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山の天気は崩れやすい。
このような日は飛び入りの客が多い。
三上紗枝もその一人だ。
「いらっしゃいませ。ご予約いただいた方でしょうか?」
「いえ。急に天気が悪くなって。すみませんが宿泊は可能でしょうか?三上と言います。」
「はい。大丈夫ですよ。大変でしたね。お疲れ様でございました。こちら、部屋の鍵となっております。」
昔、大雨の日、家の裏手の山が土砂崩れを起こした。前日姉とくだらない口喧嘩をした私、三上紗枝は友人宅に泊まった。おかげで私は被害から免れた。
ところが姉は土砂崩れに巻き込まれた。そして亡くなった。
山を極力避けてきたが、婚約を機に向き合おうと決めた。絶景を言い訳にして。
姉の残した物を手にして、窓の外を見ながら過ごした。
そして、気付けばこの旅館の老夫婦と不思議なところにいた。老夫婦によると、ここ《おもいでや》に招かれたようだ。
老夫婦は、話をただ聞いてくれた。
あなたは悪くない、運が悪かっただけだから、と言われ続けて来た中で、心地よかった。
「姉とつまらない喧嘩をした。それをしなかったら一緒に逃げられたかもしれない。お姉ちゃんが一人で寂しい思いをしなくてよかったかもしれない。お姉ちゃんはいなかった私を怒ってたかもしれない。憎まれてるかもしれない。それなのに、私だけが幸せになってもいいのかな。お姉ちゃんは死んじゃったのに。お姉ちゃんだって幸せになれたはずなのに。」
「お姉さんの気持ちはお姉さんにしか分かりませんよ。でも、優しいお姉さんだったのでは?それなら幸せに、と願ってくれているかもしれませんよ。」
「これが無くなるのはつらいです。お姉ちゃんの最期を知らないから、一人で寂しかっただろうから、見られるならみたい、声をかけていいならかけたい。ごめん、と謝りたい。過去を変えちゃダメなんでしょ?声をかけるのもダメなの?私も被害に遭うの?遭うなら過去を変えることになる。そうしたら、お姉ちゃんといられるの?」
「いえ。そうではないです。声をかけても大丈夫でしょう。お姉さんはお亡くなりになる事自体を変えるわけではありません。お姉さんの心に残るかも、というだけです。でも、あなたは被害には遭いません。存在するわけではないからです。ただ、目の当たりにする事であなたの心が壊れるかもしれません。人が亡くなるのを見る、というのはそういうことです。」
「だからこそ、簡単に行く、と決めてはいけません。あなたには未来がある。その未来を捨てることはいけません。」
老夫婦は真剣に答えてくれた。みたい、会いたい、でも怖い。姉に会いたい、謝りたい、でも。
悩んでいる間、老夫婦は黙って待っていてくれた。




