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新入生の挨拶というのは緊張するものだ。
前世を含めて人生経験が豊富でもこんな経験は初めてなので緊張する。
壇上に上がるとまず最初に見えるのはアゼリアの姿だった。
祈るように手を組んでいる様にアゼリアらしいと思ったからか少しだけ気を抜いて挨拶が出来た。
と、思う。
ほとんど内容は覚えていないが。
でも、引き受けたのはあくまで新入生の挨拶だけだった。
「なんで、生徒会に入るように勧誘されるんでしょうかね」
勧誘してきたのは生徒会のメンバーであり、上級生だから敬語だ。
「いやいや。普通に考えればあり得るだろう」
生徒会長がどこかこちらを揶揄うように告げてくる。
「新入生の挨拶をした生徒を生徒会が逃がすと思っているのかしら。早速入って………」
副会長らしき人物が勧誘して来るが勧誘の仕方が生徒会というよりもなんか前世行ったことないけど、水商売のお店のような感じだ。
うん。腕を組もうとしないでください。妖艶なお姉さん風に近づいてきてもこちらとしては危機感しか抱けませんから。
「大丈夫ですかリュカスさま」
あっ、アゼリア。ありがとう。おかげで助かったよ。
「あいにくですが、生徒会に入る時間はありませんので」
「生徒会に入る方が有利だと思うが」
「――いえ」
必死に勧誘してくる生徒会長に向かって丁重にお断りしているアゼリア。
確かに一般的には就職に有利かもしれないけど。
「リュカスさまは侯爵家なので」
そうなのだ。継ぐ家もしっかりあって、その為の勉強もしている。生徒会に入る暇はない。暇があれば、僕の全属性魔力の研究とアゼリアの闇属性の研究に魔術協会に呼ばれているし、アゼリアは自分の闇属性が何かの役に立つのではないかと魔道具作りも行っている。
「――アゼリアにすべて言われてしまいましたが、そう言うことなのでお断りします」
頭を下げて生徒会室から出ていく。
「なんであそこまで必死なんだろう」
「リュカスさまの実績はすでに世間でも評判で、そんな優秀なリュカスさまを生徒会に入れることが出来たという事実だけでも自らの実績は上がる……そうお考えなのでしょう」
「あ、あ………」
そう言うこともあるのか。
「こういう時に王族がこの世代にいないのがきついな。こういうのは王族が勤めるのがお約束なのに」
王族として、生徒会で生徒をまとめ上げるのも一緒の実績になる。特にそこの評価も社会に出たら役に立つ。
「その場合、リュカスさまはほぼ強制的に生徒会入りですね。すでに実績があり過ぎるので」
「そうなるのか……」
それは嫌だな……。
「新入生が早々に生徒会入りというのも変な話な気がする……」
前世の記憶だと選挙制で生徒会役員が決まって、新入生は選挙投票がないから生徒会入りするのもせいぜい半年後くらいな感じだが。
まあ、前世の世界でもそれは学校によって違うかもしれないけど。
(教師の推薦というパターンもあっただろうしな)
前世では全く縁がなかったから知らないけど、自分が生徒会に入れる器ではないのは自分が一番理解できている。
「そうですね……学園のことを知らないのに生徒会は…………荷が重いですね。集団の上に立つのは………………………………怖いです」
アゼリアの瞳は僅かに脅えが見える。
そんなアゼリアの頭を撫でる。
アゼリアの中には幼少期の恐怖体験がいまだ残っている。侯爵家で育って、自身を肯定されて、闇属性を忌避されなくなって、誰かの役に立てている自信を付けて来ていても。時折、彼女の心の闇がこうやって表に出てくる。
何かをして、悪意を向けられるのではないかという恐れは常にあるのだろう。
「そうだね。僕も怖いよ」
上に立つ人はよほどの覚悟がある人だろう。ただが生徒会というかもしれないが、自分の采配で誰かが苦しむ結果になる事実は正直怖い。
(政治家を批判していたけど、政治家は常に批判されて褒められにくいよな。正解がない中で国の指針として動いていたのだから……)
自分では無理だ。
「リュカスさまでも怖いことあるのですね」
「そりゃ、あるよ」
アゼリアは僕を何だと思っていたんだろう。
「怖いけど、目をそらしてはいけない……上に立つ人はすごいよね……」
「………ですね」
かといって、そんな人を支えろと言われても丁重にお断りするが。
「上に立つ人でなくても責任はあるけどね」
今自分が進めている魔道具研究。全属性持ちだからと進めている物も多いが、属性に偏りが出来たら魔道具が起動しなくならないかと不安だったりする。
「責任………そうですね……」
アゼリアが何かに気付いたように呟く。
「アゼリア?」
「リュカスさま。私は、学園に入ってやりたいことが出来ました」
それはアゼリアの独り立ち宣言だった。
責任は負いたくないと思うことがある




