第9話・獣人と遊ぼう前編
私の名前はイルという。ある日人間が私たちの山に入ってきた。ここは私たちの狩場であり、仕事場である。
私たちの仕事は人間をさらって獣人の国に持って行って奴隷商人に売ることだ。つい最近仕事に参加させてもらえることになった新米だ。
私たちの村は貧しかった。国の外の山に住んでいた私たちは村どうしの紛争で数を減らしてしまった。
そこで村長は最後の決断をした。それがこの山賊としての仕事だった。
今回のカモは小さかった。歳は6か7ぐらいだろう。こんな子供を冒険者にするなんて人間はやはりイカれてると思いつつ、私達はこの子を捕まえて売ろうとしていると考えると私達も外道だなと再確認できた。
「なんだよ、ガキじゃねえか…今回は楽勝だな」
このチームを率いるリーダーのガンが声を潜めながら笑う。
周りも同意するようにニヤニヤしたり気の毒にとか口々にしている。
そして少年は地面に触れだしたと思ったら何も握ってなかったその手に鉄の何かが握られていた。
私はあれがなんだか分からない。何かにたとえて表そうにも似たものも全く思い浮かばない。
少年は何やら風魔法を発動させてそれを豆粒程度まで圧縮して見せた。これで彼の属性は風であることが分かった。デュアルかトリプルの可能性もあるが、デュアルならまだしもトリプルなんてそういないし、あの年で扱えるはずもないだろうとふんでいた。
そして少年は作った弾を手に持っていたものに詰めて、ゴブリンの方向に構えた。
馬鹿な、だって距離は少なくとも200はあるのに届きっこない。
だが、突如少年の手に持っていたものから轟音がした。数十メートル離れている私たちでも耳を塞いで声を出さないように口を思いっきり閉じた。
当然の事ながら少年はその轟音を至近距離で受けたので少なくとも気絶しているだろう。つまり仕掛けるなら早い方がいいかと思ったが、少年は当たり前のように自分の耳を直し始めた。
そして耳が治るとのも凄いスピードでゴブリンの洞窟へ疾走していく。私たちの作戦はゴブリンの討伐を終えてつかれている所を集団で叩くという作戦だった。卑怯と言われても私たちは確実性を取っているとしか言い訳が出来ない。
少年が洞窟から出てくるのに全く時間はかからなかった。あの中にはゴブリンキングもいたはずだが、倒したということは彼は相当手練なのだろう。だが、こっちには手練と数がいる。勝ち目は十分にこっちにある!と考えつつ作戦開始の合図を待っていると、少年がこっちを向いて手に持っている何かの引き金を引いた。
ガン隊長の足元でパスという音がして皆不思議そうにそこを見つめているが、私は一目散にその場から離れた。
完全に感だった。相手に姿を晒すことになるし、間違っていたら仲間の皆にも迷惑がかかるが、あそこから1秒でも早く離れろという私の第六感が叫んでいた。
運が良いのか悪いのかその予想は的中した。
風が吹き荒れ、仲間達が細切れにされていく。
私は自分の方向に風の刃が飛んでこないよう祈っていることしか出来なかった。
少しして風が止むと少年が近づいてきた。そして私を視認する
「なんだ、ちょうど良く1人だけ生き残りがいるじゃん」
この年で人を殺したことに対する罪悪感を少しも感じていないことに驚いた。だが、いまはそんなことは関係ない。私の今すべきことは全力で逃げて村長に状況報告をしなければいけない。
「なあ、ちょっと聞きたいことが……」
私は身体強化をして全力で走り出した。
獣人と人間では身体能力に大きな差がある。勇者でないかぎりは追いつけはしないだろうと思っていた。
走りながら背後を振り返ると少年がピッタリ付いてきていた。
「まてって、なにも今すぐ殺そうってわけじゃ……」
ブーストをさらに3段階上げる。もはやなりふり構っている余裕は私には無かった。やがて少年は諦めたようにため息を吐いて
「錬金」
その一言が終わった瞬間に私の足に激痛が走る。
足元をみると土でできた槍が足を貫通していた。
「ちょっとお話いいですかー?」
「こ、殺すなら早く殺せ!」
「いやいや、気が速すぎでしょ!」
まさかこいつは私を殺す気はないのか?
「だってさ、殺しちゃったらなんにも聞けなくなっちゃうじゃん?」
「…は?」
「え?」
当たり前のようにその言葉を放った。つまり、話を聞き出したあと私は…
コロサレルノカ?
私が足を踏み入れた世界はそんな甘い世界じゃないと頭では分かっていても気持ちは全く分かっていなかったようで身体中が震えてしまっている。
「闇魔法の練習だ。1通り見てもらったあと質問するからその時の言葉を間違えないようにね」
「や、やめろ!私に触れるな!!」
だが、そんなことはお構い無しに少年は私に触れて
「´ダークネスドリーム´」
その瞬間私の体を黒い物質が包み込み私は深い眠りへと落ちていった。
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夢を見た
とても昔の夢だ
ある獣人の親子がいた
とても豊かというわけでもなかったが、家族は楽しく生活していた。
だが、そんな生活も長くは続かなかった。
ある獣人が私以外の家族を皆殺しにしたのだ。
村の人々は私が家族を殺めたと勘違いしてしまった。
私は呪いの子と呼ばれて村を追い出された。
アテもなく死んだように歩いていると目の前に家族が現れてこう言う。
「あなたのせいだ」
「お前のせいだ」
私は必死に違うと叫ぶ。
家族が混ざりあって一つの体となり私の首を締めてくる。
「アナタノセイダ」
そういいながら
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目が覚めると少年が目の前にいた。
私の体は拘束されている。普通に殺しあっても負けるのでどちらでも変わらないだろう。
私の頭では「アナタノセイダ」と響き続けている。
「おはよう。いまどんな気分?」
「最悪だよ……こんなくらいじゃあ話す気にはなれないな…」
当たり前だ。いまは新しい村の皆が家族だ。家族を売るわけがない。
だが、私の精神は自分でも思っていた以上にひび割れていた。
「そっか…まあ安心してよ!もう少し強くするからさ!」
「勝手にしろ……だが、私は家族は売らない…」
必ず村長がこいつを倒して助けに来てくれる。それまでの辛抱だ。
「分かった。耐久戦だね。ああ、一ついいことを教えてあげよう!君はいまどれ位時間がたったと思う?」
「知るか……10分ぐらいじゃないのか?」
「10秒」
は?
これだけ見させられて10秒?
「んじゃ2回目いってらー」
「ちょっ…!」
引き止めようとしても止まらない。またしても私の体は闇に包まれ意識は深い眠りへと落ちていった。




