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命の灯火  作者:
1/18

第一話『オーバードーズ』

人間は、案外簡単に消える。




事故や病気の話じゃない。




昨日まで隣にいた人間が、まるで最初から存在しなかったみたいに消えてしまうことがある。




少なくとも尾鹿葛葉は、そういう話を何度も聞いてきた。




都内の片隅にあるBAR『命の灯火』。




夜になると、行き場を失った人間たちが集まる。




酒を飲み、愚痴を吐き、誰にも信じてもらえない話を置いていく。




最初はただの噂だった。




酔っ払いの作り話。




誰かの勘違い。




そう思っていた。




だが気付けば、その話の続きを知る人間は誰もいなくなっていた。




これは、一人の男と怪異の記録。




そして、人が人でなくなっていく物語である。

第一話「オーバードーズ」



BAR 命の灯火



午前一時四十分。



客は二人。



ホストと女。





「尾鹿さん」






「ん?」





「オーバードーズって知ってます?」





尾鹿はグラスを磨きながら答える。





「薬飲みすぎるやつだろ」





「それです」





ホストは笑った。




「これ、こないだまで来てた客の話なんですけどね」



女の方が嫌そうな顔をする。



「最近若い子の間で流行ってるグミ知ってます?」


ホストが取り出したのは、カラフルなクマの形をしたサプリメントグミ。


「これ、食べると気分が上がるらしいんですよ」


尾鹿は鼻で笑う。


「ただのサプリだろ」


「俺もそう思ってたんですけどね」




「だから最初は誰も気にしてなかった」


ホストの顔から笑みが消えた。




「その子、店に持ってくるサプリの量が異常に増えてたんですよ」


「ん?たかがグミだろ」




「違うんですよ」


ホストは声を落とした。




「飲む度に元気になるんです」




沈黙。




女が震える


ホストは続けた。




「最初は三粒」


「次は五粒」





「十粒」




「二十」




「四十」








尾鹿は手を止めた。







「200粒あたりから数えてないすね」






「おかしいだろ」




「そうなんですよ」




ホストは笑う。





「最終的に大量のグミだけを握りしめて路上を徘徊しているところを見かけましてね」



「病院は?」



「行ってないらしいすよ」



「なんで」






「本人が元気だから」





女が小さく呟く。



「それ知ってる」






「SNSで話題になってるもんな」




ホストは満足そうに相槌を打つ







しばらくして、今度は女の方が話はじめた







「私そうなった子がどうなるのか聞いたことがあるよ」




ポケットからスマホを取り出した。





一枚の写真。



若い女。



病院のベッド。




「死んだのか」





「ううん」





女は首を振る。





「いなくなった」



「は?」



尾鹿は眉をひそめる。






「飛び降りでもしたか」



「違う」





「監視カメラにも映ってない」






「病室から出てない」





「でもいなくなった」



残されていたのは――



ベッドの上に横たわる、



赤ん坊ほどの大きさの



半透明なグミなんだって










女が本気で嫌そうな顔をした。



「だからこの話嫌いなんだって」







「なんで」




「だって」




女は言葉を止めた。








震える手でグラスを握る。







「最近さ」







「何?」









「SNSで見るの」








店内に沈黙が落ちた。







「あのグミのレビュー」




「“人間味があって美味しい”って」








店の閉店時間



尾鹿がカウンターを片付けていると、



女が忘れていったくしゃくしゃのビニール袋の中に半分ほど減った一つのグミの袋を見つける。



何気なく裏面を見る。



原材料欄。



そこには見慣れない一文。







「原材料:人型サプリメント抽出物」







尾鹿が顔をしかめる。




印刷ミスかと思ってもう一度見る。




その瞬間。




袋の中のクマ型グミが、




ほんの少しだけ




こちらを向いていた気がした。







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― 新着の感想 ―
うわっ、ただの麻薬グミかと思ったらそう来たか
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