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【本編完結】狐狂いのVRMMO ~理想の狐を作ったら最弱の幼狐になりました~  作者: かきのたね
五章 白銀の姫君と観察者達

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59話 氷雨と重い轍

 街を発ってから数刻。空は厚い雲に覆われ、冷え切った雫が天より降り注ぎ始めた。振り返れば、遠ざかる街の防壁は雨の幕に遮られ、まるですりガラスを通したかのように白く霞んでいる。

 街道には重苦しい泥の匂いが立ち込め、馬車の車輪が泥濘(ぬかるみ)に足を取られては悲鳴を上げる。思うように進まぬ速度に、カレンは渋い顔で空を仰ぎ、ため息が白く濁ることで、秋の深まりを告げていた。気温の低下もあわさり、予定を切り上げての野営を決断せざるを得なかった。


 「ハルさん……この雨の中で、これ以上暗くなっての移動は危険よ。今日はここで野営にしましょう」


 降りしきる雨では火を熾すことも叶わない。カレンは馬車を道の端に寄せてから、ソファの後ろで積み重なっていた厚手の毛布を何枚も引っ張り出した。


「はい、ハルさん、クズノハちゃん。ふふ……今日は好きなだけ毛布に包まってもいいわよ。前みたいに、勝手に潜り込まなくてもいいんだからね?」


 クズノハはカレンから目線を逸らせ、ハルにビスケットとドライフルーツを手渡した。


「クズノハちゃん、ありがとねぇ……カレンさん、すまないねぇ……私があの時、クズノハちゃんが街に行こうとするのを一緒に来るのではなくて止めていれば、こんな事にはならなかったかもしれないねぇ……」


「ハルさん、そんな……気にしないでください。悪いのは間違いなく、この! ここの! 引っ付いたら離れない! 小娘なんですから! ね!」


 カレンはクズノハのほっぺたを容赦なく引っ張っていたが、身動きすらせずにされるがままとなっている。むにむにと引っ張られた頬は、かなり強引に引っ張られていたのか赤く色づいている。流石に少し痛かったのか、自分のほっぺたをすりすりとなでながら鼻息をふすーっと吐き、カレンに渡すはずだったビスケットの袋を手に持ったまま、襲撃者の方をじっと見つめていた。


「ハルさん、それよりも帰りのルートのことなんだけど、この雨の中だと峠を越えるのは危険だと思うの。少し時間がかかっちゃうけど、遠回りしてなるべく平坦な道を進むことにするわね。行きと比べると、少なくとも一日は余分に時間がかかっちゃうと思うの」


「そうかい……危ないなら仕方がないんだろうねぇ……」


 ハルは、そう呟きながら外へと視線を向けた。それを見ていたクズノハは、毛布に包まりながら自身の尻尾をハルの上へと置く。そしてカレンの方をチラリと見てから、静かに瞳を閉じていた。


 翌朝。馬車の幌を叩く雨音は激しさを増し、泥濘(ぬかるみ)と化した(わだち)は、もはや濁った小川のようになっていた。クズノハはハルの膝の上、その腕の中にすっぽりと嵌め込まれるように抱きしめられ、満足に身動きも取れない。だが、時折もぞもぞと落ち着かなさそうに身じろぎをして、拘束している本人を見上げたりしていた。

 車内は重苦しい沈黙が支配し、時折、馬車馬に対して鼓舞の魔法(バフ)をかけるハルの掠れた声が響く。だが、この激しい雨の中では慎重にならざるを得ず、無理に馬の力を引き出せば車輪が泥を掘り、底なしの泥濘(ぬかるみ)に沈み込むリスクがあった。ハルの魔法は、もはや進むためではなく、止まらぬように維持するだけの切実な祈りに等しかった。




______________________________________________



 ベロゼリスクの大聖堂。その重厚な扉が叩かれた後、軋みをあげながら動き出し、湿り気を帯びた秋の冷気が大理石の床を這うように入り込んだ。

 逆光の中に現れたのは、雨に濡れたマントを翻す数名の男女。移動を優先した軽装の革鎧に、防寒用の厚手のケープを纏っているが、その胸元には王家の信認を示す紋章が刻まれている。そして、フードの隙間……頭の上からは濡れて束になった鋭い耳が覗き、整えられた尻尾が冷気に震えていた。

 その先頭に立つ、凛とした佇まいの女性騎士に対し、老司教は静かに語りかけた。


「遠路、よくぞ参られました、騎士殿。お待ちしておりました。……(くだん)の幼子、そして彼女を保護している者たちは、この雨が降り出す直前に街を発ちました」


 女性騎士は、瞳の奥に滲んでいた焦燥をわずかに和らげ、深く息を吐く。


「ご報告感謝いたします、司教閣下。……この雨です、馬車なら足止めを食らっているはず。準備が出来次第、我らも村へと向かいましょう。たとえこの雨が、雪に変わろうとも」

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