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第50話

 



「撃て。その無駄な毛玉ごと、不動産屋をスクラップにしろ」


 冷徹なオーディン・ヴォイドの命令が下った瞬間。

 数百体の殺戮用機械兵キリング・オートマタが一斉に、ロイドと足元の次元兎ディメンション・ラビットへ向けて絶死の魔力光線を放った。


 ――しかし。


「……遅い」


 無表情の秘書官クラウスが展開した漆黒の『絶対防壁(ぜったいぼうへき)・展開シールド』の前に、すべての光線はパキィンッと甲高い音を立てて無害な光の粒子へと砕け散った。


「な……!?」


「不法投棄された粗大ゴミの回収作業を開始します。……全部隊、剪定スクラップにしろ」


 クラウスがインカムで短く命じた直後。

 更地となった巨大な地下空間の天井から、光学迷彩を解いた『戦闘特科』の部下たちが黒い雨のように降り注いだ。

 彼らは一切の感情を交えず、ただ「業務」として、最新鋭の殺戮機械兵の関節を的確に破壊し、魔力回路を引きちぎり、瞬きする間に数百体のオートマタを文字通りの『ただの鉄屑』へと変えてみせた。


「ば、馬鹿な……。我々の完璧な機能美であるオートマタが、たった数秒で……!」


「機能だけを追求した結果がこの程度のスクラップなら、あなた方の組織こそが最も『非効率』ですね」


 ロイド・グランヴェルは、足元で震える純白の次元兎を抱き上げ、オーディンを氷のように冷たい目で見下ろした。


「柔らかさ、温もり、あざとさ……あなたが『無駄な毛の塊』と呼んだこれらにこそ、世界を動かし、人々の心を豊かにする圧倒的な熱量(価値)が宿っているのです。……モフモフを愛せないあなたのような無機質な人間に、この世界の価値を語る資格はありません」


 ロイドは優雅にタブレットを取り出し、空中に巨大なホログラムウィンドウを展開した。

 そこに映し出されたのは、帝都の法を司る法務大臣と、物流を統括する運輸大臣の姿だった。


「法務大臣、ならびに運輸大臣。お疲れ様です」


『はっ! ロイド様! 例のダミー会社の資金ルート、ならびに帝都地下における『違法な空間破壊実験(テロ行為)』の証拠、すべて押さえました!』


 オーディンは、その顔ぶれと報告を聞いて、初めてその能面のような顔を僅かに歪ませた。


「オーディン・ヴォイド。あなたがこの地下市場の空間を意図的にバグらせ、帝都のインフラを人質に取っていた証拠……我が社の『更地にする(裏の繋がりを暴く)技術』ですべて洗い出しましたよ。これは明確な国家反逆罪に当たります」


「……下劣な資本家どもが。我々の高尚な『最適化』を、薄汚い法律で縛れるとでも思っているのか?」


「ええ、縛りますよ。徹底的にね」


 ロイドは、極上の微笑みを浮かべて、真の黒幕の資金源をえぐり取る完璧なビジネスの提案を進言した。


「大臣。この男が裏で操っていたダミー会社の全資産、ならびに彼らが乗ってきたこの『巨大開拓艦の空間干渉技術』を、すべて国家の名において没収してください」


 ロイドは、背後で控えるクラウスと戦闘特科がすでに制圧し終えた開拓艦を指し示した。


「没収した莫大な資金と技術は、すべてこの巨大な地下空間の再開発に充てます。ここは今日から、我が社が提供する『全国民に開放された、完全無料の次元間物流拠点および超大型地下モール』として生まれ変わるのです。……彼らが世界を破壊しようとした力は、皮肉にも、人々の生活を最も豊かにする『無駄の多い消費と物流』のために使われることになります」


 大臣たちが、感銘を受けたように深く頷く。


『素晴らしいご提案です! 帝都の物流は飛躍的に向上し、地下モールは世界最大の商業施設となるでしょう! 悪の技術を民のために還元する、これぞ究極の救済です! 直ちに手配いたします!』


「……グランヴェル。貴様らのような非合理な存在が、世界を腐敗させるのだ」


 オーディンは、完全に武装解除され、自分の組織の資産と技術が「最も憎むべき無駄な娯楽モール」に変換される屈辱に、ギリリと奥歯を噛み締めた。


「覚えておけ、グランヴェル。……貴様のその非合理な愛ごと、必ず世界から『消去』してやる。我々の『虚空』は、こんな所では終わらん」


 オーディンがマントを翻した瞬間、彼の足元に歪な次元のポータルが開き、その姿はノイズのように空間へと吸い込まれ、消え去った。

 おそらく、今回現れたのは彼の組織のほんの一部、あるいは彼自身の分身体ホログラムだったのだろう。


「逃げ足だけは一級品ですね。……まあ良いでしょう。彼らの財布には、取り返しのつかない大穴を開けましたから」


 ロイドはフッと息を吐き、冷徹なビジネスマンの顔を崩した。

 そして、腕の中で「キュゥ?」と首を傾げる純白の次元兎の、極上のフワフワな耳に顔を埋めた。


「ああ、お待たせしましたね。嫌な金属の匂いがしましたでしょう。さあ、安全で広大な地下モールで、ウサギちゃん専用の『無重力アスレチック』と特級黄金ニンジンを楽しみましょうか」


「……ロイド様。ダミー会社の資産接収、およびこの空間の『特級地下モール・独占運営権』の取得が完了しました。我が社が次元を固定したことで、この地下の地価は帝都一等地すら凌駕しております」


 クラウスが無表情のまま、『次元歪み・現実安定対応コロコロ』を「ガシュゥゥゥッ!」とロイドの肩に走らせる。


「素晴らしい。これで、この子たちのためにさらに極上の環境を整えられますね。……『虚空の開拓者』ですか。彼らがどれほど世界を無機質にしようとも、我が財閥の『モフモフ愛(圧倒的資金力)』で、すべて温かい更地にして差し上げましょう」


 モフモフを否定する巨大な闇を経済の力で轢き潰し、次元のバグすらも莫大な富を生み出す夢の施設へと変える。

 世界一理不尽で、世界一優雅なワケアリ不動産の快進撃は、とどまることを知らない。




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