4
「なんだよ?」
ナツメは槍状の突起物を、切り裂きながら訊き返す。突起物はすぐに再生し、また攻撃を繰り出してくるので、キリがない。
「——お前の能力を引き上げるのは、あと五分が限界だ。それ以上は、お前の身体が保たない」
「ちょっ。そういうのは、早く言え!」
ナツメは、無数の槍を巧みにかわしつつ、ボスとの距離を縮めはじめる。
「ミアは大丈夫なのか?スザクって野郎と戦ってるみたいだったけど」
「——案ずるな。お前と同様に、強制的に能力を上げる術を施しておいた。簡単にはやられんだろう」
「そうか……」
だが悠長にしている暇はない。能力向上のタイムリミットが迫っている。それが過ぎれば、間違いなくジ・エンド。確実に、波動砲を当てるしかない。
しかし、スザクの時のように、かわされたら意味がない。近距離で撃つ。ナツメは、宙を舞い、ボスの背後を捉える。
「喰らえ!」エリュシオンの刃が消え、代わりに巨大な波動砲が撃ち出される。
死角から撃ち込んだ波動が、化け物の右半身を飲み込み、ナツメは一旦、距離をとった。
「やった!」
「——いや、まだだ」ナツメの歓喜を、マリーが遮る。
ボスが苦しげに、叫び声を轟かす。消滅した右半身が、再生を始めた。
「嘘……だろ。あいつ、不死身かよ」
一体、あの生物はなんなんだ。異業種でもなく、異人種でもなく人間とも、到底思えない。未知の化け物。
「——身をよじって、直撃を防ぎおったな」
頭の中で、マリーが忌々しげに呟いた。
「——もう時間がないぞ」
「わかってる!」
その時、再生を終えた化け物が、口を大きく広げた。
「ボクちん、怒ったモンねえぇぇぇぇ」
口の中から眩い光が放たれる。
「——あれは!?いかん。避けろナツメ!」
マリーが叫ぶが、ナツメは動けなかった。背後に治療中のキャロルがいたからだ。あの化け物が、ヤバイ攻撃を繰り出すのは、ナツメにも感知できた。当たれば間違いなく死ぬ。だが避ければキャロルが——。
ナツメは銃口を、化け物に向ける。
「——なにをしている!」
「俺が避けたら、キャロが死ぬ。波動砲であいつの攻撃を打ち返す」
エリュシオンの銃身から、黒々とした光球が浮かび上がる。
「——いかん。そんなことをしたら」
「悪い、マリー。だけど、キャロは……あいつは、俺が絶対に守る!!」
化け物が口から、青白く輝く、光波を撃ち出す。
「死んでたまるかあぁぁぁ!!」
ナツメの放った、渾身の波動砲が、化け物の光波とぶつかり合う。
凄まじい閃光と、激しい不協和音が、聖堂内の時空を歪める。
「うおあぁぁぁぁぁぁぁ!!」ありったけの、渾身の力を振り絞るナツメ。
「——まずい、このままだと、異世界に亀裂が……」
異世界?なんだよ、それ。
マリーの声が響いたあと、ナツメの意識は途切れ、後には暗黒の闇が広がっていた。
「宗介、早く起きなさい!」
母の声に、俺は目を開ける。
「いつまで寝てるの。学校、遅刻するわよ」
母がカーテンを開けると、眩しい朝陽が顔面にブチ当たる。
しぶしぶ、ベッドから起き出し、洗面所で顔を洗い、テーブルに置かれた、ハムエッグとお味噌汁を食べた後、制服に着替え、俺は夏目家をでた。
高校は、単純に嫌いだった。そのまま就職しようと思い、進路希望に書いたが、親と、担任は大学に行くべきだと言った。
「夏目。お前はそこそこ頭良いんだし、教養のつもりで大学に行くべきだと先生は思うぞ」
別に大学に行って、勉強したい事など何も無かったが、進学したら、したらで、モラトリアムのうちに、したいことが見つかるかもしれないと考え直す。
高校の出席日数はギリギリだった。だから、サボってゲームセンターにいく余裕はない。自分にとって学校とは、ある種、牢獄のように感じられる。他の高校生達はどうか知らないが、少なくとも俺にとっては牢獄だった。
なんとかその日の授業を終え、帰り道、本屋で好きなラノベやら、文芸本を二〜三冊買った。自他共に認める、オタクな俺のささやかな楽しみ。帰り際、自動ドアの脇に置かれた、ワゴンセールに目をやる。何故か、吸い寄せられるように一本のゲームを手に取った。パッケージのタイトルは『異世界セカイでお宝探ししませんか?』。あらすじを見て、何故か無性にプレイしてみたくなった。
結局、なけなしの小遣いを使い果たし、ゲームを買った俺は、家に帰るとさっそく、ゲームをプレイし始めた。




