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アゼリアが一人で出掛けることが多くなった。
とは言っても、侍女も護衛もいるのだが。
「一人立ちできたのは喜ばしいが……」
寂しいと思うのも事実。
「複雑だ」
思わず呟いてしまい、そんな自分に自己嫌悪する。
「リュカスさまでも人間らしい感情があったのですね」
従者の言葉に、人が人間じゃないかのような発言をやめてくれないかと思ったが、そんな軽口を言ってくれる相手がいいからと従者を選んだので文句も言えない。
「そこで黙れと言わないのがリュカスさまの人間らしくないと言われる理由ですよ」
いや、事実なんだし。自業自得なのを受け入れるものでは……。
「なら、どこに行っているか教えましょうか?」
甘い誘惑につい頷きそうになるが、
「……………………アゼリアが自分からしたいと言い出すのは初めてなんだ。アゼリアのしたいことを思うようにさせたい」
「………」
「僕はアゼリアを綺麗な箱庭に入れ続けることが幸せだと思っていないから」
アゼリアのしたいことを思うようにできる環境でアゼリアの帰ってこれる場所でありたい。
強がりだけど、アゼリアの帰ってくる場所が自分の所であってほしいのだ。
「…………これだからうちの若さまは~」
独り身にはきつい惚気をしないでくださいと言われて、惚気のつもりはなかったのでどこが惚気なのかと自分の言動を反芻する。
「でもさ。若さま。帰る場所という言葉、一つ間違えると親目線になるからね」
「…………………えっ?」
親目線………。
「アゼリアの婚約者だけど………」
「まあ、実際そうだけどさ~。若さまが拾って、育ててきたじゃん。アゼリアさまにとってはヒヨコが卵から孵った時に最初に見る相手のような感じで愛情も恋情になる前に刷り込みされた状態でしょ。いつか若さまに向けている感情が恋愛ではないと気付くかもしれないでしょう」
「………………………………………それは」
想像したらきつい。いや、アゼリアの意思を尊重したいが……。
「と言うことで様子を見に行きませんか」
名案が思い付いたとばかりに告げてくるので、
「いきなり何を言い出すんだ」
それではアゼリアの独り立ちにならないだろうと呆れながら止める。
「だって、若さま。気になるんでしょう」
「……………………」
そう言われたら身もふたもない。
「と言うことで、行きましょう。俺も興味あるし」
「………それが狙いじゃ」
「ナンノコトデショウーー」
視線を明後日の方向に向けて誤魔化される。
上司なんだけどな。一応。
……………そんな扱いされていないが。
というかこいつの中では僕は行くことが決定しているみたいだけど、僕だって忙しいのだ。そんな気軽にいくわけない。なのに何でこいつはここまでアゼリアの様子を見に行かせようとしているのか。
(何か別の理由でもあるような……)
とそんなことを考えていたら。
「あっ、そう言えば」
ふと思い出す。アゼリア付きのメイドの一人セナは。
「お前の片思いの相手だったな。ロバート」
「サテ、ナンノコトデショウ………」
必死に誤魔化そうとしているが冷や汗を流している。ああ、そうか、僕を大義名分にしてセナにちょっかい出そうとする男性がいないか確認に行きたいのか。
……………彼氏でも婚約者でもないのに。
「セナに言いつける」
「ちょっ、まっ、若さまっ!!」
セナに近付く輩をけん制するよりも先に告白をして、恋人なり婚約者なりなればいいのにフラれたくないからと何もしないで、それでいて他の男がセナに近付かないように脅したり牽制したりいろいろやっているのは報告に上がっている。
それでセナに嫌われそうになった前科もあるのに懲りないんだな。
「と言うことでお前の案は却下だ」
「そんなぁぁぁぁぁ!!」
「と言うか裏で暗躍するよりも先にさっさと告白しろ」
「それが出来たら苦労しませんよ!!」
「少なくともお前がけん制しているせいで友人が減ったと怒っているセナと人手が集まらないと困っている執事の方が苦労している」
こういう男って前世ではメンヘラとかストーカーと言われていた気がする。
「人材として使えるのだから。そこで問題行動を慎め」
というか、能力は優秀だけど、性格に難ありだからクビになってもおかしくないんだな。僕はそのつもりはないが、そのうち執事辺りが進言しそうだ。
「そんなの出来たら簡単ですよ。若さまだって、恋心が暴走することがあるでしょう!!」
「あるかもしれないが、お前のそれは桁が違う」
ないとは言い切れないのでそんな風に返すと、なんでこんな話になったのだったかと少なくとも脱線した事実にだけは理解できる。
取り合えず、仕事を再開しようと書類に目を通す。
「ロバート。この件は」
「――はい。先日確かめてみたら……」
仕事に戻ると先ほどまでの雰囲気からがらりと変えて説明を始める。
本当に仕事は役に立つのに性格は残念だと自分の従者を見て思ったのだった。
ちなみにリュカス付きのメイドは傍でこの様子を見ているので後で侯爵夫人に報告する予定。




