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「失敗したな……」
馬車の中で眠っていたと起きた時に言われて驚いた。
どうやら起こさないようにそっと部屋に運ばれたのもどこまで寝汚いんだと猛省してしまう。普通起きるよな運ばれていたら振動とかで起きるよね。
恥ずかしい……なんでこんななかなか起きない性分なんだろう。
それに………。
「リュカスさま?」
そっと顔を覗き込まれる。
「どうかしましたか?」
じっとこちらを窺うアゼリア。
「……………」
そんなアゼリアに自分の失敗した話を言うのも情けないと思ってしまい黙ってしまった。
「……………」
アゼリアは何も言わない。だが、しばらくして何かに気付いたように目を大きく見開いて、
「すみません……役に立てませんでした……」
「アゼ………?」
「私は。リュカスさまの苦手な環境なのをお守りするためについていったのにお役に立てず………」
青ざめて、反省している様に、以前だったら攻撃されると思って庇う仕草があったのにそれが無くなったんだなという一種の感動とどうしてそんな勘違いをするのかという焦りで、
「ち、違うよっ!! あの、その……」
駄目だ。アゼリアに隠したかったけど、隠したらアゼリアの過去のトラウマで責められていると勘違いするんだ。
「その……本当はアゼリアを守りたかったんだ……」
「私を……守る……?」
意味が分からないと首を傾げる様に可愛いなと見とれつつ、
「うん……アゼリアにとって初めてのお茶会でしょう。緊張してどうすればいいのか困る時があるからその時は助けようと思ったんだ……」
だけど、実際には原色アタックにこっちの精神が参ってしまって、甘すぎるお菓子に現実から目を背ける機会を逃してピンチだったのをアゼリアが助けてくれた。
アゼリアも悪意に晒されて怖かったのに……。
「そんな自分に自己嫌悪をしているのに、馬車の中では眠ってしまって部屋に運ばれても起きないし………情けなくて………」
ホント何やっているんだろう。
自分で言ってるだけでも失点が多すぎて、アゼリアに失望されてもおかしくない。
「……………」
アゼリアは何も言わないけど、これ呆れているよね。
「ごめん、今のは……」
「それは私もです」
言いかけた言葉が遮られる。
「リュカスさまがお茶会を嫌がっていた。他の女性と婚約の話とかがあると聞いていて、私がリュカスさまを守らないといけないと思って参加しました。だけど、実際には……」
言い淀むアザリア。
「申し訳ありません」
「いや、そんなのっ⁉」
守ってもらうつもりはなかったし、自分で対応しないといけないと思っていたのだから謝罪されても困る。
「アザリアは悪くないし、こういうのは自分で……」
「ですが……」
「それよりも、大勢の人が苦手なアザリアを守る方が先決で……」
「いつまでも守ってもらっては」
「好きな子に守って貰う方が」
互いに言い合い、やがて、どちらともなく笑いだす。
「何やっているんだろうね」
「本当です」
やっと笑えるようになったアザリアの表情。成長した証だと思うとじんわりする。
しばらく二人で笑い合い、落ち着くのを待ってから。
「あのさ……」
「はい」
笑いながら考えていたことを言おうと思って口を開く。
「僕たちはまだ互いを助け合うほど力がないんだよ」
「はい?」
「アゼリアを僕の家に連れてきた時も父や母。そして、たくさんの僕たちに仕えてくれる人の手を借りた。――僕だけでは無理だった」
「……はい」
「誰かの手を借りないと誰かを守れない。子供だからとか、まだ発達途中だからという言い訳もできるけど、まだそこまで強くないんだよ」
「……………」
「もちろん。誰かの手を借りる時は必要だ。一人で生きていけないから。――だからこそ」
アゼリアの手を取り、
「どちらかが一方的に助けるなんて無理だから、共に強くなろう」
誰かが困った時に支えれる存在に。そして、困ったら助けてと言えるような強さを。
「………共に……」
「うん」
言っていておかしい言葉だったかなと思い返してみる。もしかしたら一人では何も出来ないのは情けないと思われているのでは……と不安になってしまうと。
「私は……リュカスさまと共に成長できるんですね……」
ずっとお側で。
後半は聞き取れなかったけど、嬉しそうに微笑むさまが可愛かったから聞き直そうと思わなかった。




