エルフの集落 1
——目が覚めると、藁葺きの天井が、視界にぼんやりと映る。
夢か。それにしてはリアルな夢だった。身体を動かそうとすると、激しい痛みが、全身に走った。
よく見ると、身体中に包帯が巻かれている。ここは、一体どこなんだろう、とナツメは辺りを見渡す。
藁葺き小屋の中央に、鉄製のお鍋が吊るされていた。下に木炭の燃えかすがあるところを見ると、あれでご飯を調理しているのだろう。壁ぎわには、今まで見たことのない形の複合弓や盾が、立てかけられている。
「そうだ、キャロは?それにミアやマリーはどこに——」
化け物との死闘で、キャロを庇うために、奴のエネルギー砲にエリュシオンの波動砲をぶつけたところまでは憶えている。
しかし、その後の記憶がまるで無い。
小屋の入り口から、一人の少女が入ってきた。ベージュのシャツと、スカートを履いたその少女を見て、ナツメは驚いた。
腰まで伸びた銀色に艶めく髪、アメジストに煌く瞳、そして何よりも、理知さをアピールするような長くとがった両耳。
この少女、は——もしかして、エルフか?
エルフという種族が、パラメリアより遥か西方の土地で、隠れ住んでいると、ギルドの連中から聞いたことあった。しかし、どれも与太話の範疇で、架空の存在だと思っていた。
銀髪の少女は、棚に置かれた木製のすり鉢に、薬草とおぼしき緑の葉を入れると、すりこぎ棒ですり潰しだす。
「あの……」ナツメは、少女に声をかけた。
言葉が通じるか甚だ疑問だったが、なんとかコミュニケーションが取れなければ話にならない。少女は、ナツメを一瞥したが、黙々とすりこぎ棒を回し続ける。
言葉、通じないのかな。と、思った矢先、少女が「どうしたの?傷が痛む?」と返してきた。
「言葉通じるじゃん!」
ナツメの突っ込みに、少女は仰天しているようだった。
美しい少女だ。柔らかな面差しに艶と幼さが同居し、どことなく漂う気品が、危うい魅力を生みだしている。
「——っ!」全身に痛みが走り、ナツメは両手で肩を抱き竦めた。
「大声なんて出すからでしょ。大丈夫?」
少女はナツメの傍にくると、「エラム・ソルチ・ナハツゥエーラ」と魔法の詠唱を始めた。
掌が燐光を帯び、ナツメの身体を包み込んだ。
すると、先ほどの激痛が、嘘のように治まっていく。
「これって……回復魔法ってやつか。ありがとう。俺を、手当てしてくれたのも君かな?」
「ホント、世話が焼けるんだから。あなた、落ちてきた時、瀕死の重症で死んでてもおかしく無かったのよ。あ、その包帯は私じゃなくて、母が施したの」




