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「やめてください!!」
いつもの平穏な学園生活にも不穏はある。
一人の男子生徒が、予約カードを別の男子生徒に見せるように、
「こ、この自習室は僕が数日前に予約したのですっ!! そっ、それを譲れというのは……」
「はぁ~。庶民が貴族に逆らうつもりか~?」
同じ制服でも質が違う。予約カードを持っている生徒は量販店で購入したものに対して、もう一方の男子生徒はフルオーダーの質のいい生地を使っている。
明らかに貴族だ。
そして、貴族の学生は予約カードを持っている生徒を足蹴にして、カードを持っている手を何度も何度も踏みつけて、カードを奪おうとする。
「お前らみたいな庶民がこの学園に通えるのは俺ら貴族さまの寄付金のおかげだろうが、そこは頭を下げて、『どうぞ、この予約カードをお納めください』と渡すモノだろう」
そんな威張り散らしている生徒に誰も他の生徒は注意しない。関わるのが面倒だというのはっきり見て取れる。
たぶん、前世の自分だったら見て見ぬふりをしていただろう。だけど。
『リュカスさまはすごいです』
そういつも言ってくれる。アゼリアの尊敬するような眼差しが脳裏に浮かぶ。
そんなアゼリアの視線をまっすぐに受け止めれる。そんな自分で居続けたい。
だから。
「――学園は平等だ。ましてや予約をしていたのなら彼が優先だろう」
両者の間に割って入り、踏みつけていた男子生徒の足を退かさせる。
「なっ……」
「――大丈夫。ではないね。骨が折れていないか保健室で調べてもらった方がいい」
戸惑っている貴族令息を放置して、しゃがみ込み足蹴にされていた男子生徒の状況を確認する。
「あっ。あの……」
「無理にしゃべらない方がいい。頬も腫れている。口も切れているから」
足蹴にされる前に殴られたのか。ここまでやるなんて。
「で、ですが………」
彼の手には予約した自習室のカード。自習室は人気で数日前から予約して、やっととれる代物だ。しかもこの時期は試験前なので一人で勉強できる環境がほしかったのだろう。
庶民の場合は、家族が働いている中勉強をするのが申し訳ないと思い、家の手伝いで勉強を疎かにする者も勉強している途中で調べたいモノがあっても調べるための書物も手元にない者が多く、その為に自主勉強をしやすい環境のために自習室を借りるのだ。
気持ちは分かる。だけど、
「君が最優先にするのはケガの治療だよ」
言い聞かせるように告げると悔しそうに唇を噛み締める。
「はっ。だっさ。素直に譲ればこんなことにならなかったのにな」
鼻で笑って自分を正当化しようとする貴族令息に視線を向け、
「君の名前は?」
一応知っているが、聞いておく。
「はっ?」
「君のような貴族を名乗り貴族の誇りを蔑ろにする輩が居たら、僕たち善良な貴族が迷惑するから。君の行動は生徒会。そして教員に報告させてもらう。――君の行動を世間一般の貴族と思われたら貴族社会に大きな影響を与えるのできちんと処罰してくださいと」
ケガをしている生徒を支えるように持ち上げる。
「高貴なるものの務めを放棄している輩。貴族と名乗っているのに守るべき民から一方的に虐げ奪うようなものを同じ貴族として認めたくないものだ」
独り言のように告げるが、嫌味だ。
(侯爵子息だから言えるんだよな。うん。僕も身分を利用している)
かといってそれを利用しないで何かを行うことは不可能だろう。こんな輩と同じ土俵に上がりたくないが、仕方がない。
さて、この後あいつはどう出るか。このまま自習室を使うとしたらますます自分の立場が下がっていくだろうし、
(どうでもいいが)
保健室に連れていき、実は手の骨が折れていた事実が発覚したので、学園を通して被害届を出しておく。
もちろん。ここで暴力を振るった生徒を庇う者はいない。庇ってしまったら学園の名前が地に落ちる。
「同じ貴族として謝罪する」
保健室で治療をしている生徒に向かって詫びる。
「いえ、助けていただいて……」
「助けが不十分だった。ケガをさせてしまったのだから」
謝罪をするが委縮させてしまった。
どうしようと困っていたが、顔に出さない。しばらく考えて(案外、そんなに長くなかったかもしれないが)
「……先ほど、この学園には貴族の寄付で庶民が通えていると言っていたが、実際はそうではない」
「えっ?」
急の話題転換に戸惑っているようでそれには申し訳ないなと思いつつ、
「初期のころは貴族の寄付で通っていたが、その寄付で通っていた生徒が学園に入ったことで将来が開けたと官僚になったんだ。そして、それに感謝の気持ちでかなりの運営基金を寄付したんだ」
「そ、そうなんですか……」
「ああ。――そして、その寄付でまた別の庶民が外交官になったり、王族付きの従者や侍女になったとかでますます恩を返すつもりで……しまいにはそれで奨学金制度まで出来たんだ」
そこまで告げて、保健室までたどり着いた。
「だから、これは助けたのではなく恩を売ったんだ。――将来有望な人材に対しての」
何なら詫びの名目で、自習室を使えなくなった代わりに貴重な教材を贈りたい。先行投資的意味で。
「そんな。使いモノになるか分からないのに」
「それはそれで見る目がなかっただけだろう」
だから気にするなと告げると恐れ多いと緊張していたようだが、
「ならば。――期待に応えれるように頑張ります」
と笑っていた。
「その意気だ」
がんばれと応援すると彼は嬉しそうに頷く。
その数時間後。そんな様を生徒会の面々に見られて。生徒会にやはり入ってほしいと言われた。
丁重に断ったが。
足蹴が葦毛に変換されて間違えそうになった。なんで葦毛? ウマ娘の影響?




