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小屋をでると「ナツメ」と、アリアの声が、鼓膜に跳ね返る。
ホワイトを基調としたシンプルな服装に、ココアブラウンのブーツ。そして目も醒めるような、鮮やかなオリーブ色のコートを羽織った少女が、小屋の外に佇んでいた。
銀髪の髪には、白薔薇の花を模した髪飾りが添えられ少女の美しさを、より引き立てている。コートは、彼女の瞳の色とは対照的な紫紺のブローチで、襟元に留められていた。
ナツメは、あまりの優美さに暫し、言葉を失う。
「どうしたの。私の正装、変かな」
彼女は、惚けた状態のナツメを訝しむように見つめる。
「いや、アリアの後ろから、御光が射してるみたいでさ」
「ナツメは服装を整えても、幸薄そうだね。なんでだろ。糸みたい細い目と、知性のかけらも感じさせない、低い鼻のせいかな?」
「あれぇ!?初対面から、ずっと注釈付きのディスられ祭りなんですけど!」
爆下げされた、ナツメのブレイクハートを置き去りにして、アリアは集落を案内し始めた。
アリアの住むエルフの集落は、半円を描くように、家々が建築されていた。真ん中には広場があり、石造りの東屋と井戸がある。
本来は、それだけの広間だろうが、現在は所狭しと天幕が張られていた。集落の女性全員が、その場にいるのではないかと思われるほど、エルフの女性だらけだ。
彼女達は、精力的に料理を作ったり、広場を飾り付けている。色とりどりの布で出来た天幕が立ち並ぶ様は、蒼天と緑の大地によく映えていた。
ナツメは、その光景を珍しそうに眺める。風に乗って、これまで嗅いだことのない、天国を連想させる芳しい香りが漂ってくる。
「この村ってもしかして、男子禁制だったりしないよな」
「禁制?違うよ。男の人達は、みんな狩りに出払ってるの」
なるほど、とナツメは、心中で相槌を打つ。香りのことを尋ねると、アリアは「月星の花の香りよ」と教えてくれた月星の花は、この一帯に群生する特有の植物で、夜になると、月の光に照らされて、星のように輝く特徴から命名されたらしい。
突如、集落の櫓から、けたたましく鐘の音が鳴り響いた。女性達が、蜘蛛の子を散らすように各々の家屋に入っていったかと思うと、弓矢を片手に出てきた。
「ちょっ、なにごと!?」ナツメの動揺をよそに、アリアは冷静だ。
「多分、サイクロプス族が攻めてきたのよ」
「サイ……族?」
言葉をかき消すように、地鳴りが大地を揺り動かす。エルフ達が視線を向ける先を、ナツメも目を凝らして見つめた。
巨人だ。身長十五メートル以上はあろう、巨大な一つ目の巨人が、集落の外壁を跨いで、侵入してくる。
「なんだよ……あいつ」あれも異形種なのか?
遠くから、アリアの名前を呼ぶ声が聞こえた。
「私の母よ。いい?ナツメは危険だから、ここを動かないでね」
そう言い残すと、アリアは母エルフの元に駆けて行き、木材で出来た長弓を受け取る。
「巨人よ!」
「男性が居ないのを、見計らったのかしら……?」
「レオンが居たら、あんな奴、歯牙にも掛けないのに」
弓を構えながら、エルフの女性達が、口々に不安げな声をあげた。
「みんな、落ち着いて。大丈夫!相手は一体だけよ。私達で撃退出来るわ!」
アリアの母が、声高に叫ぶ。彼女の言葉に、士気をあげた女性エルフ達が、一つ目巨人に向かって、一斉射撃を開始する。しかし、矢は巨人を穿つどころか、強靭な表皮に阻まれ、やすやすと弾き返されてしまう。
攻撃が、刺激となったのか、巨人は興奮し雄叫びを上げ、腕を地面に叩きつけた。物凄い風圧が発生し、数人のエルフ達が吹き飛ばされる。
「みんな!」
アリアの母が、矢を巨人に向け、詠唱を始めた。
「風の精霊よ。天地遍く疾風をその身に纏いて、彼の者を貫け。ウインド・アロー!」
光を帯びた矢が、巨人の右肩を貫通する。ダメージは負わしたが、致命傷には至っていない。
傷を負ったサイクロプスは怒り狂い、家屋を壊しながら、アリアと母親にめがけて木材を投擲する。
「きゃあ!」
アリア達の傍に、木材がぶち当たり、二人が倒れ込んだ。
「アリア!」
ナツメは咄嗟に、ホルスターへ手を伸ばす。
撃てるか。——分からないが、彼女達に対処出来ないのであれば、俺がなんとかしなければ。弱いけど。エリュシオンを抜き、構える。
銃身が、自分の心情に呼応するように、燐光を帯びていた。
「よし、イケる!」銃口を、一つ目巨人に向け、意識を研ぎ澄ます。
漆黒の波動が撃ち放たれ、巨人の上半身を飲み込み、消しとばした。
よっしゃー!、と思った。次の瞬間、銃身が軋み、バキッと音を立てて砕けた。
「……なっ。嘘、だろ」
ヒビが入っていた時点で、不穏だったが、まさかここまで完全に壊れるなんて。これじゃあ、銃として使い物にならない。
呆然としている、ナツメにアリアが叫ぶ。




