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「そうか。断ったか」
その日の夜に父に報告をすると予想通りだったのだろう。驚きもせずに頷いただけだった。
「申し訳ありません父上。父上の同僚の方の顔に泥を塗ってしまいました」
これが原因で職場でぎすぎすした雰囲気にならないで欲しい。職場内不和の原因になるのは勘弁してほしい。
「気にするな。あいつもそんな反応をされると思ってはいたと言っていたからな。逆に謝ってきたぞ」
「えっ⁉ では、この話はすでにご存じ……」
「――第三者から聞くのと息子から聞くのは別物だろう」
予想通りではなくすでに知っていたから驚かなかったのか。
「なんだ。そうだったのか……」
なら、畏まった報告をしなかったのにと内心父を責めていると、
「まあ、私の本音というか、国としての考えでは断ってもらいたかったがな」
などと言われて驚いた。
逆にこちらが驚かされるのは心臓に悪いが。
「最先端の知識を得てもらいたいのでは……」
「本人の意思を尊重したいのは親としても国としてもその意思は揺らがない。だから、断らず留学するのなら止めなかったが、かの国はおそらく留学してきたお前を国に帰さないだろう」
「あ、ああ…………」
(あり得るな……そう言えば、前世でその手の才能を持っている人がそのままその国に移住というのが多かったな。歴史の偉人とか)
自国では学べないからというのもあるかもしれないが、逃がさなかったのもありそうだ。
それは嫌だな……。
「お前の全属性持ちという能力はそれだけ魅力的ということだ」
「嬉しくないですね……」
闇属性の扱いを見ていると余計そう思える。でも、もしアゼリアに会わずに、闇属性の対応も知らなかったら頷いていたかもしれない。
最先端の魔法技術という言葉に騙されて。
ああ。でも、実情を知っていても留学すると思う時がもし来るとしたら……。
「父上のおかげで、留学する気にならなかったような……」
「んっ? 何故だ?」
いきなり自分の話題が出てきて不思議そうな顔をする父に、
「いえ、もし僕が留学すると決めたのならという……もしもを想像してみたのですが、たぶん、家族仲が良好ではないとか。アゼリアに会わなかったという流れか。もしかして、アゼリアに会っていても家に連れて帰れなかったという場合ではないだろうかと思いまして……」
「それで?」
父に促されて続きを口にする。
「多分、アゼリアがボロボロ状態で何も出来なかったらアゼリアの手掛かりを探すために留学してアゼリアを助け出す算段をするのかなと思ったので……」
と思ったまま告げると、真面目な顔で聞いていた父がプルプルと震えだして、爆笑をする。
「おまっ、真面目に聞いていたがそんな風にもしもを想像するとはっ!!」
ツボに入ったようで笑いが止まらない。父の傍に控えていた父の従者も爆笑する父に驚いて目を見開いている。
ちなみに僕の後ろに控えている僕の従者も笑いをこらえているのが何となく感じ取れる。
父はしばらく笑い続けていたが、やがて、笑いも収まって、机に置いてある白湯を飲み干す。
「そうか。――なら、私は国のためにもお前のためにもいい判断を取ったのだな」
「ですね。――感謝してます」
アゼリアを助けるために手を貸してくれて。
もし。もしも、アゼリアの状態を見て、父がアゼリアを助けるために動いてくれなかったらあのアゼリアが心配で助けるすべがないかと必死に考え続けていただろう。最悪の事態を予想しながらも留学の話を受けてアゼリアの手掛かりを探しただろう。そして、アゼリアの状況によっては助けだすと思っていたはずだ。
5年も過ぎている。もしかしたらあの時見たアゼリアよりもひどい状態になっている可能性を浮かべながら…………。
「感謝しています」
今の健やかに育っているアゼリアを脳裏に浮かべる。
僕一人では無理だった。
父が助ける手段を取ってくれて、母が可愛がってくれて、メイドたちもアゼリアに気を配ってくれているからこそ今のアゼリアが居る。
けして、一人ではできなかった。
「………私の方こそアゼリアには感謝している」
父の呟いた声。
「父上」
「なんでも一人で出来てしまう息子がアゼリアのために助けを求めて、アゼリアと接しているうちに年相応の顔を見せるようになったからな……」
「え、えっと………」
いや、前世の記憶のあるのに子どもらしく振舞うというのが無理だから。子供を演じられる某中身は高校生の探偵はすごいと思う。いや、あれは演技が嘘臭くて気持ち悪かったな……ファンには悪いけど。
でも、年相応の顔……。
「恥ずかしいのですが……」
そんな顔をさらしていた事実に穴があったら入りたいと思ってしまった。
ゲーム設定ではヒロインに会っているのでヒロインに会いたいから留学を決めていたので根っこの部分は同じです。




