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お茶会に参加するのを渋々受け入れて、準備をしていた当日。
「リュカスさま。お待たせしました」
馬車乗り場にアゼリアが待っていた。メイド服ではなくドレス姿で……。
「えっ………?」
思考が停止した。
ドレスと言っても軽量化を徹底させたようなふんわりとしたもの。ほとんどしろ。だけど、レースとかに紫を使用している。
言われなくても理解できる。自分のカラーだと。
「招待状がリュカスさまだけだと思っていましたか。と、旦那さまからの伝言をいただいてます」
ルチアーナが戸惑っているのに気づいて伝えてくる。
件の公爵家が娘を自分の婚約者に、【闇属性】を息子の婚約者にしたいと企んでいるとは聞いていたが、アゼリアにまで招待状を出していたとは聞いていない。
「ルチアーナ!!」
「旦那さまは若さまにあることをしてもらいたいからこそ、今回の招待状でアゼリアちゃんが参加するのを了承しました。――アゼリアちゃんも同意です」
ルチアーナの言葉が信じられない想いでアゼリアを見ると、アゼリアは決心したように強く頷く。
「アゼ……」
「さて、若さま。ここで長話をしていたら先方に遅れてしまいますよ。さっさとお乗りください」
もう一人のメイド――セナに急かされて無理やり乗せられる。
「ちなみに若さま。このドレスはメロウがアゼリアちゃんの負担を軽減しつつ、それでいて、品格を落とさないように考えて作り上げたドレスです。――似合うと思いませんか?」
「ああ。そうだな。アゼリアにとてもよく似合っている」
ついアゼリアに微笑んで告げてしまうとアゼリアがほころぶように顔を赤らめて嬉しそうに微笑む。
馬車の振動は少ない。
(ゴムの木を見付けれたのは僥倖だったな)
流石、全属性持ち。苗木であったが、土地に定着するように環境のいい状況を人工的に作り出して、少しずつ大きくなっていく過程で環境になれさせていき、無事に定着した。
それを少しずつ増やしていき、今では我が領地では滑車やタイヤなどで重宝している。それをもっと量産化して国中に広めたいものだが……。
クッションにバネというのもあったが、今現在バネになりそうな丈夫で加工しやすい金属が見つからないのとそれが出来る職人が見つからないので保留してある。
って、現実逃避している場合ではなかった。
「アゼリア……」
アゼリアは瞬きをするのを忘れ……てはいないが、出来る限り回数を減らしながらじっとこちらを見つめている。瞬きをする瞬間も惜しいとばかりだ。
「アゼリアは、このお茶会の主旨……理解しているかな?」
していないのならば、窮屈になってしまうが、馬車に置いていこう。そうしよう。
「わたしと……リュカスさまが相応しいかを品定めされる場所。と聞きました」
「………………すごい説明をされたね」
間違っていないけど、間違っている気がする……。
「品定めとは何か分かりませんでしたが……」
「そっか…………」
アゼリアが恥ずかしげに告げてくるが、そのまま知らないでいる方がいい気がすると心から思う。いや、いずれ知らないといけないけど、自分たちが品定めされているなんて言動はいろいろと思うことがあるので……。
「メイド服じゃないけど大丈夫?」
アゼリアはメイド服以外は好まない。いろんな服があるがメイド服以外を着ているのを見たのは今日が初めてだ。
初めて会った日? あれは、服ではない。
「大丈夫。です……」
あっ、これ大丈夫じゃないな。あまり表情に変化はないアゼリアだけど、いつもよりも声が小さいし、迷いがある。
「………………」
この状態のアゼリアを馬車から降ろす方が心配だ。侯爵家に辿り着いたらすぐにアゼリアは屋敷に送り返してもらった方がいいだろう。
馭者にそう頼もうと思った矢先だった。
「――帰りません。馬車で残ることもしません」
こちらを見透かすような視線とぶつかる。
「アゼ……」
「奥様に言われました。――わたしがリュカスさまに守られるだけで終わるか。リュカスさまの一番近くの場所にいられるかはこのお茶会から勝負になると」
「………………」
「わたしは……。リュカスさまのモノでいたい。リュカスさまと一緒にいられる場所にあり続けるためにはここは逃げてはいけないのだけは分かります」
「アゼリア……」
「リュカスさまの言葉でもやめません」
力強い宣言。
「そっか……」
初めて聞いた。アゼリアが自発的に言葉を放ち、自発的にしたいことと言い切った。
「そっか」
ずっと刷り込みではないかと思っていた。アゼリアに手を差し伸ばしたのは自分だったからアゼリアは自分のことを慕うのかと。
このお茶会でアゼリアと縁を結びたいと公爵家の思惑があると聞いた時に、アゼリアは自分に助けられたから傍にいるのであって、外を知ったらいなくなると思っていた。
いや、今でも思っている。
だけど、アゼリアは告げてくれた。
リュカスの一番近い場所で居続けるために逃げるわけにはいかないと。
常に受け身で悪意ばかりの所にいたアゼリアが、愛情を知ってくれただけではなく、愛情を求めるためには悪意に勝たないといけない事実を何となく悟ったったのだろう。
ならば、止めない。
「分かったよ。アゼリア」
頭を撫でたいけど、せっかくの髪のセットが崩れてしまうので我慢する。
「アゼリアの頑張るところを一番近くで見せて」
だから、代わりに応援しよう。困ったら助けれるように傍にいようと決意した。
アゼリア自立の始まり




