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《おもいでや》は、誰でも入れるわけではない。
「あの頃に戻ってみたい」「もう一度あの景色を」などと切望しない限りはたどり着けない場所である。
そして、何かに導かれるようにこの旅館に突然やってくる。
その説明を聞いた当人は納得する。どうして急にここに来たくなったのか、どうして思い出の品を持ってきたのか、どうして無理をしてまでここに来ることを望んだのか。
老夫婦は当人の話をじっと聞いてくれる。
肯定も否定もしない。ただきちんと話を聞いてくれるだけである。
どうするかは当人次第。
林さんは、奥さんと行った思い出の地を見えなくなる前にもう一度見たい、奥さんと美味しいと食べたあの店をもう一度訪れたい、と思った。
でも、これからますます奥さんの手を借りないと生活できなくなるのに、連れて行って欲しいとは言えない、だからこそ、最高の思い出の場所だけは覚えておきたい、そう思ったようだ。
「妻と、その思い出の場所で過ごした何気ないことを話して笑うことが多いんです。だから、もっと話したい。あーあったねー、と笑いたい。だから、行けるものなら行ってみたい。」
「でも、思い出の品はなくなってしまいますよ。それでも、行きますか?」
「無くしたくない。でも、見えなくなる。写真は私にはもう見えなくなる物です。これは、私の大切な写真です。だからこそ思い出が詰まっています。
だから私は、きちんと上書きができます。そう思っています。」
「それだけの覚悟があるなら。1時間だけです。約束をお守りください。でないと強制帰還、もしくはあなた様の消滅になります。くれぐれもお気をつけください。」
「「では、林智章様。いってらっしゃいませ。お気をつけて。お戻りをお待ちしております。」」




