5話 同期たち 前編
突然だがここで黒瀬陽菜という人物についてお話ししようと思う。
郊外の比較的のどかな地域に産まれた彼女は保育園に通っていた頃大変なやんちゃ少女として地元で有名だった。
保育士たちが「泣く子の横に陽菜」ということわざを作ったほどである。
その有り余るエネルギーを発散させるために、
「合法的に人を棒でぶっ叩ける」
愛好家の方々が耳にしたら怒られそうな誘い文句で両親が始めさせた剣道が見事に陽菜を「礼節を重んじ、正義感あふれる少女」へと変貌させた。
小学校1年生の時はいじめられている同級生をかばった結果今度は自分が標的にされるも、証拠を集めた上でいじめっ子の自宅に突撃して親たちに暴露するという離れ業をかまし
「黒瀬とその仲間には手を出すな」
これがいじめっ子たちの間で共通認識となり本人だけでなく同級生も大変快適だったようだ。
中学、高校でもその姿勢は変わらず、毎年風紀委員に推薦されるような生徒だった。
さらに高校時代には剣道で全国優勝に加え国体選手にも選出。
黒瀬陽菜という名は県内はもちろん県外でも知られるようになっていた。
いわばスーパー女子高生というやつだろうか。
そしてスポーツ推薦で進学した市内の私立大学で転機が訪れる。
大学3年生の時に副将として参加した県警剣道部との交流戦での出来事だ。
副将戦で対峙した相手は女性警察官だった。
陽菜は過去に経験したことがないくらい、悔しさも湧かないほどにコテンパンに負けた。
礼をして下がって行った敵副将が面を外した時、その凛とした立ち振る舞いの美しさに陽菜の心は奪われた。
面を脱ぎ、手ぬぐいを解き、美しい黒髪を下す。
なんてことのない試合後の一連の動作がまるで一枚の絵画が描かれる過程を見ているような、そんな錯覚に陥ったのだ。
交流戦が終わり懇親会が始まると陽菜は一直線にその剣士の元へ向かい
「あ、あのっ...!私も警察官になれますか...!」
____
「.........通していただきたいのですが」
「...................」ジーッ
雪がちらつく日も増えてきた2月。
配属から4カ月を経た巡査達は実地勤務で得た経験を基にさらに専門的な訓練を積むため、後期訓練として再び警察学校に集まっていた。
今日からまた2か月間の厳しい寮生活を同期生達と送ることになる。
入校式が執り行われる体育館へ続く廊下の途中。
勇一は廊下の真ん中で腰に手を当て仁王立ちしながらジト目で睨みつけてくる女子に行く手を阻まれていた。
「...入校式始まりますよ。初日から遅刻なんてまじめなあなたが許せるんですか?」
「随分と調子が良いみたいじゃん。期待の大型ルーキー?」
「ありがたいことに評価して頂いています」
「ッ!余裕ぶって...。今回の修了試験は絶対私がトップになるから!!」
黒瀬陽菜。
学生時代の経歴もあり当初は主席候補として噂されていたが、もともと優秀だった紺野勇一という人物が初夏頃からさらに好成績を叩き出すようになり結局卒業まで次席というポジションだったことが悔しいからか勝手に勇一をライバル視しているようだ。
後頭部の下で一つ結びにした肩より少し長い黒髪を揺らしながらビシィと勇一の眼前に指を差すと、踵を返してさっさと体育館へ入っていく。
(なんなんだ…)
最初の訓練期間でもやたらと絡まれたが、今回もさっそく絡んできた。
口数が少なくあまり他者と積極的に交流しない勇一にとってはめんどくさいの極みだった。
「紺野〜。あとお前だけだ、早く入りなさい」
「すみません、すぐ行きます」
体育館入口から教官が顔を出して勇一に入るよう促す。
若干の不満を抱きつつも気にしないようにして陽菜に続いて体育館に入った。
「……………」
「何その顔」
席は自由だが、流石は警察官。
空いてる席に前からきっちりと詰めて座っていき、入り口側最後列の角が必然的に空く。
陽菜が入り、次に入る勇一が最後。
つまりそういうことだ。
「特に何も」
「何もないようには見えないんだけど?」
勇一はあまり感情を表に出さないタイプだがどうやら露骨に嫌そうな顔をしていたらしい。
「座ったら?席ここしかないし」
陽菜に促され、不本意だが椅子に腰掛けると全員の着席を確認した教官の真壁警部が教壇に立った。
「__誰も欠けることなく貴官らにまた会えたこと、嬉しく思う。実際に現場で職務に当たり、出来たことや出来なかったことは各自の胸の中にあるはずだ。実際の現場は学校とは訳が違うことを痛感した者もいるだろが、今日からの2ヶ月で出来なかったことを『出来ること』に変えられるよう我々がミッチリ指導するので、一同真摯に取り組むように。それから」
入校式の挨拶として口上を述べた真壁が勇一にチラリと視線を向け、
「紺野巡査。起立しなさい」
「えっ?あっ、はい!!!」
突然指名され一瞬戸惑ったが大きく返事をして立ち上がり、気をつけの姿勢を取る。
「皆も耳にしているだろうが、紺野巡査は配属されてすぐに強盗犯の制圧、付きまとい事案の解決、数年前から地域の小売店を悩ませていた万引犯の摘発など、素晴らしい活躍を見せている。皆も負けぬよう今回の訓練を自身の糧にして欲しい。がんばってくれ。__以上!全員起立!敬礼!!」
公開処刑だ...などと思いながら背筋をピンと伸ばし頭を下げ敬礼の姿勢を取る。
「_直れ!!以上で入校式を終了する!!各自部屋で用具確認と身の回りの支度を整えたら90分後に校庭に集合すること!では一時解散!」
真壁の号令が終わると各々席を離れ部屋に向かう。
勇一も右下から飛んでくる『ぐぬぬ』という恨めしそうな悔しそうな感情を無視し体育館から外に出た。
暖房が切られた体育館もそれなりに寒かったが、外に出ると近くに大きな川があることも関係しているのか、格段に寒い。
勇一はスキルのおかげで平然としているが、周りの同窓生たちは小走りで宿泊棟へ向かう。
宿泊棟は全部で3つ。
男子寮は北と南館の2つに分かれ、北館の奥に体育館を挟んで女子寮がある。
北館は高卒採用の警察官たちが使用しているため勇一含む男性警察官たちは体育館から一番遠い南館で寝泊まりするようになる。
南館昇降口の下駄箱で靴を履き替えて中に入ると、目の前にある掲示板に部屋割り表が張り出されていた。
2~4人部屋の割り振りになっており、勇一は2人部屋に割り当てられていた。
(ほっ...)
部屋人数が多いと色々気を遣うことが増えてしまうため出来れば2人部屋が良いと思っていた勇一は静かに胸をなでおろした。
前期訓練時は4人部屋だったため転生当初は非常に気を遣い、しばらくの間心が休まらなかったことが随分堪えたようだ。
南館は1階に大浴場と食堂、ミーティングルームがあり2階から4階が寮生が寝泊まりする部屋になっている。
部屋割り表によると勇一の部屋は2階だった。
早速階段で2階に上がり部屋へ向かい、扉を開ける。
残念ながらこの世界にはラブコメ展開は存在しない。
先に部屋で身支度をしていたのはちゃんと男性警官だ。
「紺野!また一緒じゃんよろしく!」
「うん、よろしく谷口」
先程、勇一が部屋割りを見て胸をなでおろしたのにはもう一つ理由があった。『相部屋誰?問題』である。
部屋割り表に《202 紺野・谷口》と書いてあるのを確認し、2人部屋であることと前回の4人部屋で同室だったこの男、谷口歩と今回も同室だったことが勇一に大変な安堵をもたらしていた。
室内は結構広く、タンスと合体したようなカーテン付きのシングルベッドが2台と、自習用の学習机が人数分、小物ロッカーに電子ケトル、簡易洗面台まである。
奥のベッドを谷口がすでに占拠しているため、勇一は入口側のベッドに手荷物を置き、荷解きを始める。
着替えを棚に移し替えながら谷口が話しかけてくる。
「すげぇじゃん紺野。俺んとこにもお前の噂きてるぜ」
「指導担当が優秀な方だから、そのおかげだと思う」
「秋山さんなぁ、羨ましいなぁ!俺なんか__」
人口約2.5万人、県北部に位置する咲作市の咲作警察署に配属された谷口は、自分がどんな職務に当たっているかをこれでもかというくらいに吐き出し始める。
「でな、前田のじいちゃんって呼ばれてる人がいてさぁ。もう何回繰り返すんだってくらい牛を脱走させるのよ。で、奥さんが慌てて駆け込んできたらシゲさんと縄を持って軽トラでとっ捕まえに行くんだよ。もうほんと毎日へとへとでさぁ。終わったら終わったで村の連中が駐在所に来て集会所に拉致られて宴会みたいなのが始まるし」
『シゲさん』というのは谷口の教育担当の警察官、山下重敏のことだ。谷口と山下は咲作警察署管内の駐在所に配属されており、担当地域の世帯数はおよそ250世帯。
棚田が広がっており稲作が主に行われているのどかな田園集落だ。
地域住民の実に8割が60歳以上と平均年齢が高い小集落に20歳そこそこの若い警察官が配属されてきたものだから、配属初日に集落総出で歓迎してくれたようで、今でも集落の年寄連中から孫のようにかわいがられているらしい。
「あと難波のばぁちゃんがさぁ__」
延々と自分の配属先について愚痴を続けているように思えるが、その語り口は実に楽しそうだ。
「谷口」
「ん?」
「良い所なんだな」
「...おう!」
勇一の問いかけに谷口はにっこりと笑って見せた。
この男は実に人当たりがよく、コミュニティに溶け込むのが大変に上手だ。
生前の勇一の記憶をいくらかは引き継いでいたとはいえ、慣れない環境と集団生活に苦労していた時にずいぶん助けられたことをよく覚えている。
「なんだその他人行儀なしゃべり方は!!!」
と、谷口に対する話口調だけ強制的にタメ語にされ、恐らく今のところこの世界でただ1人勇一が砕けた口調で話せる人物だ。
成績は中位でお調子者な一面も持っているが、リーダーシップがあり同期の巡査達から頼りにされている。
「よし、一通り終わったな。げ、もうこんな時間だ。さっさと着替えて行こう。真壁さんにどやされる」
「うん、俺も終わった。行こうか」
口を動かしながらもきっちりと手も動かしていたので用具整理は滞りなく終わった。
「襟よし、階級章よし、帯革装具よし__」
2人は素早く制服に着替え相互点検を実施。
これを怠ると寒い校庭で公開処刑を喰らう羽目になる。
「ん、オッケー。じゃあさっさと行こうぜ」
「谷口、ちょっと待ってくれ階級章が0.7㎜傾いてる」
「いやこまけぇよ!!」
___校庭に出ると朝礼台の前に2列横隊で整列する。
整列した訓練生たちの前を教官が一人ずつ装具を確認しながら通り過ぎていく。
これが通常点検と呼ばれる確認動作で、初期訓練でも毎朝行っており機敏な動作
や凛とした姿勢を身体に叩きこむために大切な訓練だ。
不備があっても「貴様の心臓は右にあるのか」などと言って失神させられる事はないが、かなり詰められる。
「...?」
ふと、2列横隊後列に並んでいる勇一が斜め前を見ると陽菜が警察手帳を左手に持ち点検待機姿勢を取っているのが目に入ったが、シャツの後襟がそれはそれは見事に
ピンと立って上着からはみ出している。
(部屋で相互点検をしなかったのか...?)
点検が始まっている状況で陽菜に直接話しかけるのは非常に難しい。
しかし見つけてしまった以上は無視して陽菜が詰められるのを黙って見ているのも面白くない。
勇一は素早くグラウンドの土から少し大きめの砂粒を拾うと、陽菜の後頭部めがけてピンッと弾き飛ばす。
「いっ!?」
一直線に後頭部に吸い込まれていった砂粒は思いの他衝撃を与えたようだったが、狙い通り陽菜がぐるりとこちらに顔を向け勇一と目が合った。
(なにすんのよ)
口パクで何やら文句を言っている陽菜に勇一は自分の後ろ襟を指差して口パクで合図を送る。
(えりがでてる)
「えっ、嘘っ」
慌てて自分の襟を触る陽菜。
後ろ襟の異常に気付き急いで綺麗に直すと再び勇一の方に向き直り、
(ありがと)
少し照れ気味にそう口を動かし微笑む陽菜に勇一が
(まえみろ)
「えっ」
陽菜が前を向くと、真壁がにっこりと張り付けたような笑顔で陽菜を見下ろしている。
「あっ」
「黒瀬ぇ~なんだお前紺野と仲良しだなぁおい」
襟を直したら大人しく突っ立ってたら良いものを、律儀な性格が裏目に出てしまった。
「いえっ、申し訳ございません!!」
「前期訓練を1位2位で修了して弛んでるなお前ら!!!
黒瀬!紺野!!校庭10周走ってこい!!!」
校庭は400mトラックがすっぽり入るほどに広く、1周大体7~800mくらいはあるだろうか。
10周となると10km近い距離を走る計算だ。
俺も!?と思わず口に出しそうになったが、流れるような動作で列から一歩下がり、握った手を腰横に据えて校庭の端へ向けて走り出すと横目に腹を抱えて笑っている谷口が映って一発小突きたくなったが、そこにすかさず真壁が立ちはだかる。
「どうした谷口。お前も走りたいのか?ん?」
「走りたくありませんっ!!」
「ならさっさと確認姿勢を取らんか!」
「はっ!!!」
どうやら谷口は無罪放免のようだ。
面白くない。
点検の声が遠ざかり、校庭端に敷設された防球ネットに沿い進行方向を変えたところで陽菜が隣に並んできた。
「...ごめん、巻き込んじゃって」
また突っかかってくるかと思ったが、自分の不手際を正してくれた勇一を巻き込んでしまったことに後ろめたさを感じているのか陽菜は素直に謝罪してきた。
少ししょんぼりしている。
「普通に走れば1時間くらいでしょう。座学よりも体を動かしている方がだいぶマシです。朝早かったんで」
勇一が本気を出せばオリンピック選手も裸足で逃げ出すくらいのタイムで走れるが、目立ちたくないし陽菜も一緒に走らされている以上身体強化を使うわけにもいか
ないので、一般的な成人男性ほどのペースで走る。
「それもそうかぁ。はぁ、まさか内襟が出てるなんて」
「相互点検はしなかったんですか?」
「当然したけど、特に何も指摘されなかったの。でもまぁ、自分で気づけないとダメだね」
谷口は絶対にそんなことはしないが、中には相手より少しでも良い評価を得たいがために服装の乱れを敢えて隠すような者もいる。
「服装の乱れを指摘せず恥をかかせようとするなんて警察官にあるまじき愚劣な行為ですね」
「そこまで大げさに言わない。本当に気付かなかっただけかもしれないし、それに本来は相互確認しなくても完璧にするのが普通だしね」
確かに、相互確認で指摘しないのは警察官にあるまじき行為ではあるのだが、陽菜の言うこともまた正しい。
相互確認なくとも完璧に仕上げるのが理想だ。
「一つ紺野君に貸しができちゃった。紺野君の装具が乱れていたら今度は私が石を投げてあげる」
「それはないので遠慮しておきます」
「あああ!むかつく!!!」
きー!と声を上げながら走る速度を速め勇一より前に出る陽菜。
どうだと言わんばかりに後ろを振り返って勇一にドヤ顔をかますが、一瞬で追いつかれる。
そしてまた陽菜が前に出て、一瞬で追いつく。
そんなやりとりを何回か繰り返したところで、前を走っていた陽菜が急にぴたりと止まる。
「どうしました?」
「...痛い」
陽菜の足元を見てみると、スラックスの裾からわずかに見えているソックスに血が滲んでいた。
なんやかんやしながら走ることおよそ30分。
5週目の途中だったがそもそも装具点検のまま走らされているため、靴は当然革靴だ。
変なペースで走ったら靴ズレを起こしてしまったらしい。
「とりあえずあの花壇に座りましょう」
「でも...」
「10週走れと言われましたが、休んではいけないとは言われていません」
屁理屈と思うが痛いものは痛い。
腑に落ちない様子ではあるものの、陽菜は校庭端に作られた花壇に腰掛けた。
靴を脱いでソックスをずらすと、かなりひどい擦り傷になっていた。
「全く、革靴で無茶な走り方をするからですよ」
と陽菜を諭しながら、勇一は胸ポケットからびよーんと連なっている絆創膏を取り出した。
「な、なんでそんなもの持ってんのさ」
「あぁこれですか。最近交番の前を毎朝通る小学生の女の子がいてですね、しばしば擦り傷をこさえて帰ってくるものですから取り出しやすいようにしてて」
ミサキはかなり活発な子供のようで、下校時に膝からよく血を流している。
救護箱からいちいち絆創膏を取りだして渡すのがおっくうになり、胸ポケットに常備
するようになった癖がここで役に立ちそうだ。
「ふーん。紺野君って意外と親切なんだね」
「意外とは失礼な。これでも世界を一つ救ってますから」
「ゲームのやりすぎじゃないの?」
RPGのクリアを「世界を救う」と表現することもある。
おかげで前世の体験をつい口走った時も「ゲーム好き」ということで片付くのは実にありがたい。
絆創膏を包みから取り出し、剥離紙を剥がそうする勇一に陽菜がストップをかける。
「あっ、自分で貼るからっ…」
革靴で走って蒸れた足を触られるのは確かに女子としてはかなり嫌だろう。
その気持ちを汲んだ勇一は、包みを開けた状態で何枚か陽菜に絆創膏を渡す。
「歩けそうですか?」
「うん、ありがとう」
傷口をしっかり絆創膏で覆い、履き直した靴を地面にトントンしながら様子を確かめる。
「さ、もうひと踏ん張り行こ!」
「変な走り方したら今度は反対の足を痛めますよ」
「わ、わかってる!」
足の痛みは多少解消されたものの、水分も取らなければと思っていたが、教室へ移動して誰もいなくなった朝礼台のところにいつの間にかスポーツ飲料が2本置いてあるのに気づいた。
真壁の取り計らいだろう。
「教官って何だかんだ言って優しいよね」
「目配りも効いてますし、流石教官に選ばれるだけはあると思います」
「それにしても紺野君さぁ」
飲み物をありがたく飲んでいると、ジーっと陽菜が勇一の顔や身体を見てくる。
「何ですか?」
「汗ひとつかいてないんだね。余裕そう」
「まぁこのくらいのペースなら全然苦ではないですね」
特に悪気はないのだが、陽菜に合わせてペースを落としているという感じに伝わってしまったようで、フン!と鼻を鳴らしてまたさっさと走っていってしまった。
「だからなんでそう、意地を張るかなぁ…」
その呟きは聴こえてはいないはずだが、くるりと陽菜が振り返ってあっかんべーをしてくる。
仕方のない奴だと思いながらもペットボトルの蓋を閉めて朝礼台に置き、並んで走る必要は全くないのだが、陽菜に追いつくために少し早めのペースで勇一も走り出す。
「なぁっ?!なんでそんな早いの!怖い怖い怖い!」
勇一に追いつかれると、また陽菜がペースを上げて離すあぁ、これは反対側の足もそのうち痛めるだろうなぁ。
と思いながら少し面白くなってきた勇一は特に止めようともせずに続ける。
その様子を教室から谷口が微笑ましく眺めていることを知らずに、2人(主に陽菜)はわいわいきゃーきゃーと騒ぎながら走り続ける。
残りは4kmほど。
「ずいぶん楽しそうだったなお前ら。まだ走るか?」
と、真壁に詰められるまであと30分___
谷口歩 23歳
身長178cm
好きなお酒はハイボール
山下重敏 警部補 58歳
身長168cm
愛してるお酒はジャパニーズウイスキー
駐在所なので、谷口君とシゲさんは一緒に生活しています。
お酒が好きな2人は金曜日の夜にお気に入りのおつまみを買ってきて晩酌するのが習慣。
シゲさんは秘蔵の高級ウイスキーを勝手にハイボールにして飲まれたことに
激怒して、拳銃を持って夜通し谷口君を追い掛け回したことがあります。
警察学校編、もう少し続きます。




