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第51話 絶対零度の氷原と雪の妖精シマエナガ




 グランヴェル財閥・ワケアリ不動産本社要塞。

 最新の空調で常に快適な室温に保たれた社長室に、北方の国境地帯を治める『国境伯』の使者が、ガタガタと歯の根も合わない様子で駆け込んできた。


「ロ、ロイド社長……! 我が領地の北方に広がる『銀世界の永久凍土』を、どうか買い取っていただきたい……!」


 提示されたホログラムには、美しいが、あまりにも冷酷な白銀の世界が映し出されていた。


「ふむ。銀世界の永久凍土、ですか。非常に美しく、静謐な土地ですね」


 ロイド・グランヴェルは、温かいココアにマシュマロを浮かべながら、優雅に微笑んだ。


「う、美しさなど死神の誘惑に過ぎません! あの土地は数ヶ月前から、突如として『視界ゼロの猛烈な吹雪』に閉ざされてしまったのです! しかもただの吹雪ではない。踏み入れた者を一瞬でカチコチの氷像に変える『白い死の吐息』が吹き荒れているのです!」


 使者は、思い出しただけでも恐ろしいというように肩を震わせた。


「あの吹雪のせいで、北方との物流ルートが完全に遮断され、領民は飢え、経済は麻痺しています! 魔導士たちが大規模な火炎魔法で対抗しようとしましたが、その炎すら一瞬で凍りついて『火の氷像』になる始末……。もはや、神に見捨てられた『呪われた極寒地獄』です! 処理費用はこちらで持ちます、金貨一枚……いえ、無料で差し上げますから、どうか引き取ってください!」


 踏み入れば即座に氷像。炎すら凍る絶対零度の地獄を、無料で押し付けようとする使者。

 (ふっふっふ、いくら財閥でも、神の怒りとも呼べる絶対零度の自然現象はどうにもできまい。そのまま凍りついて、北方の氷漬け物件と共に心中するがいい!)


 そんな浅ましい計算など、ロイドと、背後に控える秘書官のクラウスには筒抜けだった。

 しかし、その話を聞いていたロイドの瞳は、寒さへの恐怖など微塵もなく――マシュマロのようにふんわりとした『歓喜』に満ち溢れていた。


(炎すら凍る絶対零度の吹雪。そして、吹き荒れる猛烈な『白い死の吐息』……!?)


 冷徹なビジネスマンの仮面の下で、ロイドのモフモフセンサーが凍土を突き破るほどの警報を鳴らしていた。


(特定の地点から、リズミカルに吐き出される冷気。そして吹雪の正体が、もしも『羽ばたきによって舞い上がる細かな雪の結晶』だとしたら……!!)


「素晴らしい……!」


「ひっ!? な、なにが素晴らしいのですか!?」


 歓喜の声を上げたロイドに、使者が椅子から転げ落ちそうになった。


「間違いない! 『呪われた吹雪』などという不吉なものではありません! その中心には、あまりの寒さを防ぐために何十、何百と身を寄せ合い、巨大な『モフモフの雪団子』となって眠っている、極上の密集系モフモフ……雪の妖精(巨大シマエナガ)の群れがいるに違いありません!」


「は……? ゆき、だんご……?」


「一羽は小さくとも、集まれば巨大な大福! あの丸いフォルム、つぶらな瞳、そして密集することで発生する究極の『モチモチとした弾力』! ええ、契約しましょう。その無料の氷漬け物件、我が社が喜んでお引き受けいたします」


 ロイドは流れるような動作で契約書を完成させ、呆然とする使者を「お足元が冷えませんよう」と優雅に追い出した。



***



「……ロイド様。あのような物流を完全に破壊している『絶対零度の地獄』、転売の価値があるのですか?」


 使者が去った後、クラウスが無表情のまま尋ねた。


「当然です、クラウス。あの男は、自分がどれほどの宝の山を手放したか理解していません。……魔獣シマエナガを保護し、お家芸で『猛吹雪の原因となる過剰な魔素』だけを綺麗に固定して更地にすれば、後に残るのは『大陸一の透明度を誇る、幻想的な氷の聖地(更地)』です。最高級のスノーリゾート拠点になりますよ」


 絶対零度を更地にする。

 一介の不動産屋が口にしていい規模の熱力学への反逆ではないが、財閥のトップエリートである彼らにとっては、少し多めの霜取り程度の認識である。


「なるほど、完璧なビジネスですね。……ところで、ロイド様。先ほどの使者の背後関係ですが」


 クラウスは手元のタブレットを操作し、その無表情の奥に、絶対零度の冷徹さを宿した。


「あの領地の国境伯。裏で『虚空の開拓者』の関連企業から多額の献金を受けています。今回の吹雪を利用して意図的に物流を遮断し、物資を買い占めて価格を釣り上げ、民を苦しめている痕跡がありました。……彼らもまた、オーディンの計画の一部、物流の『独占と機能制限』を担っているようです」


「……おや、そうですか」


 ロイドは、極上の微笑みを浮かべた。

 しかし、その瞳の奥には、氷の槍のような鋭い殺意が静かに渦巻いている。


「都合がいいですね。私の愛する家族(大福モフモフ)たちを、金儲けの道具として寒空の下に放置している無粋な輩。……極上のシマエナガ団子を保護しつつ、同時に目障りな国境伯の権益を、我が社が合法的に『経済的抹殺(物流の乗っ取り)』して差し上げましょう」


「ええ。では、R&Dに命じておいた【完全防寒・絶対保温循環スーツ】と、私用の『静電気除去・防結露コロコロ』の準備に入ります」


「頼みましたよ。さあ、視察に向かいましょうか。新たなる家族白い大福たちのお迎えです!」


 踏み入れば即氷像となる、白い死の吹雪へ。

 エレガントな御曹司と、戦闘特科トップの冷徹な秘書官は、究極の密集モフモフと、汚い権力者の首を求めて、優雅な足取りで凍てつく氷原への旅路を出発した。




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