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フィギュアスケーター、ガチ氷河期に転移する・6

 唐突な話題転換に、俺は豆鉄砲を食らった鳩のような目になる。


「は?」

 知らないわけはないが、なんでこの流れでローマ教皇選出の話なのか解らない。


「あ、知ってます? 勝山さんってSNSやらなさそうだから知らないって言われたらどうしようかと思いました」

「なんでSNSやってなかったら解らない知識なんだ! むしろ授業で習うだろ」


 逆にこいつはすべての教養的なことをSNSから得てるつもりじゃないだろうな? そんなジト目で見ていると、流星は嬉しそうににこっと笑った。


「教皇選挙って映画もあったでしょ。オレ、アレ観てね、ああいうのって政治的な駆け引きとか計算とか密室で暗躍してるんだと思ってたんですよ。でも本物の枢機卿の人が言うには、教皇になる人はあらかじめ神様が決めているから、人間はそれを投票で具現化するような感覚らしいんですね。どっちかっていうと神託の籤に近い感覚なんだなあってびっくりしました」


 それでね、と流星が真面目な顔で俺を見つめる。


「シューキョーっぽいって思われたらヤなんですけど。やるだけのことやったら神様が一番勝てる選手を選んでくれるんじゃないかって、最近オレは思うんです。たぶん出れると思ってたのに選考から外れたときは、もし出てたとしても失敗してたんじゃないかって、……少なくとも、オレが出てたら枠を取れたのにって黒いことを思わなくはないですけど、実際にはたぶんないんですよね! もちろん決めてるのは連盟で、決める基準はオレたちの成績からの公正な計算なわけですけど」


 建前としてはそう。そう思っている。


 選手だって聖人君子じゃない。納得がいかない選考はたくさんある。ずっと順調に来ていたのにここ一番で転倒して代表枠が逃げて行ったときの悔しさは言うまでもなく、そこで場違いに実力以上が出てしまって今季調子が良かった選手を差し置いて選ばれてしまったら、それはそれでプレッシャーと中傷にさらされて死にそうになる。

 神様がいるかどうかは知らない。でも、そんなときは誰もが多かれ少なかれ、計算を超えた運命的なものを信じて、それに賭けてみようって、自分を奮い立たせているんだと思う。


 ふっと。無意識に笑みがこぼれた。


「解った。今回は俺の出る幕じゃなかったから、運命が補欠のあいつらを選んだんだな。じゃあきっと枠は大丈夫だ。俺も、篠山とカムイのこと、俺よりずっとすごい選手だって信じてる」


 な! と流星に笑顔を向ける。


 きっと一緒にハイタッチでもしてくれるかと思ったのに、今度はずーんと落ち込んだ顔をしているのは流星のほうだった。




「……やっぱり、やだ……」




「は?」


「勝山さんが取ってきてくれない枠なんて、そんで納得ずくの勝山さんなんて、解釈違いです……オレやっぱ、勝山さんに背中ドンと預けた気分で世界選手権出たかったですよおおおおおおお!!」


 突然の叫びが岩山にこだまする。


「…………は?」


 枠に解釈違いも何もないだろ。何を言ってるんだこいつは。


 慰めてくれたからそれに応えなければいけないと思ってカラ元気を出したのに、なんだこの反応は。気遣いが空回って宇宙猫みたいな顔になる。




「いや、ほんとなんなんだよお前は……」




   ◇◇◇



「岩泉さんって嘘つきだなー」


 からかうように声をかけられ、流星は思い当たりに顔を引きつらせながら振り向いた。


「何が……?」


 振り向くと丹波はいとも面白そうにニヤついていて、その笑顔が流星を逆撫でする。


「勝山さんが世界選手権代表に選考されたのはベテランゴリ押し加点だって、SNSでぎゃーぎゃー暴れてた奴らって、だいたいセンパイのファンだったんですよね? んで、勝山さんの悪口言ってる奴らとレスバして炎上してたじゃないですかー。センパイ、アレのことは言わないんですか?」


 息を呑む流星の顔を見ながら、丹波はいとも楽しそうにからかった。


「前代未聞っすよ。自分の選出が長引いて心配したファンが暴走したからって、他選手叩いて流星を出せってわめいてる自分のファンのSNSに降臨して長文レスバでキレまくった人」


 そうして天使の笑顔で首を傾げる。


「勝山さんってあんまりSNS好きじゃないみたいですね、よかったですね、センパイ」


 流星はムッと顔をしかめて、丹波の肩をがッと抱きよせる。


「言えるか。お前も絶対に勝山さんには言うなよ?」


 仲良くじゃれあってささやいているように傍目からは見えるだろう。しかしその声はささやきにもかかわらず、ドスが聞いて悪戯盛りの後輩を強く脅迫している。


「ウス」


 丹波は答えながらも、その炎上事件のときの流星の、らしからぬ荒れっぷりを思い出してニヤニヤしていた。



「いやーあのときの岩泉さんはホント面白かったなー」


 丹波は反省の色もなさそうにまだあのときの発言を蒸し返そうとしている。

 流星は無言でその肩をドンと叩いた。笑ってない目が近かった。


「絶対言うなよ?」


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