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第44話

 



 ロイド・グランヴェルが優雅に指を鳴らした直後。

 遥か上空の分厚い火山灰の雲を突き抜け、巨大魔導艦から極大の『超広域・有害物質消去および岩盤平滑化』の光が放たれた。


 ――カァァァァァッ……!


 破壊音など、一切ない。

 ただ、まばゆい浄化の光が灼熱の空洞を舐めるように広がっただけだった。


 しかし次の瞬間、坑道内に充満していた赤黒い有毒ガスはチリ一つ残さず消滅し、吸い込めば肺が浄化されそうなほどの清浄な空気へと変換された。

 さらに、マグマの池を囲んでいた無数の鋭い岩礁や、落石の危険がある天井の亀裂が、まるで巨大なヤスリをかけられたかのように「ツルン」と削り取られ、平らで滑らかな『極上の岩盤(更地)』へと作り変えられたのである。


『ピィィ?(あれ、空気がおいしいピィ?)』


 マグマの池に浸かっていた巨大なぽっちゃり不死鳥が、突然スッキリと晴れ渡った視界と、心地よい岩盤の手触りに丸い瞳をぱちぱちと瞬かせた。


「お見事。今回は対象の毒素成分と岩の硬度を逆算した浄化でしたが、我が一族のお家芸はいつ見てもスマートですね」


 ロイドは満足げに微笑み、滑らかな温かい岩盤の上に優雅に腰を下ろした。


「さあ、これでここは、白金貨数万枚でも買えない『特級・天然マグマの露天風呂と岩盤浴』へと生まれ変わりました。……さて、本省に報告を入れましょうか」


 ロイドが空中にホログラムを展開すると、今回も呼び出し音を待たずして、画面いっぱいに兄の顔が映し出された。


『ロォォォォォイドォォォォォ!! 私の愛する弟よ!! 灼熱の廃鉱山に向かったと聞いたが、その美しい肌が熱で乾燥していないか!? 汗は!? 汗はかいていないだろうな!?』


 画面の向こうのアルベルト・グランヴェルは、なぜか極寒の雪山に立ち、素手で巨大な『氷山』をベキバキとかち割りながら、血走った目で絶叫していた。


「お疲れ様です、総帥閣下(アルベルト兄さん)。ええ、R&Dの耐熱スーツのおかげで、極上のヒーター付き羽毛布団(不死鳥)を堪能する余裕すらありました。……ところで、その後ろの氷山は?」


『ああ、お前が火の山にいると聞いて、最高級の【純天然・特大かき氷】を差し入れようと思ってな! 今ちょうど、北の果ての氷河を物理的に『採掘(スクラップ)』して削っているところだ。気にするな』


 氷点下の声で自然の地形を破壊していることを告げた後、アルベルトは秒で蕩けるような笑顔に戻る。


『それよりロイドよ! 見事な有害物質の解体だった! ……だが、待て。お前の後ろでマグマに浸かっているその丸い鳥はなんだ!? 異常なまでの熱気を放っているではないか!』


「ヒーター内蔵型の極上のダウン(羽毛)ですよ。とても温かくて――」


『何ということだ……! 熱い! 熱すぎるではないか!』


 アルベルトが、氷山を投げ捨てて頭を抱えた。


『愛する弟と、その丸くて可愛い鳥ちゃんが、そんな灼熱のマグマの横で野ざらしになっているだと!? 万が一、その熱で弟が熱中症にでもなったらどうする! 鳥ちゃんも、たまには涼みたいはずだ! 宇宙の法則が許してもこのアルベルトが許さん!!』


「兄さん、火喰い鳥ですからマグマの熱はむしろ彼らにとって快適なのですが」


『黙れ! おい経理! ロイドの口座に【ワケアリ鉱山・絶対温度管理クーラードーム建造費】として白金貨四億枚を叩き込んでおけ!』


「……よ、四億!? 兄さん、ついにとんでもない大台を突破しましたよ!?」


『マグマの熱気など、温泉部分以外はすべてシャットアウトしろ! この広大な空洞全域を、絶対に結露しない【最高級魔導クリスタルの巨大冷却ドーム】で覆うんだ! ドーム内の室温は、弟と鳥ちゃんが最も「心地よく涼める」摂氏二十二度に固定しろ! そして岩盤浴の横には、極上のフルーツ牛乳が無限に湧き出る【ミスリル製の特大冷蔵庫】を建造するんだ!』


 涼しい顔で、活火山の火口に「超巨大な冷蔵庫とクーラー」を丸ごと一つ建設するという、自然の摂理を札束で殴りつける環境改造を命じる総帥。


『ピッ。お兄ちゃん、あのうるさい箱、おもしろいピィー』


 その時、マグマの中から顔を出していた不死鳥の、のんびりとした念話が脳内に響く。


「ええ、もうすぐあの箱(通信機)の向こうの人が、このあっつい温泉の横に、極上の涼しいお部屋と冷たい飲み物を作ってくれますからね、鳥ちゃん」


 ロイドが羽毛に向かって優しく微笑むと、通信の向こうでアルベルトが残っていた氷河を粉砕して立ち上がった。


『ロイド!! また私に聞こえない声で誰かと話したな!? その「ピッ」は私にこそ向けられるべきだ! 私もその丸いお腹に顔を埋めながら、フルーツ牛乳を一気飲みしたい!! 追加で白金貨五千万枚だ!!』


「……はぁ。クラウス、今日も絶好調ですね」


「ロイド様。白金貨四億五千万枚の入金、確認いたしました」


 クラウスが無表情のまま、特製アクロバットコロコロを「ズバババッ、ギュイィィン!」とロイドの肩に走らせながら、淡々と処理を進める。


総帥閣下(そうすいかっか)の仰る通り、これはもはや廃鉱山ではなく『絶対防衛・完全冷却ドーム付き岩盤浴リゾート』となります。巨大ドームの維持管理と、鳥ちゃんへのフルーツ牛乳の補給係として、私直属の戦闘特科から『部下』を百名ほど派遣しておきます。あ、鳥ちゃん用の『極上魔力アイス(特大サイズ)』も追加発注済みです」


 数分後。

 人を灰にするはずだった灼熱の空洞に、財閥本省から緊急転送された数万人の超特級・魔導建築工兵部隊が飛来し、火口を丸ごと覆い尽くすほどの「巨大冷却クリスタルドームとミスリル冷蔵庫」の建造を凄まじい速度で開始した。


 最強の権力と、狂気すら感じる過保護な資金力を武器に、ワケアリ不動産屋はついに活火山の熱すらも完全にコントロールし、世界最大の「温泉リゾート」へと作り変えたのである。




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