私が生きる理由 1
宿屋の一室にナツメ、ジェフ、アゲハの三人が椅子に腰掛けていた。ミアは気を失ったまま意識を取り戻さなかった為、キャロルとアゲハの女子部屋にあるベッドに寝かせていた。
「ジェフ、あの時は助かったよ。本当にありがとう」
「あなた、もう少しで完璧に死んでたわよ?」
アゲハは冷たい視線を、ナツメに浴びせている。アゲハの言うことは最もなので、ナツメは言い返す余地がない。
「何はともあれ、ナツメ達が無事で良かった。アゲハも勘弁してやれよ」
ジャフの寛容な言葉に、ナツメは俯けていた顔を上げた。
「だがな、ナツメ。アゲハの言う通り、もう少し対応に遅れてたら、確実にフライスネークに食われて死んでたぞ。それは肝に命じてほしい」
ナツメは、ぐうの音も出ない。
「……ああ。本当にすまない」
「それと、な。今回のヤギウの遺跡発掘は中止しようと思ってる」
突然のジェフの提案にアゲハとナツメは仰天した。
「えぇー!?なんでよ。まだ発掘の『は』の字もしてないわよ?」
「解ってる。だが、カテゴリー『三』の異形種がポトラの村に出現すると確認できた以上、敢えて危険を冒すのは得策じゃない。村人の話じゃ、あの大蛇は変則的な周期で、湖から出てきて村を襲うらしい。俺からしたら、そんな化け物が巣食ってる場所に住み続けてる、ポトラ村の住人の神経を疑いたくなるけどな」
「ヤギウの大木周辺に、キャンプでも張ったらいいんじゃない?あの大蛇はヤギウの大木までは来ないって言ってたし」
アゲハはジェフの撤退案に余程、不服らしい。
「確かに、それも考えたさ。だが、キャンプを張るにしても道具がない。それに万が一にも、ヤギウの大木までフライスネークが襲ってこないという保証はどこにもないだろ?」
二人のやり取りを、黙って聞いていたナツメは違和感を覚えた。俺の知ってるジェフは怜悧な人間だ。言ってることも、筋が通っていると思う。
だが、ここまで慎重だっただろうか?いや、言葉は悪いが臆病だといっても過言では無い。そこまで考えてナツメは気づいた。
「なぁ……ジェフ。もしかしてイエラ砂漠で、捜索隊が壊滅した件が関係するのか?」
「……そうだな。関係してないと言えば嘘になるね。あの時の二の舞は絶対に避けたいんだ!二人には本当に申し訳ないと思ってる。依頼の際に渡した前金は、そのまま受け取ってくれていい。早ければ明日にもキーロフの街に戻る予定だ。今日は大変な一日だったし、みんなゆっくり休んでくれ」
そう言い残し、ジェフは足早に部屋を出て行った。
目を開けると、薄汚れた茶色の木材で出来た天井が見えた。
——ここはどうだろう?とミアは一瞬、戸惑ったが、すぐにその思いを払拭する。そうだ。私はキャロルさんを助けようとして……。
その際、フライスネークの尾に撥ね付けられた所までは覚えている。恐らく衝撃で気を失っていたのだろう。
ベッドから起き上がろうとして、あることに気づいた。自分は衣服を着用していない。下着姿だったのだ。
「あ、ミアちゃん!目を覚ましたんだね。よかったぁ。僕もナッちゃんも凄く心配してたんだよ!」
声の方を見ると、部屋の隅でうたた寝していたキャロルが立ち上がりミアの方へ近づいてきた。
「え……?あ……の。はい……」
ミアはなんと答えたら良いか分からず、しどろもどろな返事をした。




