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3話 音が違います

迷子犬ハルの保護からおよそ1ヶ月が経った笹野瀬駅前交番。

酔っぱらいのけんかの仲裁は何度かあったが特に大きな事件やこれといった出来事はなく比較的暇な、

もとい平和な日々が流れていた。


変わったことといえば交番の前に朝立っていると挨拶をしてくる少女が増えたことくらいか。


「あー。秋山さんまたあくびしてるー」

「うるせぇな。昨日は班長会議があって帰るのが遅かったんだよ。全く、意味のねぇ議題をぐだぐだと。年寄連中は無駄な話が好きで困る」


最初は丁寧口調の秋山だったが、学校がある日はほぼ毎朝こうしてミサキに絡まれるものだからすっかりくだけた口調になっていた。

普段はキリっとしている秋山も月に1~2回ある班長会議の翌日は少々だらしない。


「おはようございます」

「紺野さんおはよう!」


交番の奥から出てきた勇一とも打ち解けている様子だ。


「道草していると遅刻しますよ」

「あ!!ほんとだ!行ってきまーす!!」


交番の時計を見てミサキが慌てて走り去っていく。

すっかりここ最近のルーティンと化している。


「毎日毎日飽きねぇなあの子も」

「地元住民に慕われる警察官、親しみのある交番というのは良いことだと思います」

「ま、そういうところから防犯に繋がることもあるし、一理あるか」


交番勤務の警察官はいわば地域防犯の要だ。

毎朝交番の前に立って通り過ぎていく人々に挨拶をすることも地域住民の安寧につながるならば、と勇一は毎日欠かさず行っている。

秋山はそんな勇一をまじめな警察官だとちゃんと評価している。


今日も通勤通学の人通りがひと段落つき交番の中に戻ろうとしたとき、

交番の無線が受信音とともに声を発した。


『中央署通信指令室より 駅前交番各位 小売店より私人逮捕通報 現場に急行されたし 場所は~』


「おっと、久々に来たな」

『了解 秋山・紺野両名 直ちに現場に向かいます』


指令を聴いた秋山が無線で返答し、被り物を帽子からヘルメットに変える。


「秋山さん、小売店の私人逮捕ということは」

「ほぼ万引きだ。おおかた店員が捕まえたってことだろう」

「小売店関係者の生活を脅かす悪質極まりない犯罪ですね。盗人は断じて許せません。行きましょう」

「うんまぁ、あまり肩の力入れすぎないでね?」


___


新鮮な生鮮食品を多く取り扱っており、地元民に長年愛されているスーパー、新鮮一番たむら。


2人は到着すると駐輪場に自転車を置き、

外で待っていた従業員に案内され店内奥のバックヤードに案内された。


「こちらです」


従業員が扉の前で勇一と秋山に中に入るよう促すと勇一がコンコンと2回ノックし、ひと呼吸置いてからドアを開け秋山と2人で中に入った。


「...失礼します」


中に入ると6畳ほどの広さの部屋の壁際にテーブルがあり、

ムスッとした表情で腕を組みながら座る50代半ばくらいの女性とその向かいに座る男性、

男性の後ろに立っている若い女性がこちらに顔を向けた。

テーブルの上にはカバンと買い物袋の他、何点かの食品や日用品、そしてレシートが置かれている。


「あぁ、お待ちしてました。私は店長の西野、こちらはアルバイトの吉崎です」


男性が立ち上がって頭を下げ、自己紹介をする。


「笹野瀬中央署地域課の秋山です」

「同じく紺野です」


座っていた男性とその後ろの女性がこの店の関係者となると、

向かいに座っている女性は今回の被疑者だ。

西野は二人をテーブル脇に置かれたパイプ椅子への着席を促し、勇一と秋山はそれに従った。


「さてと、ではお話を聞かせて頂けますか?」

「はい、今日の「冤罪よ!!!!何も盗ってないのに呼び止められてここに連れてこられたの!!」


秋山が西野に経緯の説明を求めると、それを遮って女性が激しい剣幕でまくし立てた。


「どういうことです?」

「私は何も盗ってない!!普通に買い物してレジでお金を払って外に出たらそこの女に盗人呼ばわりされたのよ!!」

「ですが...私は確かに商品をカバンに入れるところを見たんです」

「何回同じことを言わせるの!カバンからは何も出てこないじゃないの!」


大声を出しながら女性はカバンをひっくり返して振って見せるが何も落ちてこない。

なるほど状況は2人のこのやり取りだけで容易に推察できた。

つまり、店頭で作業していた吉崎が買い物客の不審な動きを目にし追跡、

万引き行為を目撃したため女性が外に立たところで声をかけバックヤードに連れてきたが、

カバンにはスマートフォンと財布、買い物袋にもレシートに記載された商品しかなかったというわけだ。

確かにこの状況では被疑者の女性が怒りをあらわにするのも頷ける。

しかし、店側としてもこのまま帰らせるわけにもいかず、警察に通報し改めて確認してもらおうということになったようだ。


「防犯カメラの映像はチェックされましたか?」

「はい、チェックしましたがそれらしい動きは映っていませんでした」


秋山の質問に西野が答えるが、まぁそうだろうなと思った。

万引き犯はよほどの素人じゃなければ監視カメラの死角を把握している。

決定的瞬間が映っていることの方が珍しいからだ。


「そうですか、では我々の方で改めてこの商品とレシートの照合と、そのカバンの中を見させていただいてよろしいですか?」

「ええどうぞ。しっかり見てちょうだい」

「ではカバンを失礼しますね。紺野、お前はレシートと商品のチェックを頼む」

「わかりました」


指示された勇一はテーブルに置かれた食品と日用品をレシートに印字された商品名と照らし合わせ、

その隣で秋山はカバンをテーブルに置いたまま開いて中を見る。高級ブランドのロゴがでかでかとあしらわれた重厚なカバンだ。

中身はすべて出されているのかメインポケットは空で底が見えている。

そこを触ってみても布の下の固い下地の感触があるだけで特に違和感はない。

サイドポケットの中も開けてみたが特に何も入っていないように見える。


「こちらは特に問題ないように思います。秋山さんは?」


買い物袋のチェックを終えた勇一が秋山に声をかける。


「こっちも何もないな。ポケットにも何も入ってねぇ。」

「そんなっ...だって」

「だからさっきから言っているでしょう?店長さん、この責任どうするおつもりかしら」

「えぇ...そうですね...ちょっと私の一存では何とも」


吉崎は確かに見たと主張するが何も出てこない以上はどうすることもできない。


「ねぇお巡りさん。これって誤認逮捕よね?慰謝料請求できる?」

「慰謝料...」


女性が秋山らに投げかけた言葉を聴き、伏し目がちだった吉崎の表情がさらに青くなる。


「いやぁ、民事訴訟に関しましては私共では何ともお答えできないものでして」

「秋山の言う通り、我々警察官は民事訴訟に関しましては原則介入できませんので、ご自身でしかるべき機関にご相談いただく形になろうかと思います」


秋山と勇一がそろって女性の質問に応える。


「あらそう。まぁいいわ。じゃ、もう帰っていいのね?お店の方には弁護士を通して連絡させてもらうことにするわ」

「あ、あの!この度は当店の従業員が大変なご無礼をいたしまして、誠に申し訳ございません...」

「あら、店長さんが謝ることではないわ。ねぇ?」


女性はうつむいている吉崎に問いかける。


「あの...私の勘違いで、申し訳ございませんでした...」


泣きそうなのをぐっとこらえるような声音で吉崎が謝罪の言葉を絞り出す。

その様子を見て女性は満足そうにフンと一度鼻を鳴らし


「ま、あとはそちらでやってちょうだい。私は帰るわ。全く、予定が全部パーになっちゃったじゃないの」


ぶつぶつと文句をたれながらテーブルの商品をビニール袋に放り込むと、それをカバンと一緒に手で掴み椅子から立ち上がろうとしたとき、勢い余ってカバンがぶつかりガシャンと大きな音を立てて椅子が倒れた。


「あら、ごめんなさいね」


手荷物を床に置き、椅子を直すと再び荷物を持って扉の方へ歩き出そうとした女性を


「待ってください」

「......まだ何か?」


勇一が呼び止めた。


「そちらのカバン、もう一度拝見させていただいてもよろしいですか?」

「...紺野?」


ついさっき秋山が何も入っていないことを確認したカバンをもう一度見せてくれと頼まれ、女性は盛大にため息をついた。


「はぁ...なんなの?さっきそっちの警官が見たでしょ?もうこれ以上時間を無駄にされたくないのだけど?」

「えぇ、確かに秋山が拝見いたしましたが私がまだ見ておりませんでした。原則二重チェックを行うようになっておりますので、すみませんがご協力いただけますか?」

「ふん、もういいわよ気が済むまで見て頂戴。...ねぇ、秋山さんって言ったかしら?何も出てこなかったら苦情を入れさせていただきますからね」

「えぇ、()()()()()()私の方からたっぷりと言い聞かせますので」


秋山のその言葉を聞いた女性はカバンをテーブルに置き、再び椅子に座った。


「ありがとうございます。では失礼いたします」


勇一はカバンの口を開き、スマートフォンと財布などの私物を取り出してから


ビリィイイ....


「「「「???!!!」」」」


躊躇なくカバンの底を引き破った。


「こここここ紺野ぉ!?なななな何やってんだ?!!」

「あなた!!持ち主の目の前でいきなりそんな!!!」

「....!!」


目の前で起きたあまりの出来事に秋山はもちろんだが西野と吉崎も動揺を隠せない。

だが一人。今起きたことに対し一番激昂するはずの人物が妙に静かだ。


「やはり二重構造でしたか」


そう言いながら勇一はカバンの中から黒いプラケースのようなものを取り出した。


「開けますよ?」

「................」


女性からの返事はないが、勇一がケースを開く。

ケースからはレトルトパウチ入りのキャットフードが4枚出てきた。


「さて、ご説明いただけますか?」

「これは、あれよ、別の店で買った物なの」

「値札に新鮮一番たむらと書いてありますが」


勇一の質問に咄嗟に応えた女性だったが、これは特価商品だったのであろう。

パウチには黄色い値札シールが貼られており、店名がしっかりと印字されている。


「~~~~~っ、わかったわよ。払えばいいのよね?おいくら?」

「いえ、窃盗の疑いがありますので、警察署にご同行願います」

「なんでよ!払うって言ってるでしょう?!たかが千円ぽっちじゃない!」


開き直ったように代金を支払うと言い出すもそれが許されるはずもなく。


「いいえ。金額がどうこうとかそういう問題ではありません。商品を不正に店外に持ち出した時点で窃盗となりますので」

「ねぇお願い!許して!!許してください!!お願いします!!」

「それを決めるのは私ではありませんので」

「ああああああああ!!もぉぉぉぉぉぉ!!!!!」


女性は勇一に許しを請うもバッサリと切り捨てられ頭を掻きむしってテーブルに突っ伏す。


「秋山さん、署に連絡してパトカーを手配してください」

「お、おう...」


取り乱す女性を気にも留めず、勇一は淡々と手配を進めていく。


「署に着いてからでも良いのですが、連絡の付くご家族の方はおられますか?」

「?!ダメ!!ダメよ!!家族には言わないで!!」


身元引受人の話を始めると激しく動揺するそぶりを見せ、


「と申されましても、身元引受人は基本的に同居のご家族の方になって頂くようになりますので」

「嫌!嫌よ!夫には、夫にだけは言わないで!!」


相当動揺してしまったのだろう、家族の存在を漏らしてしまう。


「なるほど、ご主人がおられるのですね」

「いやぁぁぁ、お願いよぉぉ許してぇぇ」


そしてとうとう泣き出してしまった。なんだか悪いことしている気分にもなってしまいそうだ。

しかし、泣いたからといって勇一は止まらない。


「なぜご主人に知られてはいけないのですか?」

「当たり前でしょ!!こんなこと知られたら愛想尽かされるに決まってるわ!!」

「でしょうね」


普段通り話している勇一だが、この女性には氷のように冷たく感じられたことだろう。


「でしょうねってぇ...もういやぁぁ...」

「ご自身でも理解されてらっしゃると思いますが、今回貴女がやったことはそれだけ重いということです。自分がやったことの責任は自分で取らなければなりません」

「いやだぁぁぁ...」


駄々をこねながらテーブルに突っ伏してしまった女性を勇一が諭していると、ドアがノックされた。


「紺野、パトカー来たぞ」

「わかりました。さぁ、行きますよ」

「いや!!嫌ぁ!!あ!店長さん!!お願い許してぇ!お金払いますからぁ!」


さらに往生際の悪いことに今度は西野に許しを請い始めた。しかし


「すみませんが、貴女は大切な商品を盗んだだけでなくお店の宝である従業員にも酷い態度を取りました。断じてお許しすることは出来ません。自分の犯した罪と向き合ってしっかりと反省してください」

「店長......」


西野は女性の目を真っ直ぐに見てはっきり許さないと言い切った。

その言葉を聞いた吉崎の目から、ようやく一筋の涙が溢れた。


「というわけです。立ってください」


許してもらう最後の希望も潰え、すっかり脱力してしまった女性を勇一と秋山が両脇から抱えて立たせる。


「10時47分、窃盗の疑いで逮捕します」


諦めたように虚空を見つめる女性の手首に、ガチャリと音を立てて罪の輪が掛けられた。

そしてそのまま半分引き摺られるように扉の方へ移動し、外で待っていた応援の警察官に引き渡されていった。


___



「この度は本当にありがとうございました!!」

「ありがとうございましたっ...!!」


扉を閉め室内に向き直った勇一と秋山に、西野と吉崎が深々と頭を下げた。


「頭を上げてください。警察官としての役目を全うしただけですので」

「私に至ってはカバンを最初に確認したのに異変に気付けませんでした。全く情けない限りです。申し訳ございません」


いつもの調子でサラリと答える勇一の横で秋山が頭を下げる。


「そんな...!秋山さんが謝られることはないです!我々も何度も触ったのに全く気づきませんでしたので...!」


慌てて西野がフォローを入れると吉崎が疑問を口にする。


「それにしても、紺野さんはどうしてカバンが二重底になっていることに気づいたんですか?」

「確かに、俺も中を見たし触ったが全然違和感がなかったぞ」

「音です」


「「「音???」」」


勇一の答えの意図が掴めず、3人とも首を傾げる。


「はい。最初に違和感を感じたのはあの人が立ち上がる時にカバンを椅子にぶつけましたよね?その音が妙に重かった気がしたんです。スマホと財布しか入ってないのに」

「うーん...?そうかぁ?椅子が倒れた!って事に気を取られて音なんか全然耳に残ってないわ」


秋山の言葉に西野と吉崎もうんうんと頷く。


「次は椅子を起こす前にカバンを床に置いた時ですね。コッって硬い音がしたんです」

「うん、さっぱりわからん」

「私も...全然わかりませんでした」

「同じく...」


秋山、吉崎、西野はここでも特に違和感を感じてはいなかったようだ。


「それでその音の正体を確認しようと思って呼び止めたんです。その後もう一度テーブルに置いた時にも同じ音がしたので、そこで何かあるなと確信したのですが」

「うん、続けてどうぞ」


もうお手上げと言わんばかりに秋山が手で続きを促す。


「はい、実際にカバンを触ったら外側は底の部分も全て革で覆われていたので、普通は硬い音は出ないはずなんですよね。というわけで中に何かあると思って内側から引っ張ったら上手いことマジックテープで布が貼り付けてあったというわけです」

「なるほど、あの人が商品をカバンに入れるのを私が見た時、何回か手を入れてゴソゴソしていたのはマジックテープを貼り付ける動きだったんですね!」


吉崎が合点が行ったと言わんばかりに声を上げると、その通りだと勇一は頷いた。


「あ、カバンの底は引き裂いたわけではないのね」

「当然です。たとえ()()といえども個人の所有物を故意に破損させたら器物損壊を問われても否定できません」


壊したカバンをどうしたものかと気を巡らせていた秋山の少し安堵した言葉に対し、またサラリとこの男はとんでもないことを口にする。


「え?あのブランドバッグ、偽物?」

「はい偽物です。先月百貨店のショーウィンドウに同じデザインのカバンが飾られているのを見ました。それと比べたら縫製はガタガタですし、ロゴのフォントも違いますね」

「お前マジでどこまで物事を見てんの?怖いわ」


徐々に慣れてはきているが、勇一のとんでも能力にやはり秋山はドン引きだ。


「警察官たるもの、どんな些細な変化も見逃さぬよう細部まで目を光らせよ。と、警察学校の教官にご指導いただきました」

「目を光らせるレベルが教官の想像を超えてそうだけどな」

「とても熱心にご指導いただき感謝しています」


ここまでの逸材を育て上げた人物とはいったい何者か、

と秋山は紺野の担当教官に少々興味を抱くのであった。


「少し話が逸れましたが、とにかく盗品が見つかってよかったです」

「いやぁ、素晴らしい観察眼と耳をお持ちですね...今日お二人に来ていただけて本当によかったです」


西野は本日イチの笑顔で勇一と秋山の手を交互に取り、ぶんぶんと縦に振った。


「私も、民事訴訟になってたら、もしかすると大学も辞めないといけなくなっていたかもしれません、本当にありがとうございます」


おそらく最も気が気でなかったであろう吉崎。何度目だろうか、勇一に感謝の意を述べる。


「学業に励みながらアルバイトに励む、勤勉で善良な市民の生活を守ることができてよかったです」

「紺野さんって面白い方ですね」


いつも通りクソ真面目な返答をしながら美しい敬礼を見せた勇一に、吉崎はクスリと笑った。


「ではそろそろ我々も戻らせていただきます。西野さん吉崎さん、容疑者の取り調べは署の方で行っておりますが、もしかしたら余罪があるかもしれないので、捜査で必要になりましたらまた別の警察官がお話を伺いに来るかもしれません。その時はどうかご協力をお願いします」

「はい!私共にできることならば何でも!」


カバンに細工までして用意周到な犯人のことだからおそらく余罪もたっぷりあることだろう。

協力を依頼した秋山に西野は力いっぱいに返事をし、それを受けた秋山が微笑みながら頷き、二人は事務所を後にした。


___


「いやぁ...今日は紺野サマサマだな。それに引き換え俺はなんてザマだ」

「いつも秋山さんには助けていただいてますので、そのようにご自分を卑下されなくとも」


スーパーから交番に戻る道を、2人は自転車を押して歩いていた。

秋山が歩きたい気分だと言ったからだ。


「いや、本当にそうなんだよ、自分の未熟さを痛感したね。とんとん拍子に巡査部長になって少し浮ついていたのかもな。カバンの細工に気付けねぇとは」


的確な判断と抜群の行動力で物事を速やかに解決するスーパー警察官と署内で名高い秋山がずいぶんしょんぼりしている。


「あれは私も見ただけではわかりませんでした。秋山さんの落ち度ではないと思います」

「くそぉ...配属されたての新米に慰められるとは2重に情けねぇ~...」


勇一は慰めているつもりはないのだが、秋山はさらに肩を落とす。

いつもの秋山らしくない、何ともめんどくさいモードに突入してしまったものだ。


「私はまだまだ新人なので、足りない部分が多いです。秋山さんのように市民を安心させるような話し方も苦手ですし、とっさの判断もつい突っ走ってしまいがちです」

「......うん」

「よく言ってくださるじゃないですか。肩の力抜けって。秋山さんも少し肩の力を抜いても良いんですよ。今回はたまたま秋山さんに足りなかった部分を私がうまくフォローできたということです。それがコンビというものではないでしょうか」


実は秋山が新人警官の指導担当になるのは初めての経験だ。思えば勇一が配属されてから少し肩に力が入りすぎて「指導担当たる者、かくあるべし」という考えに囚われていたのかもしれない。

だから今回のようなミスに対し、必要以上に自分を責めてしまっていた。


「肩の力ねぇ...。ん、そうだな。もうちょい気楽にいくわ。

だってなんか、経験以外なんかすでにお前に負けてそうだし。嗅覚とか勘とか」

「秋山さんができないことは私がやりますので、上手く補い合っていきましょう」

「模範であり続けるのも疲れるしな」


優秀だ優秀だと言われ続けてきた秋山だからこそ、

「この超人的新人と組めば、彼はもっともっと優秀な警官になるかもしれない」

秋山を勇一の指導担当に据えた上層部にはそのような思惑がもしかしたらあったのではなかろうか。

足りないことを知ることによって人は飛躍的に成長するものだ。


「てか、お前ペーペーのくせに俺とコンビとか、生意気」

「え、コンビじゃないんですか?」

「さぁな!!じゃ、お先に!!」


少し照れ臭そうに捨て台詞を吐いて自転車でさっさと行ってしまう秋山。


「子供だなぁ......」


歩きたい気分と言っていたのに今度は自転車に乗ってさっさと行ってしまう秋山に、

置いてけぼりを食らった勇一は思わずそう呟いた。

しかし、なぜか今までより彼との信頼関係が増したような気がした。


勇一は少し口角を上げると自分も自転車に乗り、

少し寒くなってきた街並みを走っていった。

「...」←これってPCで打った時...とスマホで打った時…で表示される位置が違うことを初めて知りました。


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