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フィギュアスケーター、ガチ氷河期に転移する  作者: 白瀬青


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7/10

土器土器サバイバル・1

「「「そーれっ!!」」」


 持ち合わせのごみ袋をガムテープで補強した即席パケツを手に手に持ち、

 掛け声と共に氷の上に湯をぶちまける。


   ◇◇◇


 さて、ここは氷河期のアラスカだ。

 溶かせば水になる氷はたくさんある。ソテツや松のようなゴツゴツとした裸子植物ばかりではあるが、植物も無くはない。火を起こし、薪をくべ、焚火で水を沸かせば湯になる。

 まず俺たちが生活をするために得られたのは湯だった。飲料用の白湯にも身体を拭くためにも熱を通した水分は不可欠だ。

 とりあえず食べていた現代のお菓子の紙コップパッケージを器にしてみると、火にかけた途端、器はあっという間に燃え落ちた。流星がドヤ顔で直火にかけたペットボトルはすぐに溶けて歪んだ。


 そこで気づいたのだ。

「湯を沸かす」ということがまず、すごい技術なのだと。


 まず大きな火を起こす技術がいる。

 次に清潔な水源がいる。

 ここまではいい。


「火にかけても燃えず、なおかつ熱をよく伝導する器がなければ湯は沸かせない」

 この難易度に、現代人の俺たちは気づかなかったのだ。



「――で、結局土器ってすごい発明だったんだなってなりましたよね」

 丹波が失敗した土器をこだわりの陶芸職人のように叩き割りながら言う。


 恐竜と土器。一見繋がらないような話だが、ここでも丹波の恐竜知識が役に立った。

 「恐竜の骨の化石」「恐竜のうんこの化石」ここまでは解る。「恐竜の足跡の化石」がなんで残るんだ? そう思ったことはないだろうか。

 余程足跡がつきやすい土質でなければ無理なのではないだろうか。そこから丹波は推測した。

「恐竜の足跡の化石が残るのは粘土質の土地なんですよ。だから足跡などの化石が残っていそうな場所を探せば粘土も見つかる可能性が高いです」

 そこで粘土をこねて焼いてできた土器である。



「金属を発明しようとなると命懸けですから、比較的低い火力でみんなが安全に作れて湯を沸かせられる食器って実は人類の文明の転機なんじゃないですか、コレ」


「俺、土器時代の人類に謝らなくちゃいけない。正直土器時代を侮っていたんだよ。歴史の授業中に年表見ながらさ。3000年くらい縄文時代で、やっと革新起こったと思ったら、縄模様のブームが終わってシンプルな土器ができました! ――って、もっと他に発明するものあるだろ、何千年も土器だけで何やってんだよ人類!って。……いやー、便利だなー、土器。人類の発明の中でも五本の指に入るイノベーションだよ、これ」


 丹波も深くうなずきながら粘土をこねる。

「まったくです。縄文土器がWindowsなら弥生土器はiPhoneだったと思いますよ。そりゃ時代が変わるイノベーションですし何千年かけてでも新製品のアップデートに余念がないですよね」


 そんなことを言ってる隣で、謎の家庭科の龍みたいな奴を無駄に精巧に作り上げた流星が「見てください!」と頭上に掲げてターンする。


「エターナルブリザードスーパーフェニックスファイナルドラゴン土器です!!」


 しら――…………っとした空気が流れた。


「あー。そりゃー長い年月の間には、祭祀用にしか使えない謎の土器を作り始める奴とかも出てきますよね」

「案外、祭祀用とか考えられている土器とか土偶とかって、流星みたいなああいう悪ふざけだったりしてな」

「縄文時代にもクソガキはございます」


 ひそひそと言い合いながら弥生時代風のシンプルな器を作り続けている俺と丹波の背中に、「えー!」という流星の怒声が飛んできた。


「えー何そのオレにも縄文人にも失礼すぎるdisーーーーー!!」



  ◇◇◇


「ところでこの湯なんですが、洞窟の前に撒けばリンクになるんじゃないですか」

 そう言い出したのは丹波だった。


「僕のひい爺ちゃんが戦争中は満州にいたらしくて。いつも言ってたんです。ロシアに近い極寒の大陸で、凍てる冬の校庭に水を撒いておくとそれだけでスケートリンクになったって」


 というわけで、丹波のアイディアで即席リンクを作ることになった。


 そんなことしなくたって、氷河期なんだからどうせ一面氷、どこでも滑り放題だと思うだろう。

 しかし天然の氷というものは凹凸が激しいものなのだ。スケートは繊細で、少しの凸凹でも危険だし靴も傷む。

 遠くまで火を炊くための木を拾いに行ったり、食べられる植物や魚や鳥を狩ってくるための足として滑るのは仕方がないとしても、天然の氷でフィギュアスケートの練習はできない。


「文明どころか人類が生まれる前の時代に飛ばされてまでフィギュアスケートがやりたいのか?」

「それより生きていくために整えなければいけないことが山程あるだろう」

 そう言われれば反論の余地もないのだが、朝も夜も氷に乗ってきた俺たちが少しでも「生活」を続けていると実感するにはスケートをするしかないと思った。




 さて。スケートリンクの氷は整氷車によって定期的になめらかにされているのだが、その整氷車のメカニズムを図解するとこういうことだ。



(1)大きな刃のついた車で氷の表面を削っていく

     ↓

(2)車についているスプリンクラーからシャワーが出てワイパーが吹き掃除をする

     ↓

(3)車から湯が噴射されて表面をなめらかにする



 ここに整氷車はないが、丹波のひい爺ちゃんの言うことが本当なら、(3)の「湯をかける」だけでもある程度なめらかでツルツルのアイスリンクができるというわけだ。


 もちろんメリットはスケートをやって楽しいというだけではない。

 あわよくば人工的なツルツルしすぎている氷が、少しでも野生生物に対する洞窟のセキュリティになればいい。

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