八話 後編
「魔法で落下速度を落とす方法……知っておいて損はないですね」
どうにか足場のある場所へ着地した二人。
かなりの高さだったが、ユキが瞬時に魔法を展開し、衝撃はほぼ殺されていた。
シオンは安堵の息を吐く。
「こういうのは身につけておくといいわ。それより、どうして貴方まで落ちてきたの」
ユキは呆れたように睨む。
シオンは少し申し訳なさそうに答えた。
「すみません。反射で……」
「まったく……ロイ義兄様が上にいるから問題はないけど。次からはやらなくていいわ」
「それだと、ロイ師団長が心配されます」
「はいはい」
軽くあしらいながら、ユキは周囲を見渡す。
闇に包まれた空間だった。
彼女は先ほどより強い光を魔法で作り、辺りを照らす。
石畳の床と壁。同じ構造が続いている。
足元を照らすと、さらに下へ続く段差と、水の流れが見えた。
「まだ下があるわね」
「俺、先に降ります」
言うが早いか、シオンは飛び降りた。
ユキは思わず額を押さえる。
「……本当に無鉄砲ね」
下から声が届く。
「大丈夫です!足場、しっかりしてます!」
「あのね、まず石でも落として確認しなさい。さらに落ちる可能性もあるのよ」
「あ……確かに。気をつけます」
呆れながらも、ユキも慎重に降りた。
足場には浅く水が流れていた。
靴がじわりと濡れる。
「ただの水みたいね」
「はい、触った感じもそうでした」
「問題は水量ね。流れ込んできたら厄介よ」
「なるほど……気をつけます」
一本道だった。
ユキが進行方向を考えていると、シオンが指を差す。
「あっちに行きましょう」
「理由は?」
「風が流れてます。前から後ろに」
「……風?」
ユキは集中するが、はっきりとは感じ取れない。
だがシオンの目は真剣だった。
「責任は取ります。俺が前を歩きます」
「……いいわ」
シオンが歩き出す。
ユキは小さくため息をつき、光を強めた。
「ありがとうございます」
「貴方が落ちたら困るからよ」
「確かに……それは困りますね」
しばらく進むと、気配が変わった。
「何かいますね」
光を広げると、壁や床に影が蠢いていた。
「魔物ね……蜘蛛系かしら」
数十匹はいる。
毒持ちも混じっている。
「戦えるわよね?」
「はい」
「前衛、任せるわ」
「了解です!」
シオンは一気に踏み込む。
壁を蹴り、回し蹴りからの踵落とし。
着地と同時に拳を叩き込む。
水の抵抗を感じさせない軽やかな動きだった。
毒を吐こうとした個体を、ユキが魔法で撃ち抜く。
そこへシオンが追撃を入れる。
連携は自然だった。
次々と魔物を仕留めていく。
やがて残党は逃げていった。
「大丈夫?」
「はい、問題ありません」
傷一つない。
「初心者にしては、いい動きね」
「父に鍛えられました」
「……そう」
短く返し、ユキは視線を逸らす。
しばらく進むと、行き止まりに出た。
「さて、道はないわよ。どうするの?」
「……少し見てもいいですか?」
シオンは壁に手を当て、探り始める。
「時間が惜しいわ。戻る方が――」
「この先、続いてます」
彼が指した先は、ただの壁だった。
「どこに?」
「ここです」
ユキは半信半疑で調べる。
すると、一つだけ出っ張った石を見つけた。
押すと、音が響く。
壁が横にスライドした。
「……本当にあった」
「行きましょう」
シオンの背中を見ながら、ユキは思う。
――勘?それとも……。
やがて光が差し込み、出口が見えた。
外に出ると、水辺だった。
緑に囲まれた静かな空間。中央には祭壇のような構造物がある。
「儀式跡ね……戻るわよ」
そう言いかけた瞬間。
空から白い影が舞い降りた。
「ミカエル!!」
ユキが駆け寄る。
白い竜が翼を広げた。
《無事でよかった》
声が、直接響く。
シオンは息を呑んだ。
「お願い。上まで運んで」
《いいわ》
振り返ったユキは、シオンに言う。
「早く乗って」
「え、乗るんですか!?」
「早く!」
「は、はい!」
飛び立つ白竜。
「落ちないでよ」
「はい……あの、この竜は?」
「私の相棒よ」
シオンは目を見開いた。
「……喋ってますよね?」
「……今、何て?」
空気が変わる。
「声、聞こえます」
ユキは言葉を失った。
――ありえない。
「普通は聞こえないのよ」
「でも、聞こえます」
「……貴方、選ばれてるの」
「選ばれてる?」
「それは――」
《ユキ、着いたわ》
視界の下では戦闘が起きていた。
「上にもいる……!」
《ワイバーンよ!》
攻撃が来る。
ユキは即座に防御を張る。
「シオン、下へ!」
「了解です!」
高度が下がる。
シオンは飛び降りた。
「上は任せて!」
「ご無事で!」
白竜が再び上昇する。
「ミカエル、本気でいくわよ」
《ええ、葬りましょう》




