プロローグ
満月の夜、初老の男は、五歳ほどの少年と少女を連れ、広い庭を歩いていた。そのまわりには白い光の粒があちこちに漂い、蛍のように瞬いていた。
「おじい様、このキレイな光は何?」
少女が初老の男の片腕に抱かれながら、揺蕩う光の粒を見て聞く。
「何だと思う?」
初老の男が優しく少女に問いかける。
「んー…あ![ホタル]だ!この間本でみたよ!」
少女が手を伸ばし掴むとその光の粒は消えてしまった。
「あれ?ホタルってこんなふうに消えちゃうの?」
暖かそうなフード付きのポンチョから短い手を伸ばし、光を掴むが消えた。
「ふふ…これはホタルではないんだ。」
初老の男は先を歩いている少年に問いかける。
「お前はこれが何か分かるかい?」
少年は歩みを止め男を見上げた。
「んー…あ!わかった!スピリアだ!」
その答えに、初老の男は満足そうに頷いた。
「そうだ。よく分かったな偉いぞ。」
大きな手で頭を撫でられ、少年は嬉しそうに目を細める。
「ユリウスすごぉい!」
少女が少年、ユリウスへ賞賛の声を上げる。
「こないだおじい様が読んでくれてたの覚えてたんだよ!
ユキレスティアと違ってね。」
少女、ユキレスティアへ胸を張って言う。
「あ、あたしだってちゃんと覚えてるもん!」
「ユキレスティアが見るのはマンドラゴラとか変な生き物ばっかりじゃん。」
「変じゃないもん!」
「こらこら、喧嘩をしてはいけないだろ?ユリウスが知らない事をユキレスティアが知って、ユキレスティアの知らない事をユリウスが知ればいいんだ。お前達は[兄妹]なんだから。」
「「はーい。ごめんなさいおじい様。」」
「よろしい。
では、二人に昔話をしつつこの光の正体について話そうかな?」
そういうとおじい様はゆっくり歩き出し、ユリウスはどこに行くのかわかっているのか走って向かう。
片手に担がれているユキレスティアは落ちないようにおじい様の服をきちんと掴んでいる。
広い庭の真ん中に白いベンチがあり、その場にユリウスは先に座る。
おじい様は腕に抱えていたユキレスティアを椅子に座らせズレ落ちそうになっている暖かそうなフードを直す。
「お前達の生まれるずっと前、私もまだ生まれていない。そんなずーっと前の前のお話だ。」
双子の兄妹は優しく話し始めるおじい様へ視線を向ける。そんな3人を丸い月の光が優しく照らしていた。
まるで3人を護っているかのように。
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むかしむかし、1番目の神様が丸い白の玉を作りました。そして2番目の神様が緑の光を注ぎました。神様たちは、それぞれ違う光を注ぎ続け、そして最後の神様が注いだのは黒い闇でした。丸い白の玉は様々な色が輝いていました。
この光り輝くモノはスピリアと呼ばれる生命の源となったモノでした。
そして、光り輝く玉の中に神様の中でもとっても偉い神様が生けるモノを創りました。それはだんだんと形になり、最初は大地が出来上がり、その次に植物、その次には動物に、そして最後に人となりました。
神様は玉の中のモノ達を見守りました。様々な植物が生え、様々な動物が生まれ、そして様々な人が生まれて、今の私達の世界へとなっていったのでした。
ですがそれからというもの、人々の中には悪い行いをしてしまう者たちが現れ始め、そして争いが起こり始めたのです。それに怒った神様達は大きな天災を起こし二度とそのような争いが起きないように人々に言いました。
そしてその言葉を護り続けるように神様達は人々の中で最も偉い人達に力を与えたのです。
力を貰った選ばれた人達は、世界を護るためにあちこちに散らばり神様の言葉を人々に伝えていったのです。
そして世界は長い間争いのない平和な世界へとなっていったのでした。
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「これが、この世界とそして、この光のお話だ。」
そう言うと幼い二人の頭を優しく撫でる。嬉しそうに笑いながら撫でられる双子は目を輝かせていた。
「その神様に選ばれた人ってまだ生きてるの?」
「神様はずーっと私達を見てるの?」
一呼吸を置くことなく次々と質問を浴びせて来る双子におじい様は笑いながら答える。
「神様に選ばれた人達はもうとっくの昔に眠りについているよ。でもねその力はこの世界の何処かにあるかもしれないね。」
「「へぇ〜!」」
双子はお互いに見つめ合いながら返事を返した。そして漂い続ける光に目を移し、見続ける。
「神様はいつだって私たちを見ている。悪いことをしていても良いことも神様はずーっと見続ける。」
「じゃあ僕らのお父様やお母様の事も知ってるのかな?」
そう言うユリウスへ、悲哀に満ちた声色で答える。
「勿論、神様はどんな人だって見てるのだよ。」
「じゃあお願いしないとね!僕らのお父様とお母様に会えるように!」
「うん!会えますようにってこの光にお願いしたら神様に届くよね!」
「そうだね…。いつか必ず。」
おじい様の優しい手が二人の頭を優しく撫で続ける。まるで2人を守っているかのように。
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十数年後……
「逃げろ!!」
「早く!急いで!!」
村の中に魔物の群れがなだれ込み、村人を襲っていた。少なからず武器を持ち抵抗するものもいたが、魔物は硬く時間稼ぎにもならなかった。
「誰かぁっ助けてくれぇ!!」
「嫌だ!来ないで!!」
そう叫ぶ人に静かに近づきそしてその人に鋭い牙が立てられそうになった次の瞬間、光り輝く刃がウルフの体を貫いた。
「怪我はありませんか?」
1人の少女が手を差し伸べていた。優しく声をかけて来たその少女は白い軍服を身にまとい、片手には金色の剣を持っていた。
「良かった、セントリア騎士団だ!」
「あ、ありがとうございます!!」
襲われそうになっていた人は手を取り立ち上がる。だが少女の後ろにはたくさんの魔物がいた。うんざりした目で魔物を睨み、武器を持っていない手を前に掲げる。
手の前に白い模様が描かれた円が現れ群れへと向かって放たれた。
その場にいた魔物が一瞬の間に体は光の粒子へ変わり空へ消えてく。
「早く村の外へ、このまま走って行けば兵士達が待機しています。彼らの元へ。」
落ち着いた声色で言う彼女にお礼を伝え、村人は走ってその場から去った。
そして、どこからともなく次々現れる魔物の群れを見て少女はため息をつく。
「全く…聞いてた話と違うじゃない…。」
そう独り言のようにポツリと呟くと、彼女の後ろから大柄な体型の男が歩いてくる。
「村人保護は外で待機してる者に任せるように致しました。魔物の迎撃を開始してよろしいでしょうか。」
「構わないよ。さっさと片付けて帰ろう。総司令官に文句言ってやる。」
「御意。総員構え!!」
二人を囲むように、兵士が各々の武器を携え迎撃準備をする。兵士の数は魔物よりも少ないが臆する事はせず魔物を睨む。
「この群れで最後だ、速やかに排除せよ!!」
そう合図すると兵士達が一気に魔物の群れへなだれ込み次々と倒していく。魔法や剣、槍や斧…飛びかかって来る魔物を次々となぎ倒していく。敵う相手ではないと悟った魔物の群れは向きを変え村の外の森のある方へ逃げて行った。
1人の兵士が大柄な男へと近づき話しかける。
「副師団長、俺たちはとりあえず周辺の見回りしてきます。その後、安全の確認が取れ次第、王都に戻るようにします。保護した人々は皆一度王都へ連れていく方向でいいでしょうか?」
「あぁ、そうしよう。総司令官と他師団には私から通達する。
そういう事ですので、我々は帰りましょうユキレスティア様。」
そう呼ばれた少女、ユキレスティアは頷き王都へ帰るべく向きを変えた。
この世界の名は生命ノ国【セフィロト】。神が世界を去った後も残り続ける、神性エネルギーの微粒子ーーースピリアは、空気、大地、水、そして生命のすべてに存在している。
意志によってスピリアを共鳴させ、現象として顕現させる技術これを魔法と呼ぶ。適正のある者で、強い精神ほど
より多くのスピリアを操ることができる。
神は人々に、運命と試練を与え世界を見守っている。だがその運命は時に残酷で、時に幸せを運ぶ。
自らに定められた運命に抗うはできない。
遠い青い空を見上げながら、ユキレスティアはため息をついていた。




