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第75話

 



 かつて近づく者を黒焦げにする「感電の処刑場」だった空中発電プラントは、今や帝都中の子供たちが目を輝かせて見上げる『絶対絶縁・天空スカイリゾート』へと変貌を遂げていた。


 総帥アルベルトが投じた白金貨九億枚。

 巨大な絶縁クリスタルドーム内には、雷エネルギーを変換した心地よい光が満ち、雲を模した浮遊トランポリンが至る所に浮かんでいる。

 ドーム内を走る空中コースターからは歓声が上がり、レッサーパンダたちは「キュルルッ!」と幸せそうに尻尾を振りながら、除電されたフワフワの毛並みを太陽の下で輝かせていた。


「素晴らしい……。この、静電気一つない完璧な空気。そして、空中ブランコを楽しむレッサーパンダちゃんたちの『重力を忘れたあざとさ』。これぞ、空が到達すべき真のエンターテインメントです……!」


『キュッ! (パチパチしないし、リンゴは美味しいし、最高だピィ!)』


 純金製の避雷針タワーを背に、ロイド・グランヴェルの腕の中では、レッサーパンダが「ばんざい」のポーズでリラックスしきっていた。


 その横では、秘書官のクラウスが無表情のまま、ロイドのスーツに付着した微かなオゾン臭を『静電気完全中和コロコロ』で「シュゴォォォッ! ズババババッ!」と凄まじい音と共に完全に消去している。


 そこに、不快な放電音がドームの床を焦がして響き渡った。


「貴様ぁ! せっかく我々が構築した電磁投射砲レールガンの回路を、遊具の動力源に書き換えるとは何事だ! レッサーパンダは帝都を灰にするための『生体バッテリー』なのだぞ!!」


 デッキを突き破り、黒い雷光を放つ電磁ドリルを構えて乱入してきたのは、オーディン直属の『エネルギー軍事化班』だった。

 彼らは命の輝きを「電圧」としか見なさず、あざとい仕草を「出力の無駄」と断じる、冷酷な破壊の信奉者たちだった。


「この出力を全て兵器に回せば、大陸の半分を支配できる! さあ、その毛玉をこちらへ渡せ!!」


 リーダー格の男がドリルのスイッチを最大出力にしようとした、その時だった。


「……なるほど。電圧を高めること、出力を上げることだけに固執した結果、自分たちの『回路の細さ』には気づかなかったようですね」


 ロイドは溜息(ためいき)を一つ吐くと、レッサーパンダを抱きかかえたままゆっくりと立ち上がった。

 その瞳には、先ほどまでの慈愛など微塵もない。世界を裏から支配する、冷徹な特命代理としての(かお)だった。


「クラウス」


「はい、ロイド様。――不良在庫の『一斉放電(強制ログアウト)』を開始します」


 クラウスがタブレットの送信キーを叩いた瞬間。

 ドーム内の全避雷針から、逆位相の「完全絶縁パルス」が放たれた。

 工作部隊が誇る電磁ドリルは、供給されていた魔力を瞬時に遮断され、ただの「巨大な漬物石」と化して床に沈黙した。


「な、なんだと……!? 我が班の最新兵器が、ショートすらさせてもらえないだと……!?」


「『虚空の開拓者』。あなた方が兵器を作ろうとしたその送電網……。そしてあなた方の組織が今期投資していた全エネルギー債権を、我が財閥が先ほど『一方的な契約破棄に伴う全額接収』によって、すべて紙屑に変えさせていただきましたよ」


 ロイドは空中に巨大なホログラムウィンドウを展開した。

 そこに映し出されたのは、帝都エネルギー公社の総裁と、国際魔導法廷の裁判長だった。


「総裁、ならびに裁判長。お疲れ様です」

『はっ! ロイド様! 例の工作部隊による『公共電力の不法占拠および軍事転用未遂』の証拠、すべて受理いたしました。彼らが保有する全ての蓄電施設は、現在、我が公社が管理下に置きました!』


 軍事化班のリーダーはその報告を聞き、絶縁クリスタルの床の上で膝をついた。


 (バカな、我々の軍事資金ルートは完全に迷宮化されていたはずだ……!)


「あなたが『雷を奪って兵器を作る』という野蛮な作業をしている間に、我が社はあなた方の『存在の根源エネルギー』を遮断しておきました。……つまり、現在あなたが使用しているそのドリルも、あなたが着ているパワードスーツの動力も、既に我が財閥の『返却期限の切れたレンタル品』です」


 ロイドは、極上の微笑みを浮かべて、破壊者たちの息の根を止める完璧な提案を披露した。


「総裁。この男たちの全機材を、直ちに『空中遊園地・全自動ポップコーン製造機』へ改造してください。没収した電磁ドリルは、直ちに『レッサーパンダちゃん専用・全自動しっぽブラッシング機』のモーターに転用するのです」


 エネルギー公社総裁たちが、感銘を受けたように深く頷く。


『素晴らしいご提案です! これにより空の安全は守られ、同時に闇の電力供給ルートも完全に断たれます! ロイド様、あなたは帝都に光をもたらす希望の星だ!』


「ま、待ってくれ! 我々の軍事技術を、ただのしっぽの手入れに使うというのか!? そんな非効率な……!」


「効率? ……そうですね。私にとって最も価値があるのは、この子が空中ブランコの上で、ふわふわのしっぽを揺らして『キュルル』と鳴く、この非効率で最高に贅沢な時間ですから」


 ロイドの冷徹な宣告に、工作班のリーダーは言葉を失い、絶望のあまり全身の電力を使い果たしたかのように倒れた。


「お引き取りを。あなた方の下劣な放電音では、レッサーパンダちゃんが、リンゴの弾ける音を聴き逃してしまいますので」


 ロイドが優雅に指を鳴らした直後。

 工作部隊の醜い命乞いは、財閥法務部(回収班)によって物理的に塞がれ、そのまま一生「あざといばんざいが見られない、暗く湿った地下牢」へと強制連行されていった。


 ほんの数分。

 一滴の血も流さず、一つの巨大な闇組織の兵器拠点が社会から消去され、同時に空中プラントが「全人類の憧れのスカイ遊園地」へと浄化されたのである。


「……ふぅ。まったく、せっかくのブラッシング・タイムを邪魔されるとは」


 ロイドが視線を落とすと、巨大レッサーパンダが「キュルルッ!」と嬉しそうに鳴きながら、ロイドのスーツの胸元で全力の「ばんざい」を決めてきた。


「ああ、お待たせしましたね。さあ、もう一度、極上の除電ブラッシングを楽しみましょうか」


 先ほどまでの冷徹な顔は幻であったかのように、ロイドは目を細め、愛しいレッサーパンダのふわふわなトゲトゲ(?)に沈み込んだ。


「……ロイド様。工作員の資産接収、およびこのプラントの『特級空中リゾート・独占運用権』の取得が完了しました。我が社が遊園地を建設したことで、この空域の価値は大陸最大のレジャー拠点として天文学的に跳ね上がっております」


 クラウスが無表情のまま、『静電気コロコロ』を「ガシュゥゥッ!」とロイドの背中に転がす。


「素晴らしい。これで、この子たちのためにさらに極上の環境を整えられますね」


 破壊者を経済と権力で轢き潰し、空の平和を守りながら、浄化された雷雲から莫大な富を生み出す。

 世界一理不尽で、世界一優雅なワケアリ不動産の快進撃は、とどまることを知らない。





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