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土器土器サバイバル・2

「まだリンクできないですかねぇ」


 住処の洞窟の前一帯にお湯をかけて洞窟に戻ってきて、すぐに流星がそわそわし始める。


「早いだろ。ホームページのリンクじゃないんだぞ」

「どんだけ練習したいんですかー。せっかくスケートしない理由があるんだからのんびりしましょうよー」


 焚火に手をかざしながら、俺と丹波がうろつく流星をジト目で見上げた。

 フィギュアスケーターだって氷河期の外気の中にいたら普通に寒いのだ。


「だって勝山さんと毎日一緒に練習できるんですよ。やる気出るなんてもんじゃないですって!」


 ブンブンと肩を回しながら流星が目を輝かせる。

 丹波は冷え冷えとした笑顔を浮かべて厭味ったらしく手拍子をする。


「なんか有り余ってる奴は陸練でもしててください。ハイ筋トレ筋トレ」


 そしてにっこりと俺のほうを向くと、じゃがりこのカップに入ったポテトサラダを差し出してきた。

 貧乏人のポテトサラダ。俺もスポンサーが決まらないときにお世話になったことがある。じゃがりこをお湯でふやかしたやつ。

 なんでそんなにじゃがりこがバッグから出てくるんだと思ったら、海外遠征中は味覚が合わなくて調子を崩すことの多い丹波が大量にバッグに放り込んでいたものらしい。


「勝山さん、元気な奴はほっといて一緒にご飯食べましょー」


 ああ、とじゃがりこポテトサラダを受け取ると、流星の長身がドーンと転がった。 


「やだーーー!! 勝山さんと滑りたいーーー!!」


 今や全日本どころか世界でも並ぶ者のいない高難度技を繰り出すジャンパーが駄々をこねる。

 光栄……というべきだろうが、俺と一緒に滑りたい理由が勉強になるとか刺激を受けたいとかいうわけではないのだろうから居心地が悪い。


「流星、悪いけど、そもそも俺だけ靴が無いから滑れない」


 この世界で目覚めてすぐに恐竜から救出された俺は、到着時に履いていたジーンズスニーカーのままである。

 どうして二人はちゃんとスケート靴があるのかと尋ねたら、この世界で目覚めたらすぐ傍に試合用の手荷物一式が落ちていたのだという。なんで俺だけこんな目に……。


「貸しますよ!」


 びしっと指を立ててキメ顔ウインクで流星が言う。


「いや……いい……」


 若干引きながら言うと、「えーなんでー!」と流星がむくれる。


 いや、普通貸し借りしないだろ。

 スケート靴はそれぞれの癖に応じて繊細なメンテナンスがされており、滑り込めば靴に滑り癖もつくもので、基本的に他人の靴ではうまく滑れない。

 もちろんうまく滑れないと言っても俺たちなら普通に滑るくらいならどんな靴でもできる。ただ、スケートリンクの貸し靴でいつものトリプルアクセルをしてくれと言われたら難しいだろう。


 とはいえ、なんらかのトラブルで予備靴を借りるシチュエーションがないわけではないが、長期的に他の選手の靴を借りるのは気が引ける。なんか変な癖をつけてしまいそうで。


「オレ、勝山さんの癖ならいいですよ! 勝山さんの履き癖だー♡と思って滑ります!」


「えっ!? 気持ち悪!」


 俺を安心させるためだとはいえ、あんまりにもあんまりな言い方に、思わず率直なツッコミが口からまろび出た。

 ごめん流星。



「そもそも岩泉センパイ、勝山さんのガチ推しストーカーすぎるんですよねー。ホント気持ち悪いなあ」


 丹波までもがため息をつきながらそんなことを言い出す。


「わっ気持ち悪いって言った! 差別! 愛の多様性の敵!」


 ムンクの叫びみたいに両頬に手のひらを当て、大袈裟に騒ぐ流星に、丹波が目を細める。


「べつに他の人が好きなのが男だろうが女だろうが恐竜だろうが気持ち悪いとは思いません。センパイの愛が気持ち悪いんです」


 そして肩をすくめて尋ねる。


「なんでセンパイってそんなに勝山さんが大好きなんです!?」


 世界王者がこんな落ち目の選手に執着しているのを、みんな不思議を超えて不気味がっているだろうが、これは単にフィギュアスケーターというもの、選手同士の礼儀を大事にしている――というだけの話なんだと思う。アスリートであると同時にショーエンターテイナーとしての資質も求められるのがフィギュアスケートだ。試合に勝てばエキシビションという勝者が招待されるアイスショーがあるし、現役選手のうちからアイスショーにも出演する可能性がある。そんなとき、いくら試合で気が立っていたからとはいえ無礼で攻撃的なふるまいをしてしまうと後々アイスショーで共演したときに恥ずかしいので、最近では目に見えていがみあったり意地悪を仕掛けたりする選手は少ない。それもトップ層になればなるほど。


 そういうことをオブラートに包んだ返事を予測していた俺は、初めて聞くエピソードに耳を疑った。


「小さいとき、偶然ウチのホームリンクに来た勝山さんに遊んでもらったんだよ。あれはまだ俺が九州にいて、スピードスケートやってみようかなってくらいのガキの頃だった。たまたま九州での試合の練習にやってきた勝山さんが、初めて見る本格的なフィギュアスケートの選手だったんだ」


 思いがけない流星の返事に、俺は驚いて顔を上げる。


「綺麗だったなー」


 丹波が胡乱そうな顔をして俺の顔を見る。


「……本当ですか?」


 え、知らん。なにそれ。


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