12
さて、留学の件もこれで片付いた。まだ何か言ってくるようであれば父が動くだろう。
「学園に通う準備か……」
我が国にももちろん最高基準の学園はある。
「何か、悩みごとですか?」
アゼリアが尋ねてくる。
「あっ、うん。通う際にこのままでいいだろうかと思ってね……」
「?」
意味が分からないとばかりに首を傾げる様に可愛いなと思いつつ、
「僕のこの髪。目立つよね」
肩で切り揃えた髪。魔力を持つ者は髪が長ければ長いほどいいという考え方で伸ばしているものが多いが、前世髪は短くするべしという考えで育ったので髪を伸ばすことに抵抗があったので妥協してこの長さなのだ。
それだけでも目立つのに、真っ白い髪。
「………そうですね」
そうではないとかフォローしたかったのかもしれないけど、結局はその言葉しかなかったという感じの沈黙だったな。
「幼い時は白い髪=魔力なし扱いだったけど、魔力無しではなく全属性持ちだと判断されて扱いが180度変わった時には戸惑ったんだよね。みんなが値踏みするような視線を向けてくるから」
まあ、慣れたけど。
「学園でもそんな視線を向けられるのは勘弁してほしいと思うから、いっそ変装して学園に通おうかなと……」
でも、それだと卒業資格取れないから困るか。学園の上の方に話を通せばうまくいくかもしれないが……。
(漫画とか小説のお約束のお忍びで学園を通う設定って、実際に行うと大変だよな)
権力者だからできる手腕だ。でも、そんな不正行為を見逃すなよ学園長。
「変装。ですか……」
アゼリアがぽつりと呟く。
「アゼリア?」
「変装したら、リュカスさまと一緒に行動できなくなりますね。婚約者以外の異性と二人きりは禁じられていますから……」
残念ですと呟くのを聞いて、
「も、もしかして……一緒にいたいってこと?」
そう言えば、アゼリアの家庭教師ももう貴族子女としての水準は十分合格点だと太鼓判を押していたな。アゼリアも学園に入ろうと思えばいつでも入れる……。
「………いや、ですか」
「嫌じゃない!! 全然嫌じゃない!! そ、そっか、アゼリアと一緒に学園に通えるのか~」
ならば目立つこの髪でも悪くない。いや、この白い髪で正体はすぐに分かるのだからアゼリアに近付く男子生徒をけん制できるだろう。
それがいい。変装はやめだ。
想像してみる。アゼリアの学園での制服姿。その隣に立って歩く自分。
「アゼリアは制服姿でも可愛いだろうね。きっと学園で人気者になるよ」
人気者になったアゼリアを想像していると、想像が進化してそんなアゼリアをつけ狙う男子生徒まで想像できてしまう。
いや、つけ狙う男子戦とならまだ婚約者という立場の自分が追い払うことができるが、
「リュカスさま?」
アゼリアの世界は狭い。
たまたま自分が気づいてアゼリアを助けてこの家に連れて帰った。それからずっとこの家でアゼリアは暮らしていて外の世界はたまに参加するお茶会しか知らない。
もし学園が始まって、アゼリアが外の世界を知ったらこの家での日々は色褪せていくのではないか……。
「リュカスさま」
アゼリアが外の世界を知ったことで今までアゼリアの関心を集めていた自分がただのメッキを付けているだけの存在だと気付いてアゼリアが去っていくのではないか。
「リュカスさまっ⁉」
自分はそれが怖い。
優秀な公爵子息というメッキは前世の記憶があるからかぶれるものだ。たぶん、年相応の子供だったらそんな優秀な子供ではなかっただろう。
全属性持ちという特殊性もあるが、それよりもっとすごい能力を持っている人も多い。
ない物ねだりをしないで、成長すればいいだけどと前世の記憶があるから思えるけど、それでも届かない壁というのがある。それを何とも思っていない虚栄をいつか見破られたら……。
「リュカスさま!!」
大きな声で呼ばれる。と同時に、アゼリアが自分の頬を強く掴んで顔を近づけているのに今更気付いた。
「うわっ⁉」
驚いて後ずさりしそうになったがここはソファーだったので頭をぶつけてしまった。まあソファーだから痛くないが、
「だ、大丈夫ですかっ⁉」
まさかそんな反応をされると思っていなかったのか慌てるアゼリア。ああ、目に涙を浮かべて泣きそうになっている。最近しっかりしてきたなと思っていたらそんなところで昔のアゼリアの面影を見付けてしまう。
(前世の記憶があるとはいえ、それは父親感覚な気がするな……)
いろいろやばい気がする。
「だ、大丈夫。ちょっと考えごとをしてい……」
言いかけた言葉が途切れる。目の前のアゼリアは子供のように頬を膨らませて、
「何をぼんやりしているのですか? 私が居るのにっ!!」
と言ってくる。その怒っている様が、怒られている立場なのに可愛くて……。
ふふっ
こっちが必死に笑いをこらえているのに、部屋で控えている侍女の誰かが笑っているのが聞こえてしまった。そちらに視線を送るがすぐにすまし顔になるので誰の笑った声なのか判別できなかった。
「よそ見しないでください」
自分の怒った顔が笑われた自覚がないのかアゼリアは頬を掴んだまま。
「リュカスさま。私が居るのに他所事を考えるのは禁止ですっ!!」
ああ、そんな風に自分の要望を行ってくれるようになったのも嬉しいなと感慨深いものが込み上げてくる。
誤解だと説明しなくてはいけないのだが、この怒った顔が可愛いからしばらくそのままでもいいかなと酷いことを考えてしまった。
イチャイチャ




