十一話 後編
総司令官室。
ユアン、アリシア、ロイ、ユキ、そしてシオン。
幹部に囲まれた状況に、シオンは内心冷や汗をかいていた。
だが、そんなことはお構いなしに話は進む。
「やっぱり一個師団じゃ厳しかっただろ?」
ユアンが軽く言う。
「ファントム化した魔物が二体。よく無事で帰ってきたね」
「本当に……死傷者が出なかったのは幸運です」
アリシアが頷く。
「奇跡みたいなもんだな」
ロイも続ける。
「今回に関しては特殊だった。……シオン、感謝する」
「いえ……自分は何も」
シオンは曖昧に答えた。
あの時の記憶が抜けている。
ロイが吹き飛ばされ、その直後に意識を失い、気づけばテントの中だった。
詳細はユキから説明されているが、実感は薄い。
「それで、どうする?」
ロイが問う。
「今回の件は機密扱いにする」
ユアンが答える。
「第五と第六の内部で止めるよ」
「通達は済んでいます」
ユキが淡々と言う。
「漏洩は禁止しています」
「さすがだね」
ユアンは満足そうに笑う。
「まぁ、仮に漏れても信じる人は少ないだろうけど」
「新人への説明は俺がやる」
「頼んだよ」
一通り話が終わる。
ユキは紅茶を口にし、焼き菓子をつまんでいた。
シオンはしばらく迷ったあと、口を開く。
「あの……一つ、いいですか」
「どうしたの?」
「なぜ外部に漏らしてはいけないのか、理由を教えてください」
三人の視線がユキへ向く。
ユキはカップを置いた。
「簡単に言うと――分かってないから」
「分かってない……?」
「ファントム化の原因も、君の力も」
淡々とした口調。
「それをそのまま話して、信じてもらえると思う?」
「……難しいと思います」
「でしょ」
短い返答。
「それに、強い力は利用される可能性がある」
ユアンが続ける。
「混乱や争いの原因にもなる」
「だから伏せるんですね」
「そういうこと」
シオンは頷いた。
「ただし」
ユアンが声を変える。
「君には知ってもらう必要がある」
「……はい」
「その前に確認だ。ロイ」
「ああ」
次の瞬間。
シオンはソファに押さえつけられていた。
「……え?」
「動くな」
ロイの手が重い。
「服を脱いでもらう」
「はい!?」
「きちんと説明してあげようよ……り」
ユキが呆れたように言う。
アリシアが微笑む。
「私たちは外に出ますので」
そのままユキも連れていかれた。
数分後――
「入っていいよ」
戻ると、シオンはぐったりしていた。
「……大丈夫?」
ユキが声をかける。
「なんとか……」
「悪かったな」
ロイが軽く言う。
「それで?」
ユキがユアンを見る。
「右の肩甲骨に印があった」
「印?」
「刺青のようなものだ」
ユアンは自分の体にもある模様を見せた。
「俺も、アリシアも、ユキもある」
「覚えはありません」
「僕もないよ」
ユアンは笑う。
「気づいたらあった」
「これが何なんですか」
「まだ分からない。でも関係はある」
ユアンは本を取り出した。
青い表紙のおとぎ話。
「読んだことある?」
「あります」
神に愛された少女の物語。
ユキが指を差す。
「ここ」
〈神が授けた力〉
「これが関係してる可能性がある」
「だから遺跡を調べてる」
「でも確証は……」
「ない」
きっぱりと言う。
「でも君の現象は?」
「……偶然ではない、と思います」
「そういうこと」
静かな空気。
「僕は地の力」
「私は水です」
「私は……光」
ユキは短く言った。
距離を保つような言い方だった。
「共通点は自然現象だ」
ユアンが続ける。
「そして覚醒にはきっかけがある」
それぞれの過去が語られる。
シオンは考え込む。
その様子を見て、ユアンが問いかける。
「魔術って何だと思う?」
「……えっと」
言葉に詰まる。
その時、ユキが口を開いた。
「魔術は、借り物」
視線が集まる。
「神や精霊からの贈り物。でも同時に借りてる力」
静かな声。
「だから、使う時は忘れちゃいけない」
「……何を?」
「命の重さ」
一瞬だけ、ユキの瞳が揺れた。
「それを奪うかもしれないってこと」
それ以上は語らない。
シオンは何も言えなかった。
ただ、その言葉だけが残る。




