らを鍛えた師匠であるシオンの父が見たら、硬い拳が脳天を直撃して星を見ていただろう。

 

「そういうシオンは?配属希望どこだよ。

やっぱ第五師団か?」

「シオンお前も楽しようと…。」

「このアホな奴と考えてる事一緒だと思わないでくれないか…

第五師団の首都の守りは大事だろ。何かあれば1番に城と国を守らなきゃいけない。

もし仮にもこの王都に盗賊やら変な輩が軍隊として攻めてきた場合1番に前線に赴かないといけないのは第五師団なんだよ。まぁどこにだって役目はきちんとあるから何処でも頑張るさ。」

「まぁ確かにな。

 デラフトとは大違いで流石、シオンだ。安心したわ。」


他愛ない話をしていたら、受付担当の騎士から呼ばれ前に進む。


「君達は試験者かな?」

「はい、そうです!!」

「では、名前と一応試験番号があると思うから言ってもらってもいいかな?」

「はい!」


 一人ずつ確認され、入館証を手渡された。


「騎士団への入館証を持っているからと許可されていない区画には入らないように。この用紙に印が付いている所以外は禁止区域だ。もし誤って入った場合速やかに出ること。もし、守らない場合、即刻試験失格となるから気をつけて。」

「分かりました。」

「それと、なるべく行動する時は団体行動をするように。

騎士団に入隊した場合でもそうでなくても団体行動は必須だ。少しでも体に染み込ませて置くと後々困らないからな。

 何かあれば構わず見かけた騎士に必ず聞くこと。注意事項は以上だ。明日の試験時間まで体を休ませて万全の状態で挑んでくれ。」

「分かりました。ありがとうございます。」


 説明を終えると敬礼し次の試験者へと声をかけた。胸に官位を表す飾りを付けていたから、それなりの位の高い人なのだろう。騎士団は各師団色の違う装飾を付けている。

 今回対応してくれた師団は第五師団員のようだとシオンは見て思った。明日の最終試験の内容は、試験が始まる前に通達され直前までどんな試験かは分からないようになっているようで、渡された用紙には特に記載がなかった。

入隊前の仮試験なのか…何か試されているのかと思いながら明日の試験に備える為用紙に記された建物へ向かう。明日の試験はきっと今まで以上に過酷だろう。そう三人は話をしながら向かう。

 仮部屋へ向かう途中、シオンの視界の端に金色の光がよぎった。思わず振り向く。

だがそこには、騎士団の窓があるだけで──誰の姿もなかった。

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