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一話

保護した村人達を引き連れ、ユキレスティアたちは王都リュミエールへ戻った。

 上への報告の為、村人達は師団員達に任せ、一番上の総司令官の元へ赴く。

 総司令官室に近づくにつれ、表情が曇っていった。そんな彼女を、副師団長のサイラスがなだめていた。


「機嫌直してください。」

「無理。」

「はぁ……。」

「早く文句言いたい。」

「いくら話をしてもいつもと同じことかと。」

「……。」



 長い廊下の突き当たりに、扉の両側に見張りが立っていたが二人を見ると敬礼し扉を開ける。

 広々とした室内のど真ん中に大きな執務机があり、そこに座って書類を見ている男がコチラを見ると持っていた物を置いて顔を上げる。


「お疲れ様、二人とも。」


 整った長い髪に、左右で色の違う瞳。三十代ほどに見える若い男が、優しい声色で二人に声をかけた。

 後ろに控えているサイラスは正しい姿勢で敬礼するがユキレスティアはと言うとズカズカ中に入り容赦なく両手を机に叩きつけて乗り出しながら口を開いた。


「聞いてた話と違ったんだけど。」

「おや、それは災難だったね。怪我ないかい?」

「えぇ、見ての通りピンピンしてますが?」

「それは良かったよ!」

「良くない!報告は正しくしろって言う割には任務伝達は適当なんだね!?」

「まぁまぁ、まずは報告を聞こうか。村人は無事だったかい?」


 乗り出して文句を言ってくる彼女を宥めつつ、後ろのサイラスに声をかける。


「はい。保護した村人達は軽い傷を受けた者もおりましたが、第四師団に任せて治療を受けているはずです。」

「うんうん!素早い対応だね、良くやった。」


 椅子から立ち上がり背の低いユキの頭を撫でながら、にこやかに話す彼はこのセントリア騎士団の総司令官であり、このメルメリカ王国の第一王子ユーレディアンである。

 後に王となるべく人の上に立つ事を学ぶ為、先代の総司令官であった叔父からこの地位を譲り受けた。

 


「任務遂行が早くそして、何より他の者たちよりも優れているからこそだね!さすが僕直々に選び抜いた師団だ!」

「それならきちんと伝達してください。任務に当たるコチラが迷惑なんですけど!」

「まぁまぁそう怒らない。怪我してないし問題なかったわけだろ?ならいいじゃない!」

「……。」

「だから言ったではありませんか。ユアン様には文句というものは意味が無いと。」


 二人のやり取りを呆れて見ているサイラスが、怒りに身を震わせているユキへ言う。

 ユアンとはユーレディアンの通称であり、彼自身も気を許せる者皆にそう呼ばせている。

 ユアンはニコニコと頭を撫でている。いつでも振り払えるはずのその手を振り払わないのは、そうするともっと嫌な事をされるからだった。


「任務ご苦労様ということで、ご褒美にお前の部屋でお菓子を焼いて待ってもらってるよ。報告がてらにおやつタイムにしようじゃない。さぁさぁ、向こうに行こう!」


 頭に置いていた手を肩に移し、彼女の体の方向を変え部屋から出る。司令官室のドアを抜けた先にひっそりと同じ大きさの扉があり、花の模様と【6】の数字が刻まれたプレートがかけられていた。

 ユキとサイラスの執務室だった。


「2人が帰ったよ〜。」

「あら、おかえりなさい!お二人共。」


 扉を潜ると、眼鏡をかけた優しい気な女性がちょうど、机の上に焼き菓子を置いているところだった。


「ちょうど良かったです!

 声が聞こえたので、準備してました。」

「流石だね、アリシア!」


 ユキはユアンに呆れて、彼を無視し自分の執務机に向かう。そこにはどれも彼女が好むものばかりの様々な焼き菓子が程よく乗せられていた。


「お疲れでしょうから、甘めな物を多く用意しましたよ!」

「ありがとう、アリシア。それとただいま。」

「いいえ!無事に帰ってきて何よりです!

 心配してたんですよ?もしかしたら内容と少し違うじゃないかなって…。」

「アリシア様のおっしゃる通り、数の方がかなり違ってました。魔物討伐は変わりませんでしたが。」

「まぁ……。大変でしたね…。」

「ほんとだよ…。」


 そう言いながら、ユアンを睨むも当の本人は気にするなと言わんばかりに笑っているだけだった。


「はぁ…、手洗いしてくる…。」


 もう何も言うかと言わんばかりのため息をつきながら、洗面所まで向かうユキの後ろを静かにサイラスも着いてくる。



「それで?魔物のタイプはどんなのだったんだい?」

「ほとんど、いえ…全てですかね。この辺り一帯に生息する魔物たちでした。見慣れないモノはいなかったかと。」

 

 優雅に紅茶を嗜みながら口を開くユアンにサイラスが返答する。

 ユキは話したくないと言わんばかりに、お菓子を口に含んでいた。


「それにしてもこういう事案が最近多いよね。」

「何かほかに原因がありそうですが…。」

「探し用がないですよね…。」


 頭を捻りどうしたものかと、考えを巡らせている。紅茶を飲みホッとしている1名を除いて。


「美味しかったかい?」

「アリシアの作る焼き菓子が不味いことないよ。全部美味しいし、安心安全。」

「それは良かったねぇ。」

「おかわりないの?」

「夕食入らなくなりますよ?」

「あわよくば、これを夕食代わりに詰め込もうとしてますね?」

「そんな事ないもん…。」


 ユキは図星をつかれ目を泳がせていた。彼女はこの執務室の奥にあるプライベートルームで訳あって暮らしている。その為料理は基本自分で用意している。


「そんな不摂生なこと続けてたら、連れ戻すよ?」

「嫌だ。」

「まったく…。それで?何か気づいた点はなかった?討伐中に感じた違和感とか?」

「違和感ねぇ…。サイラスは何か感じた?」

「違和感は何も…。最近魔物による村の襲撃が多くなったくらいしか。」

「うーん…。私は、微かにだけど魔物からは感じ取れない何かはあったかな。」

「感じ取れない何か?」

「そう…なんか森の奥からかな?底冷え?するような感覚が一瞬したかな…。」

「底冷えする何かかぁ。なるほどね…。」

「それに各地でも増えてきてる【アレ】の関係じゃないかなっておもってる。」

「そう言われると確かに関連してそうだね。」

 

 考え込むユアン。頭を傾げるアリシア。先程の戦いを思い出すサイラス。そういえばとユキは森の奥の方から何かコチラを見てくる気配がした時の情景を思い出す。

 静かに各々考え事をしている時に勢いよくドアが開いた。


「やはりここだったか。見つけたぞ書類。」

「あぁ、ロイ。あったんだね。良かった。」


 鷹色の髪をした男が、了承もなく入ってくるや否、ユアンへ紙の束を渡しがてらユキを見た。

 

「なんだ、もう帰ってきてたのか。」

「帰ってきちゃダメだったんだね…。」

「誰もそんな事言ってないだろ。」

「酷いわ。こんな可愛いユキ様に対して。」


 抱きしめて頭を撫でるアリシアに寄り添うユキは座った瞳で彼を見つめていた。

 書類を持ってきたローウェル、愛称でロイと呼ばれる男は、第五師団の師団長をしており、同時にユアンとアリシアと同年代だ。


「怪我してないか?」

「うん、問題ないよ。ロイ義兄さん。」

「そうか、ならいい。」


 ロイはユキと近しい親戚だった。ユキが10歳になった頃にユアンとロイ、そしてアリシアと出会っていた。その頃から兄やら姉のように接してユキを見守っていた。

 騎士団の師団長にしては若すぎる彼女は最初周りから良く思われていなかった。そのせいか、様々な嫌がらせを受けて来ていたが、当の本人に気づかれる事なく全て片付けて来た事で今がある。


「ロイ、確認は済んだよ。何度も言うけど、大事な書類をあちこちに放置しないでくれ。あと、部屋片付けろ。本当に…周りに被害被ってるだろ。」

「これでも頑張っている。」

「どこが…。」


 呆れた目をロイに向ける。ロイはもっぱら片付けが出来ず、酷く散らかった執務室で仕事をしていた。

 そのせいであちこちの師団長や補佐から文句の嵐だった。

 ユキも彼のせいでかなり困る事態が何度かあった。その度に愚痴を言うものの、すまんの一言で済ます男だった。


「それで、何か困ったことでもあったのか?」

「さっきしてきた任務に関係することだよ。」

「そっちか…てっきり数日後の騎士団入隊試験の日に来る若い男をかき集めた見合い本をユキに渡しているのかと思った。」

「あぁ、それも渡さないとだね。」

「だから、いらないってば…。」

「いやいや、今年は前年に比べていい感じな男が多いよ!何せ」


 そこで、扉がノックされ司令官執務室の見張りをしていた者が入ってきた。


「失礼致します。ユアン様、国王陛下から城へお呼び出しがかかりました。」

「やれやれ、ゆっくり午後のお菓子を楽しんでいるって言うのに、相変わらず人の事なんて考えないんだね。」

「また何事だ。」

「詳しくは仰られておりませんが、おそらくは入隊試験の件ではないでしょうか?」

「いや、別任務の件についてだろう。」

「相変わらずの暴君だな国王は…。息子とは言えど、物のように呼びつけては怒鳴りつけて、クソみたいな命令を出すのだからな。」

「仕方がないよ。そういう【王】なんだから。」


 この騎士団に居る貴族階級の者たちは、国王に忠誠は誓っていないものが多い。次期王位継承者であるユアンとその後ろにいる彼の祖父【アステル・オルド・エストレラ】の存在が大きい。国王はそのアステルの存在を嫌悪しているが、排除までは出来なかった。

 メルメリカ王国の半分以上の権力と領地を握っている存在だから。その為彼の息のかかった者たちを毛嫌いしている。それが実の息子であるユアンでもだ。

 彼はそれに対抗すべく、祖父の血筋が守ってきた騎士団を引き継ぎ、民と同士を守っているのだった。

 いわば権力争いのようなものだ。

 ユアンは残っていた紅茶を一気に飲み干し、よっこらせと立ち上がる彼を皆が心配そうに見る。そんな視線に大丈夫だと言わんばかりに微笑み部屋から出ていく。

 

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