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リュカスさまの名字が無かったことに今更気付く。
学園に通うことになったので二人で必要なものを揃えていく。
「後は、制服をオーダーするだけか……」
学生服は専門店で自分のサイズを購入するだけだった前世と違って、わざわざオーダーメイドするのに驚かされた。
しかも胸ポケットには家紋を縫ってもらうとか。
「いいのでしょうか……私はバルセローゼ家なのに、家紋を……」
アゼリアの胸ポケットには本来ならアゼリアの実家の家紋を縫うはずだが、自分と同じ――クワイエット侯爵の家紋が縫われている。
「いいんだよ。――僕の婚約者なんだから」
婚約者だから当たり前だと告げていたら、近くにいた令嬢が顔を赤らめて、
「う、羨ましい……」
と呟いているのが聞こえた。
何が羨ましいと言われるのだろうかと意味が理解できなかったが、アゼリアが同じように顔を赤らめて、
「リュカスさま……私が婚約者だと言ってくれるのですね……」
などと告げてくる。
何かおかしかったのだろうか。事実であるし。
意味が分からなかったので近くに控えていた従者に視線を向けると従者が、そっと、
「最近の流行りの物語に婚約者を冷遇する男性とか、婚約者を悪しき様に告げる男性が多くて、堂々と婚約者だと告げて、褒めてくれるものがないので」
「それで」
「その物語の真似をする殿方も多いようで……」
「……なるほど」
前世の世界にもあったな。ドアマット系とかマウントとかモラハラものか。婚約者を大切にして円滑に進む話は物語ではメリハリがなくて面白くないと判断されるのだろう。
そんな物語ばかりなのは別に否定はしないが、それを真に受けて、真似をする方が悪いだろう。というか、そのポジションって、悪役だよね。普通。
「アゼリアもそういう本を読むんだ」
「こ、婚約者との関係の参考になればと……」
恥ずかしそうに真っ赤になっている。可愛い。
「そうか。――でも、参考にするのはいいところだけにしてね。相手を悲しませるようなことを真似されたら僕も辛いし、アゼリアだって辛いでしょう」
アゼリアは子供じゃないけど、前世の世界の子供は親が真似してはいけないといった内容ほど親の反応が楽しいからと真似をしていた。親の普段の行動も真似していたからこそ人の振り見て我が振り直せということわざも生まれたくらいだからな。
「そ、そうですね……」
顔を赤らめていたが言われて気付いたのか今度は顔を青ざめる。
想像したのだろう。実際にそれを行って僕を傷付けてしまったらと……。
うん。可愛いな。
「大丈夫だよ。そういう行為をしない様に参考にすればいいのだから。その為に読んでいると思えば」
「そ、そうですね……。そんな風に本を読めばいいのですね……」
僕からすれば、アゼリアが本を読むという趣味を見付けてくれたことが嬉しい。
「大丈夫だよ。アゼリアは僕の可愛い婚約者で素敵な女性だから」
「それは……リュカスさまも……」
「えっ。僕も可愛い婚約者で、素敵な女性だった?」
悪趣味と言われそうだなと思いつつそんな言葉を返すと、
「ち、違いますっ!! 素敵な婚約者だということで……。揶揄っていますね」
ジト目で見られた。
「ごめん。アゼリアの反応が可愛くて」
謝るとアゼリアが頬を膨らませて、
「酷いです。許しません」
とそっぽ向く。
「ごめんなさい。許して」
「駄目です」
と言いつつもこちらを窺う様に少しだけ笑っているのが感じ取れる。
「どうしたら許してもらえるかな……」
困ったなというこちらの反応にいつ許してあげようかという少しこちらを窺うような気配を感じる。
「で、では。制服を寸法し終わったらデートをしてくれれば許してあげます」
可愛い婚約者のおねだり。それが嬉しいが、それを表面に出さないように気を付けながら。
「そうか。ありがとうアゼリア」
とお礼を述べる。
うん。従者がニマニマしているのが分かるよ。後、他のお客さんが羨ましがっているのも伝わってくる。
………こっちも言っていて恥ずかしくなった。
前世のリア充はかなり恥ずかしいことを平気でしていたと思ったけど。内心恥ずかしかったのかもしれないなとと変なことを考えながら採寸をしてもらう。
その後、約束通りデートを行い、クレープ屋で目を輝かせているアゼリアの姿があった。
どうやら、クレープが気に入ったようで、屋敷でも作れるように指示をしておいた。




