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お茶会に参加するのは決まったけど、どんな結果になるかは分からなかったのでなかなか進まなかった。
お茶会に参加したのはいいが、
(僕の方が駄目かも………)
「リュカスさま?」
心配そうにこちらを覗き込んでくるアゼリアの顔……というか色彩を見て安心してしまう。
お茶会に参加している人たちは、赤とか青とか緑とか……もう原色をあえて目立たせる格好をしてこちらに近付いてくるのだ。
我が家のメイドたちもいろんな色の髪や目がいる。だけど、あまり主張しない色合いであるし、僕がそう言う色合いを苦手にしているのを何となく察しているのかあまり目立たないように気を付けてくれている。
だけど、それは我が家での常識だ。
髪とか瞳で魔力の属性が分かるこの世界では見せびらかすのは当然で、それを隠す意味が理解できない。
見せつけるのが当たり前の状況で、それをアピールポイントとしてこちらに近付いてアプローチを掛けてくる。
「リュカスさま。我が家のお茶はどうですか?」
派手な赤い髪の少女が声をかけてくる横で、
「リュカスさまは先日。エルネスト王国に行かれたそうですね。どのような国でしたか?」
青い髪の少女が身を乗り出すように尋ねてくる。
そんな自分の隣りではアゼリアが腰を下ろしているのだが、アゼリアもアゼリアでいろんな原色の髪を持つ男性陣に声を掛けられている。
「お茶ですか……このお菓子を引き立てるいい香りですね」
視界に入れないように僅かに視線をずらして少女たちの対応をしているのだが、ここでお茶菓子に逃げようと思ったがそれも出来ない。
(現代日本ってすごいよ……)
よく外国産のお土産をもらって、甘さがくどいと思った人はいるだろうか。前世の僕はそれだった。よく分からない外国産のお土産が甘すぎて気持ち悪かったので貰ってもあまり食べていなかったのだが、今お茶会に出されているお菓子はその外国産のお土産よりもくどかった。
限界が来たらお菓子を食べて現実を逃避しようと思ったけど、お菓子も口に入れたくない状況。自然とお茶が進む。
ああ、お茶が美味しい。
前世は砂糖の入れたミルクティーが好きだったが、今では砂糖なしの紅茶が一番好きになっている。お茶をじっくり堪能して現実逃避をしているけど、そんなに飲み続けられる物でもない。
「リュカスさま」
ああ、どうしようと思っていたらアゼリアが声をかけてくる。
「リュカスさま、このスコーンはリュカスさま好みかもしれません」
そっと差し出されるのはスコーン。スコーンの傍にはジャムとかクリームがあったが、それを一切つけずに渡してくれる。
「あら、スコーンに何もつけないなんて、マナーを知ら」
「ありがとう。助かったよ」
何かを言い掛けていた少女も言葉を遮り、スコーンを口に運ぶ。うん。甘くなくておいしい。
スコーンを食べていると視線がいくつか向けられる。その視線の意味は嫉妬もあるがどちらかと言えば忌々しいというか悪意に満ちたもので、アゼリアは表面上は毅然と振舞っているが、小刻みに震えているのが感じられた。
「………っ!!」
人の悪意の中で生きていた傷はまだ癒えていない。あの時のことを彷彿させるのだろう。
呼吸も乱れて来て、そろそろ周りにも気づかれそうな危うさがある。
ぎゅっ
そっとテーブルの下で見えない位置からアザリアの手を握る。
大丈夫。僕がいる。
アゼリアが悪意に晒されないように守るよと伝えるように――。
「リュ、カスさま………」
小さく零れる声。だけど、小さく聞こえるが、溺れる人が縋るかのように伸ばしてくる必死さを感じる悲鳴。
今まで届かないからと諦めていた人が見つけた助けを求めていいのだという希望を宿す声だった。
希望を持っていいのだと、諦めないでいいのだと助けを求めれるようになったアゼリアにそっと微笑みかけて、僕自身も苦手な空間。目に疲れる場所だったのを必死に耐えて、お茶会の面々に話をして、婚約とか結婚とかそんな色恋関係の話題になりそうなのをスルーして、あくまで同年の子供たちと交流しましたという流れのまま進めていく。
途中で全属性の魔術を見せてくださいという発言も出たが、魔術をやすやすに見せるものでないとか、もしそれで暴走して怪我人が出たら責任が取れないと伝えて見せないという態度を変えないでいた。
「全属性持ちがお高く留まって」
女性陣の人気が僕一人に向けられているからか、アゼリアを僕が手放さないからか、このお茶会の主役であるはずの公爵子息が舌打ちをしてくる。
羨ましがっているが、彼女たちが見ているのは全属性持ちというステータスだけだぞ。ただの珍獣扱いで、手に入れれば自分も有名になれると思って流行を追いかけている子供のようなものだぞ。
替わりたいのなら替わってやるけど。
(これが前世の日本で女子に人気だった恋愛もののワンパターン、外側ばかり見ていて、中身を見てくれないと嘆いているキャラが、内側を見ているわと言われてころっと引っ掛かるパターンだよね)
まあ、僕にはアゼリアという可愛い婚約者がいるのに引っ掛かるわけないが。
ほとんど苦行のような時間を過ごし、解散の時間になって馬車に乗り込むと二人して、
「疲れた……」
「お茶会は戦場でした……」
互いに労わり合い、気が付いたら疲れたように眠ってしまった。
「あらあら」
「まあ」
屋敷に着いた時に手を繋いで眠っているのを母と侍女たちに見られる羽目になったのだが。
あと、お茶会の時に思った恋愛もののようだという考えが後にフラグだったと気付くのはも少し後――。




