六話 後編
各入隊者の合否発表。
わざわざ行かなくてもいいのにと嫌がっていたがユキレスティアだが、昨日一昨日の事があって参加しなければまた小言を言われるとロイとユアンに引きずられて連れていかれた。
合否発表は自分はなんの関係もないと思っていたユキはぼーっとあさっての方向を見ていたが、ユアンから小突かれた。
「ユキ。また心ここに在らずの状態で…ダメだろ?少しは真剣に新入りたちを見なさい。」
「そんな事言われても…知ってるでしょう?人と関わりたくない、極力脳内の容量を意味の無いことに使いたくない。そういう事ですので虚空を見させてください。」
「だーめ!全く……ほら、サイラスの胃にまた穴が空くだろ?どうするの?またリーシュにあれこれ文句言われるよ?サイラスが。」
「ご最もです。ユキ様お願いですから、少しだけでいいので…ね?」
そう言われるユキは嫌々ながら新入り達をパーッと見回した。だが記憶に残らない。
「うん、見ても分からない。以上。」
「「はぁ…。」」
二人同時にため息を着いたとき、少し離れた所からロイに名を呼ばれる。
「おや?僕らに用事のようだよ。さぁ!行こう!」
そう言われ本日二度目の引きづりに合う。見た目に反してユアンの力が強いせいか抵抗する事も虚しく連れて行かれた先は第五師団の団体だった。
そこで待っていたのは、綺麗な花束に感謝の言葉。
最初はなんの事だが一切分からず思考が停止していたが、一昨日の最終試験の時ファントム化したドラゴンを倒した事で救った命があったという事を知る。
花束を渡された為受け取る。
白やピンク、赤など色んな色の花が集まっていて綺麗だった。
お礼を言われて頭を下げられ、驚くユキレスティアだが彼らに悪いと思い作り笑いでその場を凌ぐ。
去り際花束を渡して来た青年と目があった。
どこか懐かしい深緑色の瞳と髪をしていた。数年前自分に知識を少しばかり教えてくれた豪快で、でも優しく暖かな【師匠】の事がよぎった。だが気のせいだと言い聞かせその場を後にして、そのまま師団長室へ戻って来て今だ。
「お礼の花束とは。良かったですねユキ様。」
「まさかこんな物を用意するとは…。
花瓶ってどこかにあったよね?どこだっけ…」
「第六師団の控え室のどこかに…持ってきますね。」
サイラスは花瓶を探しに部屋から出て行った。花束をテーブルに置き、まじまじと見つめる。
本当に綺麗だとユキレスティアは見とれていた。昔から花がとても好きな彼女はたくさんの植物が記された図鑑を手に祖父の家の庭に出ていた。その頃は遠くに遊びに行くことが出来なかった中での唯一の楽しい時間だった為花は彼女の人生を彩っている唯一無二の物だった。、
頑張って選んでくれたんだろう。色んながあり自然と笑みが出る。
「なるべく長持ちさせよう……。」
何か長く保てる方法があったなと思い出しながら入隊試験の結果の書類に目を通す。師団により偏りはあるものの、少なくて50多くて100近くの新入団員があつまった。だが今年も第六師団はゼロのまま。第六師団は総司令官が自ら面接を行い、採用する。新米はまず入らない。実戦経験が豊富で尚且つ、ユキとユアンを裏切るような行為を一切しないという事を大前提に決められる。総司令官直々の部隊と言っても過言では無い。その為就任してからというもの、入隊試験やら国の会議などは参加しても意味が無い。いつも見るだけで終わる。なんの為の師団なのか師団長であるユキも知らない。ただ遺跡発掘やら、城下町での依頼の他、他国からの指名が入れば向かうそんな感じだ。
「花瓶ありました。こちらを使ってください。」
「ごめん、ありがとう。」
気が利く副官で水はもう入っていた。あとは生けるだけだった。少しアレンジをして綺麗に生けるとそこだけでも華やかになり、ユキは無意識のうちに顔が緩んでいた。それに気がついたサイラスが笑う。
「ん?なにかあった?」
「いえ、頬が緩んでいらっしゃったので、嬉しいんだなと思い。良かったです。」
「あれ、私笑ってた?」
「えぇ、珍しく口角が上がっておられます。」
「んんん??」
「自分では分からなかったんですね…でもいいではありませんか?機嫌が悪いよりいいと思いますよ?」
頬を両手で包み揉み込むユキを見て、サイラスが笑う。
あまり表情出ない身だから不思議だった。
「普段もあんな風に少しでも笑って頂ければいいんですがね…いつもいつもムッとしてたら怖いですよ。」
「別にムッとしてる訳じゃないよ…。」
「いえいえ、ムッとしてますよ。眉間にしわ寄せてます。もしくは表情がありません。」
「そんな表情悪いのねごめんなさい。」
「拗ねないでください。」
「拗ねてません。」
サイラスから花瓶を受け取り花を生ける。
本当にきれい。
どこに置こうかなやいつも見える場所と思い執務机から周りを見渡したときいつも目に入る物があった。
立ち上がった時必ずに目が行く場所と言ったらそこしかない。
「サイラス、この棚の上のものちょっとどかして貰える?それか処分していいよ」
「処分出来ませんよ。
これはユアン様とロイ師団長、それとアリシア補佐官から頂いた物でしょう。大事にして下さい。」
第六師団長に無理やり就任させられた時祝いだと渡された置物。
騎士団の紋章に第六師団を表すヘレボルスの花の模様が入った置物。
毎日サイラスが掃除をしっかりしている為、ホコリ一つなく綺麗なまま。約二年前程ここにある。
「なら、他の所に移動させて貰える?お花ここに飾りたいの。」
「でしたら暖炉の辺りに置きますね。」
そう言って移動させてくれた。
無機物よりも綺麗な花の方がまだまし。
目の保養になると誰にも聞こえない声で言う。
一角だけでも華やかになったなと、花に軽く触れていると
扉がノックされ、変にテンションが高い総長が現れた。嫌な予感…。
「お疲れ様!暇そうだね!!おじゃまするよー!」
「お疲れ様です、ユアン様。」
「何しに来たの…」
「酷いなぁ!さっきまでの可愛らしい笑みはどこに行ったの?もう一度してご覧?ほらほら!」
「やめれくらひゃい…」
ユアンはユキの両頬を引っ張り横に伸ばしたり潰したりしていた。ユキは嫌がりユアンの手を何度も叩いて抵抗する。サイラスがユアンに問う。
「それで、何かありましたか?任務でも入りましたか?」
「いーやー何も無いよ?」
ジト目でユキがユアンを睨みながら言う。
「そうじゃなければご退室して下さい。仕事の邪魔。」
入口は回れ右したらありますよ。と酷く冷たい対応を仮にも総司令官にするユキだが、ユアンは何一つ気にすることなく話を続ける。
「冷たいねぇ…仕事って言っても書類整理だろ?それに机何も乗ってないよ?」
「綺麗に片付けてるだけです。」
「んー!それは大事だね!
何処かの第五師団長は散らかし上手だからね!!
片付けが出来ることは大事なことだよ!
まぁでも僕がここに来たのは、これを渡すためなんだけどね!」
そう言って分厚めな紙の束を渡してきた。毎年毎年、入隊式がある時期に渡して来ては暖炉へ放り投げられる物だ。
「何かはおおよそ、予測つくけど…一応聞いとく。
なんですかこれ。」
「んふふふふ…
それはもちろん…。新人の若い兵士達の写真を纏めて作ったお見合い写真集だよ!」
声高らかに言うユアンに呆れるユキは、受け取りたくないのか両手を後ろにやり嫌だ嫌だと首を振る。
「今年はあんな事があったんだ!君へ少しでも興味がある子が多いと見える!
そうなれば!後は!君だけだよ!!
ささ!中を見てみてくれ!」
無理やり手を引っ張られて載せられる、かなりの厚みで重い。そしてパラパラと開いて軽く見る。
出生地、生年月日、名前。
綺麗に手書きで纏められている。
「こんなモノ作る前に仕事して。」
「何言ってるの!大事な事だよ!?」
「何が大事か…。」
「いやぁ少しでも周りと交流しよう!」
「結構です。」
「そう言わずにさぁ!」
暖炉に投げてやろうかなと向きを変えた途端手にあったお見合いの紙束は姿を消した。
「何する気?」
「薪のかわりにでも使おうかなと…
いい紙なのでよく燃えるし暖かくなるんですよ。」
「僕とロイの血と涙と汗の結晶を一気に燃やすの?」
「えぇ、お陰様で心も温まります。
というかロイ義兄様まで巻き込んで何してるのよ…」
「ロイだって心配してるの!
そんな事よりきちんとした薪使ってくれる?これは薪じゃないんだ。それに充分暖かい季節になっただろう?」
「紙も立派な薪かと…それにまだ少し冷えますよ。」
「極度の末端冷え性は困るね〜その手を温めてくれる人を早く探しなさい。」
「謹んでお断りさせていただきます。」
サイラスが二人のやり取りを呆れながらみていた。
いつもの事ながら本当は総司令官という立場ならば暇な人では無いのにどこでこの作業をする時間を取っているのか…。ユキ様も少しは周りと触れ合ってくれればここまで苦労しないのにと…いつも思うだけのサイラスはまた胃が痛みはじめた為擦りながら二人のやり取りを見続ける。
「もう、そう言わずとも全部見てよ。」
「いえ、全部見なくても問題ないです。
執務に必要なことではないので。」
「冷たい…ねぇサイラスこの子冷たいね」
「いえ…気のせいですよ…。いつも通り。」
「答えなくていいよ。」
「もぉ…。なら、ほら!
彼だけでいいから頭に入れておいてくれる?」
そう言ってページをめくり、見せてきた。
そこにはドラゴンに一撃喰らわせ、
花束を渡してきた彼の情報が載っていた。
「この子の顔なら覚えてるよ。」
「顔だけじゃなくて名前も見て。」
名前がなんだと言わんばかりの表情をしながら、手書きで書かれた名前を見る。
「シオン……ベンダバール…。」
「そ、ベンダバール。
あの人の…師匠の息子さんだよ。」
「まさか、ご子息が来るとは。確かにジゼル殿に似ているような。ですがご夫人よりな気もしますね?」
「そっか、サイラスは会ったことあるんだっけ?
ジゼルの奥さん。」
「えぇ、あります。」
サイラスが来て写真を見ながら言う。
記憶の中のあの人と同じ髪の色、と瞳の色をしていて、懐かしく暖かな記憶がチラつくが同時に深く悲しい思い出がよぎった。
ジゼルが騎士団から離れる事になった理由の発端は自分だったからだ。
自然と手に力が入り、震えが出てくるユキを安心させようとユアンは頭に手を起き優しく撫でる。
「ジゼルとはココ最近手紙のやり取りしていないから知らないけど、息子をこの騎士団に入れてきたって事は、お前の事責めてるわけじゃないと思う。」
「さぁ分からないよ。恨みを返しに来たのかもしれない。」
「そんな事する人じゃないのはお前自身…よく知っているだろう。」
「…。」
「何度も言ってるけど、人を信じ無さすぎるのは良くない。
拒絶もし過ぎると心が疲れる。そうだろ?それよりも、
関わりを持ち、人に触れて人の温もりを知ろう。
ジゼルに言われただろ?
少しづつ変わってきてるのは分かるけど、もっと変わらないと。自分が悲しくなる一方だし、孤独に居続けていもいい事は無い。そうだろ?」
「それは…。」
「分かってると言いたいんだろ?
でも本当には分かってない。
いいかい、ユキ。君の事を拒絶する人だけじゃない。
受け入れてくれる人も居ることを忘れないで。
もう、独りになるような事はない。
ここには僕たちがいるから。
なんでも言ってくれ。頼って欲しい。
その為に僕らはここに居るんだ。忘れないで。」
ユキの目線にかがみ、優しく語りかける。彼女の瞳は揺らぎ涙がこぼれそうになっていた。
過去の出来事は今もまだ彼女を苦しめ、悲しませてしまっている。
人の優しさや温もりがどれほど大きなものかを知っているからこその恐怖。
反射的に一歩下がり、拒絶する彼女を二人は悲しい目で見ていた。
「シオン・ベンダバールは第五師団員だ。
これから少しずつ関わりがあると思うし、聞ける時に聞いたらいい。
あの人は今どうしているのかって。
それくらい聞いても彼は嫌がらないと思うよ?」
廊下の方から何やら騒がしい話し声が響いてくる。それが誰なのかすぐわかった三人は各々の反応をする。ユアンが小さい声でなにか呟き入口の方へ歩き出す。
「それじゃ執務室に戻るから、中きちんと見て感想聞かせてくれたまえ〜!」
そう言って部屋から退室した。
ユキの手に乗せられた紙の束がそっとサイラスから取り上げられ、彼の預かりとなった。暖炉に入れられて後々文句を言われたくないからだろうとは思った。
そして貰った花束に目線を移す。その目にはまだ水面のように揺らぎがあった。
心配するサイラスに気づき大丈夫だと伝えるため少し微笑む彼女に無理をしないでと言わんばかりに困ったように笑う彼なりの優しさがあった。




