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第49話

 



 ロイド・グランヴェルが優雅に指を鳴らした直後。


 帝都の遥か上空に待機していた巨大魔導艦から、地下深層の『特異点』だけをピンポイントで貫く、極大の『超広域・現実座標固定および次元平滑化』の光が放たれた。


 ――ピキィィィィィンッ……!!


 それは破壊ではなく、絶対的な『秩序ルール』の上書きだった。

 まばゆい光がぐにゃぐにゃに歪んだ空間を舐めるように広がった瞬間、メビウスの輪のようにねじれ上がっていた通路や、逆さまの天井、無限ループを引き起こしていた次元のバグが、パズルが正しい位置に収まるように「カチンッ」と音を立てて整列していく。


 数秒後。

 後には、どこまでも平らで、美しい大理石の床が広がる『超広大な地下商業スペース(更地)』だけが残されていた。


『……キュ!?(あれ、まっすぐ歩けるキュ!?)』


 ロイドの足元で丸くなっていた次元兎ディメンション・ラビットが、突然正常になった物理法則に驚き、長い耳を揺らしてピョンピョンと跳ね回った。


「お見事。今回は三次元座標の再計算という面倒な作業でしたが、我が一族のお家芸はいつ見てもスマートですね」


 ロイドは満足げに微笑み、ホログラム通信を展開した。

 当然のように、呼び出し音を待たずして兄の絶叫が響き渡る。


『ロォォォォォイドォォォォォ!! 私の愛する弟よ!! 空間がバグった迷宮に潜ったと聞いたが、三半規管は無事か!? 空間酔いで吐き気など催していないだろうな!?』


 画面の向こうのアルベルト・グランヴェルは、なぜか巨大な『時空干渉型・超弩級ミサイル』の弾頭を素手でへし折りながら血走った目で絶叫していた。


「お疲れ様です、総帥閣下(アルベルト兄さん)。ええ、R&Dの現実安定スーツのおかげで、極上のブラックホール・モフモフ(次元兎)を堪能する余裕すら――」


『何ということだ……! 空間酔いだ! 弟が迷子になって三半規管を痛めたぞ!!』


 アルベルトが、ミサイルを投げ捨てて頭を抱えた。


『愛する弟と、そのあざとくて可愛いウサギちゃんが、そんな歪んだ空間でぐるぐる回されていたと!? 万が一、そのせいで弟の美しい歩き方が狂ったらどうする! 宇宙の法則が許してもこのアルベルトが許さん!!』


「兄さん、次元兎ですから空間の歪みは彼らにとって遊び場なのですが」


『黙れ! おい経理! ロイドの口座に【ワケアリ地下迷宮・絶対重力安定&超絶豪華なニンジン畑つき地下モール建造費】として白金貨五億枚を叩き込んでおけ!』


「……ご、五億!? 兄さん、ついに次元の壁(予算)まで突破しましたよ!?」


『空間のバグなどすべてシャットアウトしろ! この広大な地下全域を、絶対に酔わない【最高級魔導ジャイロ搭載の現実安定ドーム】で覆うんだ! モールの中心には、ウサギちゃんが無限に遊べる【完全無重力・フワフワアスレチック】を建造しろ!!』


 涼しい顔で、帝都の地下に「現実を固定する巨大モール」を丸ごと一つ建設するという、次元すら札束でねじ伏せる環境改造を命じる総帥。


「……はぁ。クラウス、今日も絶好調ですね」


「ロイド様。白金貨五億五千万枚の入金、確認いたしました(ウサギちゃん用の特級黄金ニンジン代含む)」


 クラウスが無表情のまま、タブレットを操作して処理を進める。

 これで今回も、一件落着……誰もがそう思った、その時だった。


 ――ゴガァァァァァァァァンッ!!!!


 整地されたばかりの巨大な地下空間の壁面が、凄まじい轟音と共に爆砕された。


「……何事ですか」


 ロイドが目を細めると、粉塵の中から、冷たい鋼鉄の塊のような『超巨大な地下開拓艦』がその異様な船首を現した。

 船体には、無機質な歯車と虚無を象徴するエンブレム――『虚空の開拓者ヴォイド・パイオニア』の紋章が刻まれている。


 開拓艦のハッチが開き、冷徹な足音を響かせて一人の男が降り立った。

 感情の一切を感じさせない、氷のように冷たい灰色の瞳。彼こそが、これまで数々の悪党を裏で操り、世界を『機能』だけで塗り替えようとする真の黒幕、総帥オーディン・ヴォイドだった。


「……チッ。計算外の事態だ。我々が投じた『空間崩壊の実験場』が、まさかこれほど短時間で正常化されるとはな」


 オーディンは、更地となった地下空間を見渡し、忌々しそうに舌打ちをした。


「貴様らが、最近我々の『資源供給ライン(悪党ども)』を次々と潰して回っているという、イカれた不動産屋か」


「おや。ご挨拶が遅れました。私がワケアリ不動産の社長、ロイドです」


 ロイドは、いつもの優雅なビジネススマイルを崩さずに一礼した。


「なるほど、この不可知市場の空間バグは、やはりあなた方の『実験』でしたか。帝都の地下を崩壊させて、何を企んでいたのです?」


「企む、だと? 言葉を慎め、前時代的な無能どもめ」


 オーディンは、足元でロイドの背中に隠れる次元兎を見下ろし、極めて冷酷に吐き捨てた。


「我々は『最適化』しているのだ。この不完全で、無駄な感情や生態系に溢れた世界をな。……特に、その足元にいるような『魔獣』という存在。ただ空間をバグらせるだけの、非効率で無意味な『毛のゴミ』だ。そんなものにリソースを割く世界など、我々がすべて平らげ、完璧な『機能と工場』で埋め尽くしてやる」


 オーディンが冷徹に指を鳴らすと、開拓艦から数百体の殺戮用機械兵キリング・オートマタが展開され、一斉にロイドたちへ銃口を向けた。


「その『空間の特異点ウサギ』は我々の実験体として回収する。さっさとその無駄な毛玉を渡して、消えろ」


 静寂。

 オーディンの言葉が響き渡った直後、ロイドの顔から、スッと笑みが消えた。


『……キュ、キュゥ……』


 殺意を向けられた次元兎が、恐怖で長い耳を震わせ、ロイドの足元にギュッと身を寄せる。


「……無駄な毛の塊、ですか」


 ロイドは、震える次元兎を庇うように一歩前へ出た。

 その瞳の奥には、これまで見せたことのない、絶対零度を遥かに超える『激怒』が渦巻いている。


「この究極の柔らかさを、あざとい上目遣いを、温かいモフモフの鼓動を……『非効率なゴミ』だと?」


 ロイドの声は、静かだった。

 しかし、その声は空間そのものを震わせるほどの、圧倒的な凄み(プレッシャー)を放っていた。


「私の家族モフモフの価値を理解できず、排除しようとするあなた方の存在こそが……私の宇宙における『最悪のバグ』です。……万死に値しますよ」


「クラウス」


「御意」


 世界を機能で塗り替えようとする破壊者と、モフモフのためなら世界(予算)の理すらねじ伏せる変態的な御曹司。

 決して相容れない二つの巨悪(?)が、今、帝都の地下深くで激突する。




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