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——さながら、猛烈な竜巻だ。
「いいか。これから私がお前の身体に入る。いわば同化だ」
マリーの声が、竜巻の内部に響き渡ると同時に、紫煙がナツメの口や鼻から流れ込んでくる。
「なっ!?」
突然のことに、ナツメはされるがままだ。やがて取り巻いていた煙が全て、ナツメの体内に吸引された。
——な、んだ。これは。力が、生命力が漲ってくる。
「ちと、荒療治だが、お前の生命活動力をチート級に引き上げる。でなければ、奴は倒せんからな」
鼓膜を通さず、頭の中から、直接マリーの声が聞こえた。口調も普段のマリーとは違う。
「どういうことだよ。マリー、お前……一体」
「ぼやぼやするな。来るぞ」
化け物じみた男の指が、鋭くとがり、ナツメに向かって伸びてくる。反射的に、エリュシオンを振り上げた。化け物の指が細切れに切り裂かれる。銃口から黒い波動が飛び出し、剣のように固定されていた。
「な、なんだよ。これ……」
「私がお前のレベルを底上げしているからな。エリュシオンの応用技が使えるのだ。当然、膂力や反射神経などの身体も、飛躍的に跳ね上がっている」
頭の中で、マリーが冷静に答える。確かに彼女の言う通り、身体が羽のように軽い。
「オヒョおおおおお!」
化け物が、今度は右手の指を全て伸ばし、ナツメを攻撃してきた。槍の指を、全て紙一重でかわす。自分でも驚くほどの動きだ。恐怖心も、どこかへ消し飛んでいる。
これなら、——やれる。心の底から、全身を血流のように流れる自信。ナツメは、疾風のようなスピードで、フェイントをかけながら、化け物に向かって走りだした。
化け物は、地獄の深淵から湧き上がるような、叫び声を上げ、左手から五本の指を伸ばしてくる。ナツメは、悠々と攻撃をかわし、エリュシオンの刃で、玉ねぎみたいに指を刻んでいく。そのまま本体に接近し、斬りつけた。化け物の胸が、切り裂かれ、赤黒い血が噴き出す。
「ボス!」
スザクが叫び、加勢するため、地面を蹴った時、視界に閃光が走った。
瞬間的にスザクは、バックステップする。直後、頬と腕に切り傷。
——血が床に滴り落ちる。
赤毛の猫娘が、指輪から糸を伸縮させながら、スザクに冷徹な視線を刺していた。
「よかったですね。……あと半歩、踏み込んでたら、ハムになってましたよ、あなた」
「……言うじゃねえか。メス猫が」
ミアが腕を、指を、動かすたびに、周囲の瓦礫が、糸で引き裂かれる。彼女の五指、全ての指輪から吐き出されたワイヤーは、驚異的な速度で躍り狂い、周囲の空間と自身を断絶せしめていた。
「ナツメさんの邪魔はさせない」
背後から、音もなく、スザクの番犬サーベラスが飛びかかる。ミアは刹那の差でかわし、糸を忠犬に巻き付け、そのまま思い切り聖堂の壁に叩きつけた。
「サーベ!」スザクの声に、番犬は反応できず、ぐったりとしている。
——妙だ。スザクは、頬から流れる血を、拭き取りながら驚愕していた。最初、こいつらとやりあった時とは、まるで別人。レベルでいえば、10だったのが、いきなり50に跳ね上がったよう。
金髪の女狐が、座り込んで小便ちびりかけてたネコ娘に近づき、耳元で何か囁いたあと、ナツメとかいう小僧に、煙へ変化して吸い込まれた。
おそらく、女狐が能力向上系の補助魔法をかけたのだろうが、ここまで劇的にレベルを上げる魔法など、聞いたことがない。
ふと、視界の端に、キラリと光る糸が見えた。超人的な反射力で、スザクは糸の攻撃をかわす。途端に、背後の壁がサイコロステーキみたいに細切れになった。
「チッ」とスザクは舌打ちする。この聖堂も、そろそろヤバイな。スザクは身を翻し、細切れになった壁から、聖堂の外に飛び出した。
「逃さない!」
ミアも、すぐにスザクの後を追う。寸前——窓枠から振り返り、ナツメとキャロルに、視線を送る。
「皆さん、絶対に死なないで……」
ミアは、スザクを追い聖堂から消えた。
聖堂内では、ナツメとボスの死闘が続いていた。ボスは、もはや指だけでなく、全身から突起物を伸ばし、ナツメを貫こうと、熾烈な猛攻を繰り出している。
ナツメはボスの周りを縦横無尽に動き回り、攻撃をかわし続けていた。
「——言い忘れていたが」マリーの声が聴こえた。




