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4話 召喚の勇者(4)

「レインのお兄さん、いくつなんすか? 冒険者の等級は?」

「今年で17歳だけど……等級は銀級だよ」

「銀級なんすか! 17歳で!? なるほど……いやー強い理由が分かったっす」


 冒険者の等級は低い順に銅級、銀級、金級の三つに区分されている。等級が高いほど優れた冒険者ということで、等級の間にはとてつもなく高い壁があり、等級を上げようとすると実績はもちろんのこと、幾つもの試験を受ける必要がある。日銭を稼ぐ程度なら低い等級でも問題ないが、低い等級の者には受けられない依頼もあるので、注意しなくてはならない。


 銅級から銀級になるには最低でも五年かかると言われており、銀級から金級へは十年以上かかる。冒険者ギルドに所属できる一番低い年齢が13歳なので、四年程度で銀級に昇格しているレインはスピード出世の部類に入る。


「リザこそいくつなんだ。正直に言うけど子どもにしか見えないよ」

「おいらは13歳っすけど。まぁいいじゃないっすか。年齢のことは」


 自分から年齢の話を持ち出しておいてこの言い草である。それにしてもまだ13歳ということは冒険者になって日が浅いということだ。リザからはあまり素人くささを感じなかったので意外だ。


 やがてレインたちは遂に最下層に到達した。この階層は今までのような迷路型の構造ではなく、まるで闘技場のような空間になっていた。遮蔽物も何もない。横にも広いが縦にも広い。


 この殺風景な空間の中央に、ぽつんと水晶の塊が鎮座している。高さはおおよそ五メートルあるだろう。水のように透明で、うっすらと光を放っており神秘性を感じる。レインたちが近づくと、穴のような部分に赤い光が灯って動き出した。目が光ったのだ。


 何を隠そう、この巨大な水晶の塊こそがクリスタルゴーレムだったのである。クリスタルゴーレムは手を伸ばし、足を広げて立ち上がり、戦闘態勢へと移行する。レインは握っていたレイピアを構えた。


 クリスタルゴーレムを倒してその身体から聖水晶を採取すること。それがレインの受けた依頼である。聖水晶は本来、ドワーフの国の鉱床でのみ手に入る貴重な鉱物なのだが、このオーネス採掘迷宮は例外である。迷宮を守るクリスタルゴーレムの身体が聖水晶で構成されているからだ。


 聖水晶は加工すれば透き通るように美しく、それでいて鋼より硬い武器となる。装飾品にも使えるが武器の素材として絶大な人気を誇る。ドワーフの国から聖水晶を調達しようとすると非常にお金がかかるため、この国ではオーネス採掘迷宮で手に入れようとする輩がたびたび現れる。今回の依頼がまさにそうだ。


「一応聞いていいかな。クリスタルゴーレムの特徴とか弱点は?」

「力は強いけど速さは遅いっす。この迷宮で一番頑丈な魔物で、魔法も使うらしいっすけど詳しくは知らないっす!」

「なるほど、参考になったよ。ありがとう」


 リザは素早く後方へと退避し、レインはゆっくりとクリスタルゴーレムに近づく。魔法が使えるならば距離を開けておく理由はない。距離を詰めて接近戦を挑み、スピードで翻弄するのが定石だろう。


 レインは加速して一気に接近した。もうクリスタルゴーレムの拳が届く距離だ。クリスタルゴーレムの目が点滅し、拳を握って右腕を振り下ろす。遅い。レインは左に跳躍して回避した。拳は地面に着弾して小型のクレーターを生み出す。


 クリスタルゴーレムのスピードはリザの情報通りだ。次の攻撃へ移行するまでの動作は緩慢と言っていい。レインは振り下ろされた右腕に乗ると、軽やかな動きで駆け上がり、首元まで移動した。レイピアを構え、首めがけて全力の刺突を浴びせる。


「……駄目か。硬すぎる」


 勢いよく放たれたレイピアの刃が折れ飛んでしまった。クォーツセンチピードのように関節なら脆いかと思って試したが、そういう分かりやすい弱点は無いと考えた方がよさそうだ。召喚魔法で新たな剣を呼び出そうとした瞬間、クリスタルゴーレムの六つの目のひとつに小さな魔法陣が浮かぶ。目がこちらを狙うように見ている。まずい。何かの魔法がくる。


「くっ」


 咄嗟に身体を横に傾けると、脇腹を細い光線がすり抜けていった。フレイムブラスター。熱線を放つ炎魔法だ。フレイムスフィアよりも貫通力が高く、もちろん人体など簡単に貫く。この威力になると魔法を弾くマントでも防ぎ切れない。レインは嫌な予感がした。クリスタルゴーレムの頭部がレインではなくリザへと向いたのだ。


「リザ、避けろっ!!」


 叫ぶと同時にレインが思い切り頭部を蹴飛ばしたので、クリスタルゴーレムの首がほんの少しだけ動いた。六つの目に魔法陣が浮かび、合計六発の熱線がリザを襲う。首が動いたおかげで熱線の狙いがズレて、六発のうち五発には当たらずに済んだが残りの一発には。


「あちあちあち、あちっ! 足が焼けたっす!」


 レインは胸を撫でおろした。残りの一発も足に掠っただけらしい。とはいえそう何度も幸運は続かないだろう。このままではリザが危ない。頭に纏わりつくレインを排除しようとクリスタルゴーレムが手を伸ばす。同時に顔がリザの方へと照準を合わせている。次こそは命中させるために。


 レインは手をすり抜けてクリスタルゴーレムから飛び降り、リザのいる場所まで後退する。熱線からリザを守るためだ。レインは自分を盾にするようにリザを背にした。六つの目に魔法陣が浮かんでいる。発射まで秒読みといったところか。


リザは自分の迂闊さを恥じた。こうなるなら上の階で待っていればよかった。リザはかつて、迷宮の道案内役は戦いにこそ参加しないが、それでも自分の身は自分で守れ、と教わった。お守りまでしてもらえるほど贅沢な身分ではない。客の足を毎度引っ張っていたら、評判は悪くなり、道案内を頼む人はいなくなる。魔物に狙われたら、上手く逃げるのも仕事のひとつなのだ。


「ごめんなさいっす、おいらを守るために……足を引っ張っちゃったっす……」

「そんなことはないよ。道案内を頼んだ以上、今は仲間だ。仲間を守るのは当然のことだよ」

「でも……さっきの魔法、どうやって防ぐんすか!? あんなの金属の盾でも防御できないっすよ……!」

「俺の切り札を使う。これで決着をつける」


 右腕を高く掲げレインは呟く。


「召喚変身、紅炎の剣士」


 レインの頭上に赤色の魔法陣が現れ、その身体を通過する。マントを羽織った、旅人のようなレインの服装が光を帯びて変わっていく。赤い衣服を纏い、背中には身の丈ほどもある大剣。先程まで身に着けていなかったブレストプレートやガントレットといった防具まで装着しており、その姿は燃え盛る炎を思わせる。


 召喚したのだ。新たな武具を。そして装備を変更した。レインの装備が変わったのと同時に、クリスタルゴーレムは六つの熱線を放った。レインは背負っていた大剣を大上段から振り下ろし、すべて弾き返す。大剣の刀身は赤熱して燃えており、後ろにいるリザにもその熱さが伝わってくる。


 ただの大剣ではない。あれは炎を生み出す魔法武器だ。攻撃魔法同士はぶつかると相殺されるため、大剣の纏う魔法の炎が熱線とぶつかれば当然すべて相殺されることになり、防ぐことができる。


 続けて大剣で虚空を切り裂くと、三日月の形状をした炎の斬撃がクリスタルゴーレムへ飛んだ。速い。クリスタルゴーレムは炎の斬撃を避ける間もなく身体を縦に溶断される。六つの目を激しく明滅させたかと思うと、目に灯る光がふっと消え失せ、地面に倒れて沈黙した。


「す、すげぇっす……」


 リザは貧困な語彙を駆使して、ようやくその言葉を吐き出すに至った。一撃で倒してしまった。頑丈なあのクリスタルゴーレムを。しばらくその光景が信じられず、真っ二つになったクリスタルゴーレムをじっと見つめていた。


 視界の端にいるレインの方を見ると、いつの間にか装備が元に戻っていた。まるで幻でも見ていたかのようだ。さっきまでは大剣と赤色の装備を纏っていたのに、今は最初に出会った時と同じマントを羽織った旅人風の服装をしている。


「レインのお兄さんはすげぇっすね。まるで海の向こうにいるっていう凄い冒険者みたいっす」

「……確かに俺は違う大陸から来たけど、そんな大したものじゃないよ」

「そうだったんすか! なんて言ったっすかねー、そう、『召喚の勇者』って人みたいっす! 召喚魔法で戦う凄い人らしいっすよ!」


 レインは心の中で強く否定した。違う。自分は「召喚の勇者」などではない。

 街に来た時のように、誤解を曖昧にしたままではいけない、という使命感に駆られてレインは口を開く。


「いや。その人は俺の師匠だ。二年前に兄弟子に殺された。俺は兄弟子を探してこの国まで来たんだ」

「えっ……?」

「海を隔てた遠い国の出来事だから……リザが知らないのも無理はないよ」


 レインの師匠、ハイトは享年から言っても老齢の域だ。「召喚の勇者」という名前ばかりが有名で、その実像を知る者は少ない。特にレインは弟子なものだから戦い方まで似ている。そのせいでもしやあの勇者ではないか、と勘違いされることも多いのだ。

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