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【本編完結】狐狂いのVRMMO ~理想の狐を作ったら最弱の幼狐になりました~  作者: かきのたね
番外編

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番外編1 全ての元凶、とある開発の一幕

 これはエテニウムが正式に稼働する1年ほど前の事である。

 日が落ち始め、外は紅に染まり始まる頃……佐藤は会社の一室で、3Dモニターに浮かぶ白銀狐のホログラムを凝視しながら淡々と、だが鋭く空間に投影されたコンソールを弾くように指先を動かしていた。

 空調の微かな動作音だけが響く部屋で、彼は数値を一つ書き換えては、仮想の風を狐の体に叩きつける。


「……クソッ、なびき方に違和感が出るか……。流体抵抗係数の見落としか、それとも毛同士の衝突判定のミスか……?」


 白銀の毛並みが風に煽られ、複雑な軌跡を描いて収束する。その一瞬の挙動に納得がいかず、彼は眉間に深い皺を刻む。

 そんな作業を行う佐藤に、後ろから緊張感のない明るい声がかけられた。


「先輩、お疲れ様っす。はい、差し入れのエナドリっすよ。もうすぐ終業時間っすから、そろそろメンテでサーバーの電源落とされちゃうっすよ?」


 振り向かなくてもわかる、能天気な気配。小柄で、よく学生と間違えられる女性……。冷たく当たろうが気にせずに懐いてくる後輩の姿を思い浮かべ、佐藤は頭を抱えた。


「……何の用だ。また何かバグでも出したのか? こんな時間に泣きつかれても、俺は定時で上がるぞ」


「えへへー、心外っすねー。挨拶っすよ、挨拶。それにしても、先輩。その狐を構成するアセット、相変わらず芸術品のようなこだわりっぷりっすよねー」


 (またか……。)


 彼女がこのトーンで話しかけてくるときは、決まって何かを要求してくるときだ。佐藤は彼女がおねだりを口にするより早く、手元の付箋(ふせん)に共有サーバーのパスをさらさらと書き込み、背後へ突き出した。


「共有フォルダにバックアップがある。好きにコピーして持っていけ。……これ以上、俺の時間を奪うな」


「流石は先輩っす! 察しが良すぎて大好きっす!」


 後輩は付箋を大事そうに胸に抱え、スキップでもしそうな足取りで自席へと戻っていった。佐藤はそれを視界の端で見送りながら、迷わずシステムの電源を落とす。

 直後、自席に戻った後輩は、半音ズレた鼻歌を歌いながらバックアップデータを自身のデバイスにコピーし始めていた。


「ふんふーん♪ ……おお、これっすね! うわ、何これ。演算処理は最適化されてるのに、ディテールが変態的……。でも、ちょうど良かった。これなら使えそうっす。このアルゴリズムをベースに、ヒューマノイド・ボーンを流用して獣人にコンバートして……よし。北方の王族用のマスターデータ、これで完成っす!」


 そのモニターには、銀髪銀眼。狐の耳と尻尾を持つ、怜悧な美貌で周囲を拒絶するような雰囲気を纏った、高潔な女性が表示されていた。


「ふーん……先輩、メスの狐のデータを作ってたんっすね。テスト用のデータなのに、ここまで細かく設計するとか、先輩は一体何を目指してるんっすかね……? 実は重度のケモナーっすか? とりあえず13歳に年齢操作して、私のテストプレイ用のアバターとして登録っと……。せっかくだから、王族判定されるアバターの初期装備に、お気に入りの和装のアセットを……これで良し! 」


 次にモニターに映し出されたのは、最高級の絹で作られた雅な和装を纏った、まるでクズノハが10歳ほど成長したかのような少女の姿だった。

 その顔立ちは偶然似たというには出来すぎていた。まるで同じ設計から作られたかのように、均整の取れた輪郭はどこまでもよく似ている。


「ふふ、ログイン出来るようになったら、王女として王宮生活を満喫してやるっすよー!」


 そして彼女は、サーバーメンテが始まる前にシステムを落とし、機嫌よく家へと帰っていく。

 このようにして、誰にも気づかれずに一年後の佐藤の運命が決定したのであった……。

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