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第71話 雷鳴の空中工場と、帯電の巨大レッサーパンダ

 



 グランヴェル財閥・ワケアリ不動産本社要塞。

 深海から帰還し、しっとりとした肌を手に入れたロイド・グランヴェルの元へ、今度はエネルギー省の大臣が、髪をチリチリに逆立たせながら駆け込んできた。


「ロ、ロイド社長……! 助けてください! 雷雲に占拠された『魔導発電プラント』を、どうか買い取っていただきたい!」


 提示された映像には、荒れ狂う紫色の雷光の中で、黒ずんだ巨大な浮遊施設がパチパチと火花を散らす様子が映し出されていた。


「ふむ。空中発電所、ですか。インフラとしての価値は高く、空に浮かぶ要塞のような佇まいは非常にクールですね」


 ロイド・グランヴェルは、バチバチと鳴る静電気防止のティーカップで紅茶を楽しみながら、優雅に微笑んだ。


「クールなどと、そんな冗談はやめてください! あのプラントは数ヶ月前から、突如として『制御不能な巨大雷雲』に包まれてしまったのです! 近づく飛行船は一撃で黒焦げ、プラント内部は常に数万ボルトの電流が走り、人間が踏み込めば一瞬で消し炭になります!」


 大臣は、震える手で絶縁体ゴムのハンカチを握りしめ、顔の汗を拭った。


「今やあの施設は、帝都の電力を奪うどころか、雷を撒き散らす『感電の処刑場』です! 権利はタダで差し上げますから、どうか……あの呪われたプラントを引き取ってください!」


 踏み入れば最後、全方位からの雷撃で炭に変えられる空中工場。


 (ふっふっふ、いくら財閥でも、空を埋め尽くす雷を札束で絶縁することはできまい。そのまま感電して、空の彼方で花火となって散るがいい!)


 そんな浅ましい計算など、ロイドと、背後に控える秘書官のクラウスには一瞬で筒抜けだった。

 しかし、その話を聞いていたロイドの瞳は、感電への恐怖など微塵もなく――バチバチと火花を散らすような『歓喜』に満ち溢れていた。


(あらゆる魔力的な雷を意図的に引き寄せ、食らい、全身の毛を美しく逆立たせる圧倒的な帯電力。そして、雷雲の中から聞こえるという、威嚇のつもりで両手を上げる『あざといポーズ』の音……!?)


 冷徹なビジネスマンの仮面の下で、ロイドのモフモフセンサーが百万ボルトを突破するほどの警報を鳴らしていた。


(これは呪いなどではない。何らかの巨大な意思が、雷を『最高のスナック菓子』だと思って、夢中で食べ過ぎて静電気が溜まっているだけ……。このトゲトゲモフモフな質感の予感、間違いない……!!)


「素晴らしい……!」


「ひっ!? な、なにが素晴らしいのですか!?」


 歓喜の声を上げたロイドに、大臣が椅子から転げ落ちた。


「間違いない! 『感電の処刑場』などという不吉なものではありません! その中心には、雷を主食とし、あまりの帯電量に毛がトゲトゲに逆立ってしまった、究極のパンキッシュ・モフモフ……空の暴れん坊(巨大レッサーパンダ)がいるに違いありません!」


「は……? れ、れっさーぱんだ……?」


「あの独特の、赤茶色の美しい毛並み! 縞々の太い尻尾! そして、雷を浴びるたびに威嚇のつもりで『ばんざい』をする、あの宇宙一あざといポーズ! ええ、契約しましょう。その無料の感電物件、我が社が喜んでお引き受けいたします」


 ロイドは流れるような所作で契約書を完成させ、呆然とする大臣を「ゴム手袋をお忘れなく」と優雅に追い出した。


***


「……ロイド様。あのような物理的に『焼ける』土地、転売の価値があるのですか?」


 大臣が去った後、クラウスが無表情のまま尋ねた。


「当然です、クラウス。あの男は、自分がどれほどの『電力(熱量)』を手放したか理解していません。……魔獣レッサーパンダを保護し、お家芸で『周囲の狂った雷魔素』だけを綺麗に固定して更地にすれば、後に残るのは『空域一の出力を誇る、空中スカイリゾート(更地)』です。世界初のスカイ遊園地拠点になりますよ」


 雷雲を更地にする。

 一介の不動産屋が口にしていい規模の電磁気学への反逆ではないが、彼らにとっては、少し多めの電球の交換程度の認識である。


「なるほど、完璧なビジネスですね。……ところで、ロイド様。今回の落雷異常の原因ですが」


 クラウスは手元のタブレットを操作し、その無表情の奥に、避雷針よりも鋭い殺意を宿した。


「空中プラントの周辺に、『虚空の開拓者ヴォイド・パイオニア』の特殊工作艦が潜伏しています。どうやら、レッサーパンダの蓄電能力を利用して、大規模な『雷撃兵器』を製造し、帝都を空から威嚇しようとする実験を行っているようです」


「……おや、そうですか」


 ロイドは、極上の微笑みを浮かべた。

 しかし、その瞳の奥には、雷光よりも眩しい殺意が静かに渦巻いている。


「都合がいいですね。私の愛する家族(空のあざとい泥棒)を、電池の代わりとして酷使する無粋な輩。……極上のレッサーパンダを保護しつつ、同時に目障りな黒幕の『空中兵器工場』を、我が社が合法的に『経済的抹殺(資産差押)』して差し上げましょう」


「ええ。では、R&Dに命じておいた【完全絶縁・放電機能付きスリーピース】と、私用の『静電気完全中和コロコロ』の準備に入ります」


「頼みましたよ。さあ、視察に向かいましょうか。新たなる家族(空のトゲトゲ)のお迎えです!」


 踏み入れば即座に感電し、炭へと変わる、雷光の地獄へ。

 エレガントな御曹司と、戦闘特科トップの冷徹な秘書官は、究極のパンキッシュモフモフと、不埒な空の独裁者の首を求めて、優雅な足取りで雷雲への旅路を出発した。




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