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入学準備は楽しかった。
制服の採寸から始まっての学業に必要なものを揃える際に、どうせならお揃いのものを持っていたいなと思って提案して見たら、
「嬉しいです」
アゼリアが嬉しそうに微笑んで、文具店に緊張した面持ちで頼んでいた。
すると店員はその手があったかという反応をしたと思ったら、試作品の万年筆をいくつか用意してくれて、その中で気に入ったものを格安で販売してくれた。
いや、貴族。侯爵家だからそんな格安にしなくてもいいと告げたのだが、これはアイディア料を含めての割引ですと言われて、婚約者とお揃いの文具をという宣伝を付けての販売をして、かなり儲けたようだ。
確かに、商売として許可を得たら高額になるから格安にするのはあまり損ではない。こっちがサービスしている風に見せかけて、かなり得をしているやり方にうまい手だと思ってあえて何もしないでそのまま宣伝を使うのを見逃しておく。
まあ、ついでに万年筆以外の諸々も購入していったが。
そんな準備を楽しみながら追われている日々だったが、
「――僕に入学の挨拶。ですか」
そう言うにはふつう成績が優秀な人物か王族がなるものだと思ったけど……。
(そう言えば、僕らの世代は王族がいない空白時期だ)
王族と縁を繋ぎたい者たちはその時期をずらして子供を作るので子供の少ない時期なのだ。
前世で言えば、丙午の時期のようなものだ。
でも、あくまで子供が少ない時期であって子供が全くいない時期ではない。
「僕以外にも候補がいるでしょう。公爵家とか」
僕とアゼリアに婚約を申し込もうとしていたところは公爵家だ。王族がいないのなら公爵家に頼めばいい。
「いえ、候補者はリュカスさまとアゼリア嬢です」
「「えっ?」」
学園長直々に告げられて困惑しかない。いつものようにメイド服で僕の後ろに控えていたアゼリアも驚いたように声を漏らす。
「……最初は他の職員が話に行こうとしていましたが、他の者では、言葉を濁して伝えないと思いますので、私が直々に頼みに来ました」
「……………」
何を言い出すのか。
「御二方は、全属性持ちと希少な闇属性。どちらも一介の生徒同様に扱ってはいけない難しい存在です」
「……………」
ああ、言われてみれば。
(精神が子供だったら特別扱いするなと文句を言っていただろうけど、特別扱いすることで守られることもある)
暗黙のルールとか。秩序とか。
前世の子供の時は偉い人とかが期間限定のイベントを貸し切りにするというのが羨ましいと思ったけど、護衛とかのスタッフの対応を考えると特別扱いしないと混乱状態になるのだと思えてきたのだ。
「……なるほど」
他の生徒にした方が角が立つ。
「リュカスさま……?」
アゼリアに視線を向ける。
「いや、何でもないよ」
アゼリアは目立つのは苦手だ。たぶん壇上に上がって挨拶するだけでも勇気が必要だろう。
「魔力属性に関しての理由はそれだけですが、他にも理由はあります」
「他の理由?」
属性だけで話が終わるかと思ったら続きがあった。
「御二方のやっている活動。闇属性を利用しての精神治療の方法とそれを可能にする魔道具の作成。それが高く評価されていて、そんな御二方を除いて他の誰かというのは流石に……」
「魔道具の作成って、まだ完成していませんが……」
前世の知識をもとに、パニックルームとかを作れないかとアゼリアとアイディアを出し合って、父の友人の研究所に持っていったことがあり、協力もしているがなかなか思うように作れないようだ。
精神的に不安定な人を落ち着かせるための部屋と言っても前例はないし、アゼリアに実践で見せたが、それを魔道具で作れるかも未知の領域だ。
制作中にプラネタリウムもどきが出来たのは意外だけど、まだまだ先のことだ。
「ものになるかはまだ未知数だが、すでに社会人顔負けの仕事を兼ねている時点で学園では期待も大きいと思ってもらいたい」
「……………」
ああ、それは確かに他の人に任せられない。
「僕しかできないね………」
嫌だけど、アゼリアは目立つのが苦手だ。
「リュカスさま。お嫌なら私が」
「いや、僕がするよ。――新入生挨拶の際に注意することとかはありませんか。後、式での動きで注意することとか」
よくある話だと、入学式の挨拶をする前に特別な場所で待機とか。呼ばれる時に動きやすいように指定の席に座ってほしいとかあったりする。
「詳しい説明は担当の者がお伝えします」
それだけ告げて学園長はソファから立ち上がる。
「御引き受けくださり感謝します」
「いえ、お気になさらずに」
というか学園長に敬語を使われる方が緊張する。
「――入学したら言葉を改めますよ。今はただの元貴族子息なだけなので」
つまり、後を継がずに教師の道を選んだということか。
立場的に平民なのかと正直意外だった。
まだ、入学できない。




